【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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2章

5.二番目の敵

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「おかわりはいかがですか」
「……これで六杯目だよ。もう私に構うのはやめなさい」
 
 俺がそう言うと、給仕係は眉尻を垂らした。彼の背からは美しい白い翼が生えており、それも悲しそうに垂れて下がっていた。
 給仕係にしておくには惜しいほどの整った容姿をしているが、彼も俺が創った魔法生物の有翼種だ。
 というか先ほどから、魔法生物たちが入れ替わり立ち代わりでやってきて、俺に飲み物を勧めてくる。多分、少しでも俺の顔を見ようとやってきているのかもしれないが、お陰で俺のお腹は飲み物で満たされて苦しいくらいだ。
 それでも、目の前で悲しそうな顔をされると罪悪感を覚えてしまうのは、一種の母性なのだろうか。いや父性か。
 ああもう、仕方ない。
 溜息を吐きながら、空のグラスと交換に有翼種の彼が差し出したグラスを受け取ると、パッと瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべた。
 
「ありがとう。だが、もう飲み物はいらない。そう他の子にも伝えるんだ」
「はい、はいっ! 必ず伝えます!」
 
 彼は嬉しそうに答えると、その白い翼を大きく広げて空に飛び上がる。彼を見守るように上を見上げれば、数人の羽を持つ魔法生物たちが給仕や雑用のために空を飛んでいる。
 この広間の天井は高く、飛んで移動するには十分で、客人の邪魔にならない為の配慮なのだろう。飛んでいるのは先ほどの彼と同じ有翼種だったり、フェアリーだったりと姿形はバラバラだ。
 その光景は俺にとっては幻想的に見える。この国に住む人たちにとっては当然の光景ではあるが、俺は未だに慣れない。
 ちなみに、アルヴェンはここにいない。さすがにこの場に彼を連れてくることはできず、今頃は外で俺の帰りを大人しく待っているはずだ。
 そうしている内に音楽は止まり、動いていた男女がその動きを止めて互いに頭を下げた。どうやら、ダンスは終わったようだ。
 
「サタリア兄様!」
 
 終わった瞬間、こちらへ真っ直ぐ向かってくるのはシンだ。この場に相応しい礼服に身をつつんでおり、髪はいつもよりしっかり整えられている。
 三つ子はラクトフェル家の人間にしては、珍しく社交的だ。ダンスも得意で、新しいものが大好きなのでこういう場には喜んで参加する。それは、ある意味ではラクトフェル家に染まっていないということでもある。
 三つ子はまだ幼さの残る顔立ちのため、年上には可愛がられる傾向にある。さらにラクトフェル伯爵家の人間であるなら、表立って嫌われることなどほぼないはずだ。そのため、彼らにとっても居心地のいい場所なのだろう。
 
「本当に参加してたんだね。驚いたけど、すごく嬉しい! 僕のダンス見てた?」
「ああ、見てたよ。シン」
 
 俺の前で誇らしげに胸を張るシンの髪をそっと撫でる。すると、シンは口許を緩めて嬉しそうにしていた。
 
「サタリア兄様も踊ればいいのに。サタリア兄様の相手になりたい女性なんて、そこら中にいると思うよ」
「いいんだ。今回はお前たちを見に来ただけだからね。それに、もうそろそろ帰るよ」
「えー……」
 
 シンはその頬を小さく膨らませ、俯く。そういった落ち込んだシンの顔を見ると、もう少しいてやりたい気持ちになる。どう慰めたものかと考えている時だった。
 
「皆様、お待たせいたしました!」
 
 声が広間内に響き渡る。そして、その瞬間俺は何が起こるか理解した。
 
「……ほら。もう向こうに戻りなさい」
「え。でも、僕」
 
 俺の顔を見ながらも、先ほどの声が気にかかっているのか、後ろを気にしているのが見てわかる。俺が急かすようにシンの肩を軽く叩くと、名残惜しそうな視線をこちらに向けた。
 俺は黙ってシンの目を見据えると、少しだけ肩を落としてから広間の中央へと戻っていく。
 シンには少々申し訳ないが、これはどうしても必要なことなのだ。
 俺は壁際に立ったまま、広間中央に目を向ける。すると、上空でフェアリーたちが突如美しい金色の粉と、色鮮やかな花を降り撒く。
 金色の粉はまるで雪のようにゆっくりと舞い落ちていき、花びらがさらにそれを彩る。
 
「第四皇女殿下、メラニー・カートライト様のご入場です!」
 
 参加者たちが感嘆の声と共に上空を見上げていると、上階からゆっくりと階段を降りてくるのは、メラニーだ。背後にはケルベロスがおり、護衛するように付き従っている。わざわざ、この場にケルベロスを連れてきたのは、魔法生物嫌いの噂を払拭するためだろう。
 それらの行動で、彼女が本気で表舞台に立とうとしていることがわかった。そして、それを確認したと同時に三つ子に目を向ける。
 俺がすぐに確認できたのは、シンだけだったが、彼は呆然とした顔でメラニーを見ていた。それは魂を奪われたかのようなうっとりした目を向けており、彼女に釘付けだ。
 ああ、やっぱりそうなるのか。
 わかっていたこととはいえ、心臓が小さく痛む。俺が心を痛めるのは違うことだと知りながらも、俺は視線をさっと逸らして、グラスの中を覗き込んだ。
 これが、俺が来た二つめの目的。
 原作の流れでは、バイス兄上の次にアルヴェンの前に立ち塞がる敵が、三つ子だ。いや最終的には、三つ子は敵ではない。
 ──なぜなら三つ子は、メラニーに心を奪われてラクトフェル家を裏切ることになるからだ。
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