【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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1章

6.制約

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 アルヴェンの言葉で、リティに対して手の甲を差し出したことを思い出す。
 どうやらアルヴェンは、それが自分にもほしいようだ。
 少し悩みはしたが、正直今の体調は最悪だ。こんな状態でアルヴェンと揉めるよりは、適当に望みを聞いてやって早く部屋から追い出したほうがいい。
 そう考えて、先ほどと同じように片手を上げて、その手の甲をアルヴェンに差し出した。アルヴェンは意外にも恐る恐るといった様子で、俺が差し出した手を両手で掴んだ。
 その触れ方は想像以上に優しく、壊れ物でも扱うような慎重な手つきだった。そして、その唇をゆっくりと手の甲に落とす。
 そして、アルヴェンはそのまま暫く動かなくなった。
 ……こういうのはそっと触れて、すぐ離すものなんだがなあ。
 アルヴェンはいつまで唇を押し付けているのかと聞きたくなるほどに、長い時間そのままだった。

「そろそろ……っ」

 さすがの俺も痺れを切らして、文句の一つでも言ってやろうとした時だった。ぬるりと濡れた感覚が俺の手の甲を這う。すぐにアルヴェンが俺の手の甲を舐めたのだとわかった。
 絶叫して突き飛ばしたかったが、ぐっと自分の本性を押し込んで、乱暴にアルヴェンの手を振り払う。

「──なんのつもりだ。汚らわしい」

 俺が出来る限り冷たい声を出して、鋭く睨みつける。しかし、アルヴェンは意外にも、自分でも驚いているのか目を見開いたまま固まっていた。

「……悪かった、反省してる。油断してて、舌が出たんだ」

 アルヴェンの表情を見る限り本当にわざとではなかったようだ。油断して舌が出るという状況が俺には理解できないが、彼には蛇が混ざっているので、もしかしたらそういうこともあるのかもしれない。

「……もういい、出ていきなさい」

 俺が掌を払うように動かすと、アルヴェンは素直に頷いて部屋の外に行き、扉を閉めて出ていった。しかし、扉を閉める際も金色の瞳はじっと俺を捉え続けていた。
 俺はアルヴェンが出て行っても暫くはそのまま動かず、少ししてからベッドに倒れこんだ。

「なんだあれ。顔面の破壊力強すぎだろ……」

 主人公だけあってその容姿は、整い過ぎている。正直、好きなキャラにあそこまで近づかれるとやはり見惚れる。まあ男としては、次点で好きな美しい皇女にああいうことをしてほしいという気持ちはある。
 色々と考えなければならないことは多いが、今日はもう寝てしまおう。俺が寝返りを打つと白い布が空中に現れてノエルがそっと俺にシーツをかけてくれる。

「いつも悪いな、助かるよ」

 俺が声をかけると白い布がゆらゆらと大きく揺れる。それを視界の端で確認してから、俺は目を閉じた。
 どうせなら全てが夢であればいいのにと、小さく願いながら。
 
 ◆◆◆
 
 俺の目覚めはいつだって早い。
 起きると同時に、書机に向かう。そこには十数枚程の羊皮紙が積み上げられており、羽ペンを握りしめ、そこにペン先を走らせる。
 言葉の通り血が滲むほどに何度も書いた文章なので、詰まることなくすらすらと書ける。
 俺が今書いているのは、魔法生物を創るために必要な契約書だ。これは俺の力を使うためには、必ず必要になるものだ。
 俺は特殊な素材で作られた羊皮紙に、予め決められている文面を書く。
 彼らにそれを提示し、更に口した条件に納得できれば契約を結び、魔法生物として創造する。
 決められた制約内容は、自分の意思で人を傷つけない、自分の意思で殺さないこと。決められた主人には、裏切らず忠誠を尽くすこと。主人の秘密を口にしない等など、基本的なことだ。これらは呪文のように予め決められているので、追加は出来ても、変更することは俺にも出来ない。
 これらの制約を破れば、彼らは元の姿である命の欠片に戻る。彼らはどんなものよりもそのことを恐れているので、この制約を破ることは絶対にない。だからこそ、魔法生物の前では俺も演技をやめて、素でいることが多い。
 キメラも同様に制約をかけられているが、それは呪術によるものだ。そのため、破ろうとするだけで殺してくれと願うほどの激痛が襲い、そのまま長く苦しんで死ぬそうだ。そしてその制約の中には当然、ラクトフェル伯爵家の不利になるようなことはしない、という部分がある。
 因みにその呪術は、俺自身にもかけられている。ラクトフェル家の人間は生まれてすぐ、キメラに関する事実を知らない者には明かさないという制約がかけられるのだ。当然破ったりすれば、死ぬ。
 ラクトフェル家の者が、身内すら信頼していないことがよくわかる。
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