【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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2章

3.一目惚れ

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 当然と言えば当然だ。元々、魔法生物を売り飛ばして利益を得ているラクトフェル家を、メラニーはよく思っていない。彼女からすれば、アルヴェンが側にいなくとも既に俺は悪なのだ。
 なら、遠慮する必要はない。俺もメラニーに好かれるわけにはいかないのだから、いつも通り悪役らしく彼女に接するとしよう。
 
「それでは、失礼します。にしても、驚きました。皇女殿下は魔法生物を必要としていないと聞いていましたが、まさか護衛をつけているとは」
 
 穏やかな声色を意識して口を開くが、内容自体は礼儀正しいとは言えたものではなかった。
  暗にお前は魔法生物嫌いのおかしな皇女だと伝えているのだ。
 
「……サタリア様は、随分と遅れた情報をお持ちなのですね」
「と、いいますと?」
 
 俺は言われた通り革張りのソファに腰を下ろした。そして、微笑みを浮かべて愛想よく振る舞うが、メラニーは微笑み一つ浮かべていない。ただ、落ち着いた彼女の瞳が俺を捉えている。
 
「私は、魔法生物を嫌うのをやめました」
 
 ──は?
 その言葉に衝撃を受けて、動揺から指先が跳ねる。それでも、表情や行動に感情が表れないよう、ぐっとこらえた。
 今、魔法生物を嫌うのをやめたと、言ったのか?
 
「恥ずかしながら、以前は魔法生物が恐ろしいものに見えていたのですが……ふと目が覚めました。魔法生物を使うことは皇族として必要なことだと」
 
 メラニーはそう言うと振り返り、後ろで控えているケルベロスの頭の一つを優しく撫でた。ケルベロスは甘えるように小さく鳴き、彼女に随分と懐いていることがわかった。
 それを見つめながら、俺の心臓は荒れ狂うような鼓動を全身に響かせていた。
 嘘だろう! なぜ、メラニーまでおかしいことになっているんだ!
 心の中で大声でわめきながら、眉一つ動かさないように意識する。
 もちろん、メラニーが魔法生物を嫌うのをやめたというのは嘘の可能性もある。しかし、嘘だったとしても、原作で彼女は自ら魔法生物に触れることなどできなかった。
 原作通りなら、メラニーはアルヴェン以外の魔法生物には触れなかった。それが深い愛からくるものだと信じていたのに……!
 というか、原作に『私が触れられるのは、あなただけなの』とメラニーがアルヴェンに言うシーンは好きだったのに。
 まさかここで解釈違いを食らうとは思いもしなかった。
 いや、落ち着け。取り乱すな。どうあっても俺はここで下手な言動をさらしてはいけない。とりあえず今は本来の目的のことだけを考える。
 
「……それは素晴らしいことだと思います。でしたら、私も安心して皇女殿下にふさわしい魔法生物をお贈りできます」
 
 メラニーは、そんな俺の言葉に一瞬だけ眉を顰めたが、それがどういう感情によるものなのか、俺にはわからなかった。
 
「それで、どういうものをお望みでしょうか。我がラクトフェル家の総力を上げて、皇女殿下に喜んでいただける魔法生物をお創りします。たとえば……」
 
 俺は肩越しに振り返って扉近くで立ち尽くしているアルヴェンに視線を向けた。そして、人差し指だけを手前に動かし、こちらに来いと意図を込めて睨み付ける。
 アルヴェンは何も言わず近づいてきて、俺が座るソファのすぐ後ろに立った。
 
「これは私の専属使用人なのですが、このように美しい男性として創ることも可能です」
 
 メラニーは俺の言葉に誘われるようにアルヴェンの顔を見た。その瞬間、彼女の表情は変わる。
 目は大きく見開き、アルヴェンに釘付けになる。そして、白い肌がぱっと赤く色づき、藤色の瞳が小さく潤む。それはまさしく、恋する乙女の表情だった。
 ──よし、落ちたか。
 俺は心の中で親指を立てる。元々、原作でアルヴェンを初めて見たときに、ああした表情を浮かべていたから、一目惚れしただろうことは知っていた。
 まあ、彼女の気持ちもわからないでもない。男の俺でも、あの顔にはクラッとくることがある。
 後は、アルヴェンの方も彼女に惚れていてくれれば……。
 俺は淡い期待を抱いて彼のほうに視線を向けたが、次の瞬間、金の瞳と目が合った。
 アルヴェンはメラニーを一切見ることなく、その視線は俺に注がれている。いつものように食われそうだと感じるほどの熱量がこもった金の瞳が俺に向けられていた。
 頼むから、そこはメラニーを見ておいてくれよ。
 呆れと苛立ちが混じった感情が体を支配するも、見なかったフリをして口角を吊り上げてメラニーに微笑みかけた。
 
「皇女殿下、いかがでしょう?」
「……え! あ、その、そうですね」
 
 メラニーは、俺の言葉に肩を小さく跳ねさせて、ようやく我に返ったかのようだった。そして、軽く咳払いを挟んでからこちらを見たが、その視線に落ち着きはなく、何度かアルヴェンのほうに注がれる。
 
「その、そちらの使用人の名前は何というのですか?」
「これはアルヴェンといいます」
「アルヴェン……とても、素敵な名前ですね」
 
 メラニーはそう答えながら、ついに俺を見るのをやめて、とろけた瞳をアルヴェンに注ぎ続けている。本来ならメラニーが付ける名前だったから、そう感じるのは当然とも言えるだろう。
 
「……その、考えたいことができたので、今回はここまでにして、また次回来ていただけませんか?」
「かしこまりました」
「あの、その際は一人で来てください。サタリア様にだけお伝えしたいことがあるので」
 
 さきほどまでの凛とした姿は消え失せ、狼狽した様子は年相応に思えた。他人の恋模様は、見ているだけで微笑ましい気持ちになる。彼女が次に何を俺に頼むのか、何となく察しながらメラニーの言葉にしっかりと頷いた。
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