【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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2章

2.メラニー・カートライト

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 第四皇女であるメラニー・カートライトのことを知ろうとすれば、すぐにわかるのは、やはり彼女が魔法生物が大嫌いということだろう。
 今俺が知っている噂だけでも、近くに一切魔法生物を置かず、彼らを見るだけで涙を流して逃げ出す皇女だと聞いている。
 しかし、原作中では魔法生物嫌いなのではなく、彼らの境遇に対して不満があったためだと彼女は後に語っている。
 一般的に、この国の人々は魔法生物を生命として見ておらず、生活に必要な機械のような存在だと考えている。
 しかし、メラニーは魔法生物を生命として捉え、彼らを解放すべきだと考えていた。だからこそ、彼女は魔法生物を使わないし、側にも置かない。彼らを見るだけで哀れに思えて、涙が溢れてくるほどなのだ。
 当然ながら、そんなメラニーの考えに同意する人間はこの国にはいない。彼女自身もそれを理解しているからこそ、魔法生物を避けながら引きこもっていた。
 俺としては彼女の考えが少しわかる。キメラに関しては元の人間だからこそ解放されるべきだと思っている。
 しかし、俺が創る魔法生物に対しては少し違う。彼らと深く関わるほど、人とは異なる存在だとわかる。その価値観や考え方は、人の常識とは大きくずれている。むしろ、今とは違う関わり方をすれば、恐ろしいことが起きるような気がする。
 とにかく、そんな彼女は皇族の中でも浮いている。現状は変わり者の第四皇女として落ちぶれており、滅多に表に姿を現さない。
 そんなメラニーが大きく変わるきっかけ、それこそが初めて受け取った魔法生物、正確にはキメラのアルヴェンだった。
 
「……アルヴェン。皇女殿下の前では口を開くな」
「はい」
 
 俺は目の前の扉を眺めながら、後ろにいるアルヴェンに声を掛けた。俺たちは約束の時刻に皇城を訪れており、この扉の先にメラニーがいる。そう思うと、心臓が高鳴って抑えきれない。
 メラニーは好きなキャラクターの一人だ。一番の推しはアルヴェンだが、彼女はその次に来るほど好きだ。俺は拳を振り上げ、扉を軽く叩いた。
 
「……はい」
 
 すると、落ち着きを感じさせる女性の声が扉の中から聞こえてきた。
 
「約束通り参りました。サタリア・ラクトフェルと申します」
「……入りなさい」
 
 震えないように気を付けながら声を出すと、すぐに返答が返ってくる。そして、両開きの扉が勝手に開いていく。
 開く瞬間、白い布が一瞬見えたので、応接室専用のゴーストがいるのだろう。しかし、そのことに少し違和感を覚えた。
 ──魔法生物嫌いのメラニーがいるのに、ゴーストがいる応接室にしたのか?
 しかし、今は考えることは後回しにして部屋へ入る。皇城の応接室だけあって、中は広い。天井も高く、シャンデリアは光を反射して室内に煌めきを与えている。
 床には分厚い絨毯が敷かれ、中央にはソファと楕円形のローテーブルが置かれていた。メラニーはソファに腰を下ろしていたが、俺の目に入ったのは彼女の背後だった。俺はそれを見た瞬間、目を見開いて息を飲んだ。
 メラニーの背後にいたそれは、俺たちが入ってくるなり突如体を起こし、低い唸り声を上げた。それは、三つの頭を持つ、馬ほどの大きさのケルベロスという魔法生物だった。
 あの時の依頼元は、どうやらメラニーのためだったようだ。多分、彼女の専属護衛として魔法生物をつけたかったのだろうが……いや、それはおかしい。
 
「大丈夫よ。彼らは私の客人だから」
 
 メラニーは平然としており、ケルベロスは彼女の言葉にすぐ従い、唸るのをやめて体を伏せ、入ってきた時と同様の体勢で床に寝そべった。
 しかし、彼らの目は俺のほうへじっと向けられたまま、耳はぺたりと伏せられ、尻尾は力なく垂れ下がっていた。それを見ただけで、長年彼らと寄り添ってきた俺にはわかる。
 ケルベロスの感情を言葉にするなら──いまのはお仕事だからね! 主が嫌いだから唸ったんじゃないからね、違うんだよ! という辺りだろう。
 気にしなくていいという意図を込めて、小さくうなずく。すると、ケルベロスの尻尾は激しく揺れ、見るからにうれしそうだ。
 彼が仕えるのはメラニーなのだから、作った俺相手とはいえ、そういう態度を露骨に見せるのは良くないのだが……まだ生まれたばかりだからなのか、感情の制御が甘いようだ。メラニーは気付いていないから、良しとしよう。
 俺は気を取り直して、メラニーの方を見ながら胸に手を添えて深々と頭を下げる。
 
「改めてご挨拶を。お初にお目にかかります。第四皇女殿下、ラクトフェル伯爵家から参りましたサタリア・ラクトフェルと申します」
「ええ、初めまして。私は第四皇女、メラニー・カートライトです。どうぞ、そこに座っていただいて結構です」
 
 メラニーはソファから立つことなく淡々と答える。彼女の容姿を一言で表すなら、まさしく花がふさわしいといえる。
 淡い紫色の髪はやわらかに、肩から背まで流れている。ぱっちりと開いた藤色の瞳は、しっかりとした意思を感じられ、淀みがない。ただ原作でよく見た穏やかな微笑みはなく、小さな唇をきゅっと結んだままだ。この表情に加え、先ほどの愛想のない態度と声、俺は確信した。
 ──ああ、間違いなく俺は嫌われているな。
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