【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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1章

7.朝食会

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 「ふう……今日はこれくらいでいいか」
 
 全て書いたところで、ペンを置く。この力を使うためには、俺の手書きでなければならない。更に契約書なので一言一句間違いは許されないため、神経をかなり使う。
 子供だったころは、ちゃんと書き続けないと犠牲者が出るという強迫観念に駆られていて大変だったが、今はあの時よりも依頼が減っているため、随分と楽だ。
 これはここに置いておけば、リティが回収する。これらを俺自身が所持すること許されていない。許されていない理由は簡単にいえば、俺の裏切り防止だ。
 契約書に使える羊皮紙は特殊な素材で作られているため、これを管理すれば俺が創れる魔法生物の量を調整できるという訳だ。
──狡猾なあの男らしい考えだ。

「あとは……」
 
 小さな鍵を取り出し、書机にある引き出しに差し込む。引き出しを引くとそこにあるのは、俺の日記だ。日記といっても毎日書いているわけではなく、言うなら愚痴日記だ。
 この悪党一家の一員でいるだけで、ストレスは相当なものなのだ。なんたって常識外のことを普通に行う奴ばかりだ。どこかに吐き出す場所が欲しいと思うのは、おかしいことではない。
 鍵をかけてここに入れておけば、まず見つからない。もし俺がいなくても、ノエルには最優先でここの管理を頼んでいるので、無理に開けようとしてもノエルが日記を処理してくれる。絶対に見られることもない。
 思う存分愚痴を書き連ねてから、満足して元の位置へ戻す。俺が一息ついて背伸びをした時、ノック音が聞こえてきた。
 
「ノエル。俺の専属使用人なら開けてくれ」
 
 ゴーストであるノエルは一切眠らない。どんなときでも声をかければ、すぐに対応してくれる。
 白い布が現れるとふらふらと上空を飛び、扉の鍵が開く音が聞こえた。そしてひとりでに扉が開いていく。
 
「おはよう、サタリア」
 
 アルヴェンが昨晩と変わらない態度と姿で部屋に入ってきた。
 ちなみに、さきほどのキメラの制約だが、アルヴェンにはいずれ効かなくなる。なぜなら、彼はラクトフェル伯爵家が造ってきたキメラの中でも唯一無二といっていい特別な存在だからだ。
 彼を造った父のムルダムは、今もただの白蛇を使ったと思っているが、この白蛇はただの蛇ではなかった。
 蛇は、初代ラクトフェル伯爵が最後に創ったとされる魔法生物だった。
 基本的には、キメラ製造のため魔法生物を丸ごと使うことはしない。大抵は血や牙など、一部分だけだ。俺がいなかったときは、あまりいなくて貴重だったということと、丸ごと使えば必ず副作用で失敗するからだ。
 しかし、魔法生物を丸ごと合成に使われたはずのアルヴェンはそれに適応し、成功した。
 人でありながら、限りなく魔法生物に近いアルヴェンは成長すると共にその力が増していく。そして原作では、ある出来事をきっかけに呪術の制約さえも打ち消すことに成功する。
 だから、アルヴェンは制約に縛られることなく、皇女と共にラクトフェル伯爵家を裏切れるし、復讐もできるということだ。
 
「昨晩も言ったが、言葉遣いに気をつけろ。私のことは、サタリア様と呼べ」
「なるほど。わかった、サタリア様」
 
 ……この男。従順なのか、反抗的なのかわからない。
 専属使用人を辞めたくなるよう虐める前に、今日は面倒な行事がある。
 既に身支度は終えていたので、書机から離れて扉のほうへと歩き出す。
 
「私についてきなさい。着いた場では決して喋らず、言われたことには素直に従え、いいね?」
「わかった。それでどこにいくんだ」
 
 従順なアルヴェンに違和感を覚えながら、彼の質問に俺は心の中で溜め息を吐いた。
 今から行くのは、本当なら行きたくない──月一で行われる家族での朝食会だった。
 
 ◆◆◆
 
 ラクトフェル伯爵家に与えられた領地は、他の伯爵家よりも随分と小さい。しかし、その財産は皇族と同等だと言われている。
 魔法生物を創り、売りさばいているのだから当然といえるだろう。そんな財力を誇示するように、屋敷は広く、装飾品や家財は一流のものしか揃えていない。
 それは今俺がいる食堂も同様だ。まるで宮廷を思わせるほどの壮麗な内装で、美しい細工は天井にまで及ぶ。長大なテーブルは十人が余裕で着席できるほどで、上には金縁の陶器や家紋の刻まれたフォークやナイフが並べられていた。
 そして、そのテーブルを見渡せるような真正面に座っているのが現ラクトフェル伯爵、俺の父であるムルダムだ。
 墨で染め上げたような真っ黒な髪色で前髪を後ろに撫で付け、額を晒している。その桔梗色の瞳にはどこか機械的で、感情は希薄だ。
 彼の一番近くに座っているのが、俺だ。そして、次に近いのが俺の兄であり長男であるバイス・ラクトフェル。
 癖のない真っ直ぐな短髪は黒色で、桔梗色の瞳は鋭く、恐ろしい顔で俺を睨みつけている。そして次にシン、チーク、サイラの順で三つ子が座っている状況だ。
 現状からわかるようにバイス兄上は殺したいほど俺のことが嫌いだ。
 バイス兄上、俺、三つ子は全員母親が違う。
 バイス兄上の母は、元は子爵家の娘だったが兄上を産んでからしばらくして、事故に遭って亡くなった。
 そして、次にやってきた男爵家の娘が俺の母親だ。彼女は俺を産んですぐに流行り病で亡くなった。
 次に三つ子を産んだのは、この家に仕えていたメイドの女性だ。彼女は三つ子を産んでから、すぐに行方不明になった。この行方不明というのが、怪しいのだが詳細は俺もわからない。
 とにかく、バイス兄上からすれば腹違いの弟に次期当主を奪われたのだから、彼が俺を恨むのは当然といえば当然かもしれない。
 しばらくは重苦しい雰囲気の中、食器の音だけが食堂内に響き渡る。
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