【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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2章

1.第四皇女

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「ねえねえ、サタリア兄様。明日は、皇城に行くって本当?」
「ええ、マジかよ! サタリア兄様、いいなあ」
「よくない……僕、サタリア兄様いないの、やだ」
 
 シンは、甘えるような声を出して俺の膝に体を寄せ、チークは明るく笑いながら俺の背にしがみ付き、サイラは俺の隣に立ち衣服を指先で摘まんで、軽く引く。彼らは全員顔が同じだが、その行動はバラバラだ。
 今俺はテラスで、柔らかな日差しを受けながら三つ子たちとティータイムを楽しんでいる。
 このテラスは、ドリアードが管理している美しい庭園を見下ろすことができる特等席だ。テラスの中央には、絹のクロスをかけた丸いティーテーブルがあり、それを囲むように席が四つ。しかし、その席に座っているのは俺だけで、三つ子は俺を取り囲んでいた。
 
「本当だよ。明日、メラニー皇女殿下に会って魔法生物の希望傾向を聞こうと思ってね」
 
 俺は彼らのことを気にすることなく、紅茶の入ったティーカップに口づけて喉を潤す。俺は次期当主としても彼らの見本にならなくてはならないので、指先一つ油断することなく美しい所作を意識する。
 そう、彼らの言う通り、俺は明日メラニーへの面会を取り付けている。表向きはどのような魔法生物がほしいかと聞くことになっているが、俺の本来の目的は違う。これも全ては原作通りに進めるためだ。
 
「でも、確か第四皇女って……」
「は? なんかあったか?」
 
 シンの言葉に、チークが首を傾げる。そして、少し遅れてからサイラが俺の服をさらにぎゅっと力強く掴みながら、眉を顰めた。
 
「──有名な魔法生物嫌い……」
 
 サイラは眉を顰め、不機嫌そうに呟いた。
 そう、メラニーは世間から大の魔法生物嫌いとして有名だ。この国では当たり前のように存在する彼らが嫌いというのは、普通に変人扱いされる。元の世界でいうなら機械が嫌いなので、機械類は一切使いませんと言っているのと同異議だからだ。
 ──正確には、魔法生物が嫌いって訳じゃないんだが。
 
「まあ、断られるならそれで構わないよ」
「でも……断られなかったら、サタリア兄様が担当する……でしょ?」
「そうなったらまたサタリア兄様との時間が減っちまうじゃねえか。今でさえ」
「邪魔者がずっと近くいるのにぃ!」
 
 サイラが泣き出しそうな声を上げると、それに呼応するかのようにチークとシンが騒ぐ。
 三つ子をねちねちと虐めてきたバイス兄上が屋敷からいなくなって、すっきりしているかと思っていたが、どうやら別のストレスを抱えているようだ。
 そして、そのストレスの原因が空気を読むことなく俺の側に近づく。
 
「サタリア様。お茶のおかわりはいかがですか」
 
 金の瞳は相変わらずじっと俺のこと捉えたまま、顔を覗き込んでくる。
 声を掛けてきたのはこの世界の主役でありながら、俺の専属使用人であるアルヴェンだ。彼が、俺以外の誰かがいる時には敬語を使えるようになったことに成長を感じる。二人きりの時は相変わらずだが、それについてはもう諦めた。
 
「だからー! そういうのは僕たちがやるって言ったよね!」
「お前は、サタリア兄様に近付くなって言っただろうが!」
「……ほんとうに、こいつ嫌い」
 
 三つ子が各々騒ぎ始めるのを見ても、アルヴェンは何の反応も示さない。ラクトフェル家の人間であろうとも、彼は俺以外の命令は一切聞かない。
 先ほどもテラスから出て行けという三つ子の言葉を無視して、この場からまったく動かなかった。それが三つ子の癇に障るようだ。
 
「……ああ、貰うよ」
「はい」
 
 アルヴェンは、俺の言葉にだけ頷いて反応するとティーカップに新たに作ったであろう紅茶を注ぐ。その所作はもちろんのこと、紅茶の味も美味しい。残念ながら文句一つつける隙がないのが現状だ。
 庭園での夜、俺はアルヴェンに素の姿を見られてしまった。悪役サタリアには相応しくない満面の笑顔と明るい声でアルヴェンに話しかけてしまったのだ。互いに一言も離さず暫く沈黙が流れた後、アルヴェンはいつも通り俺に接した。それこそ何も見ていないように接してきたので、俺もつられるように普段通りのサタリアとして接し続けている。
 それから、素の俺に言及されることなど一度もなく、今に至っている。
 ……本気でこいつが何を考えているのか、わからない。
 原作で知っているアルヴェンというと、復讐のことしか考えていないような恐ろしい男だった。それは復讐に囚われて、メラニーへの思いが恋に発展しないほどだ。
 メラニーはアルヴェンを想っているような描写はあったのだが、そういう漫画には珍しく最終回までしっかりした恋愛要素はなかった。ハーレム要素も薄めで残念だったが、俺としてはストーリーと戦闘描写が気に入っていたので、さほど気にはならなかった。
 いやまあ、絶対アルヴェンもメラニーのことを愛していたよな。この辺りは読者であった俺の考えだが……だからこそ、今メラニーに会いに行くことが重要だ。
 
「アルヴェン、お前も皇城に連れていくことにした。しっかり準備しておきなさい、いいね?」
 
 アルヴェンは俺の言葉に対して、珍しく数拍置いてから、その頭を縦に振った。
 
「かしこまりました、サタリア様」
 
 その答えを聞いた三つ子が再び騒ぎ始めるが、俺は気にする様子は見せずにティーカップに口をつけた。
 そう、アルヴェンが俺の専属使用人から降りようとしないなら、別の方向から進めよう。第四皇女であるメラニーに彼が見染められればいい。
 俺は、この家を没落させるために全力を尽くすと決めている。それを簡単に諦めるわけにはいかなかった。
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