【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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2章

6.三つ子

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 ラクトフェル家の三つ子、シン、チーク、サイラは原作では中盤に出てくる敵だ。
 原作の流れでいうと、アルヴェンはメラニーの成人祝いとして皇城に送られた後、メラニーと出会った。彼女はアルヴェンの酷い状態に胸を痛め、彼を助けるために力を尽くす。そうして、最初は警戒していたアルヴェンも段々とメラニーに心を開いていくようになる。
 そして、引き籠っていたメラニーはアルヴェンのために表舞台に戻ることを決める。アルヴェンの復讐を叶えるためには皇族として立場を固める必要があったからだ。
 そして初めての舞踏会に出た時、偶然三つ子もそこに参加しており、メラニーの虜になる。
 最初の方は、アルヴェンの様子を定期的に調べるという名目で、彼に嫌がらせや危害を加えたりする役だ。しかしメラニーと接する内に絆されていき、彼女のために動くようになる。二人が有利になるように、家の情報を与えられるギリギリの範囲で少しずつ漏らしていったのだ。
 しかし、それはついにサタリアにバレて、最終的に彼らは殺される。
 ──正確には、三つ子で殺しあえって言われるんだよな。
 原作でも三つ子はサタリアに懐いていた。原作のサタリアが彼らを可愛がっていたかは知らないが、可愛がっていたら最後にあんな命令はしないだろう。
 
「……本当に、クソ野郎だよな」
 
 今では自分がサタリアではあるが、原作のサタリアは心底クズ野郎だと俺は思っている。
 そんな事を考えながらふと、窓の方へ目を向ける。今はラクトフェル家に帰る馬車の中だ。
 シンの様子を確認してから、すぐに皇城を後にして馬車に乗り込んだ。
 俺は確認したかっただけであり、彼らの行動を止める気は一切ない。実際、原作ではメラニーのために力を貸そうとした三つ子の活躍も一端になって、ラクトフェル家を没落に追い込むことが出来た。
 つまり没落させるためにも、彼らの裏切りはまた必須なのだ。むしろ、思惑通り原作に沿って進んでいるといっていい。
 ……なのに、気分はよくない。
 俺は馬車の窓にそっと頭を傾けて、全身の力を抜いた。だらりと手足を投げ出しながら、ちくちくとした胸の痛みに眉を顰めた。ぎゅっと目蓋を閉じて、視界に入る余計な情報を遮断する。
 これは俺が望んだ原作通りの展開だ。後少し頑張れば、アルヴェンはメラニーの元に行く。そうなれば物語は順調に進んでいくはずだ。
 俺は三つ子が裏切っても殺す気はないから、全てが終わるまで罰という名目で監禁しておけば、とりあえず安全だろう。
 
「あの家も、静かに……なるだろうな」
 
 わかっていたが、原作通りに進めば進むほどあの家からどんどんと人が消えていく。そして、最終的には俺一人になるのだ。
 最後は一人で舞台に上がって、哀れな悪役を演じて、ラクトフェル家を終わらせる。
 それが犠牲者を出さないように俺自身が決めたことだ。けれど、俺にはアルヴェンとメラニーのような互いを支え合う相手はいない。
 ふとした瞬間に一人は寂しいと、誰か隣にいて助けてほしいと思ってしまうのは……俺が弱いからだろう。
 
「……ちょっと疲れているな」
 
 三つ子の姿に刺激されて、後ろ向きな考えばかりしてしまっている。帰るまでの間、少し眠ってしまおうかと思った時だった。
 がくん、と車内が突如大きく揺れ、同時に大きく前へ引っ張られるような衝撃が走った。
 
「っく!」
 
 咄嗟に座席に手をついたが、勢いを殺しきれず肩を内壁にぶつける。そして。これが急停車した衝撃だと遅れて気付く。俺が痛みに呻くよりも早く、外からの怒鳴り声が聞こえた。
 
「サタリア様、出るな!」
 
 それが御者席にいたアルヴェンの声だとすぐに気付く。俺はすぐさま窓に張り付き、少しでも外の様子を確認しようとするが、既に日は落ちているため真っ暗で何も見えない。
 な、なんだ、何が起こった。
 わかることといえば馬車はその走りを止めていることくらいで、アルヴェンの言葉を最後に馬車の中は沈黙に包まれていた。
 緊張からじわりと掌が汗ばみ、心臓の鼓動が速くなる。しばらくは、アルヴェンの言葉に従いじっとしていたが、ふと声が聞こえた。
 
「主よぉ。もう出ても大丈夫そうだぞぉ」
 
 俺はその声を聞くと同時に馬車の扉を勢いよく開いて、飛び出す。そしてそのまま、馬車の前方に駆け寄った。
 
「テラン! 何があった!」
 
 そこにいるのは下半身は馬で、上半身は人の魔法生物、ケンタウルスだ。
 テランは上半身は無精ひげを生やした中年の男性で、下半身は黒毛の馬であり、俺の馬車を引くのは彼の役目だ。ちなみにテランという名前は俺が付けた。
 俺は慌てて辺りを見渡したが、そこにいるのはテランだけだ。アルヴェンはどこにもいない。彼を探していると、テランが、俺の方へ顔を傾ける。
 
「襲撃者だ。あの坊やがそれを連れて離れていったぜ」
「あ、アルヴェンが!?」
 
 暗闇の中で目を凝らすが、彼の姿がどこにも見当たらない。すでに離れた場所に行ってしまったのだろう。
 
「まあ、正しい判断だな。襲撃者の目的は、どうやら坊やのようだったからな」
「は……?」
 
 テランは自分の首筋を掻きながら、態度も口調もどこか怠そうな様子だ。元々テランは、面倒くさがりだ。どうせ、彼の頭の中は今も早く帰って寝たいとしか考えていないだろう。
 
「襲撃者は三人いたが、お相手さんは全員キメラだった。まっさきに坊やに飛び掛かってきたから驚いたぜ」
 
 馬の尻尾をゆらゆらと揺らしながら、テランは肩を竦める。俺は、そんなテランの言葉を聞いて凍り付いた。
 ──キメラ? キメラだと……? 
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