【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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2章

7.キメラの襲撃

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 キメラをわざわざ使って、よりにもよってアルヴェンを襲う理由はなんだ。ましてやラクトフェル家の一員である俺がいる状態で奇襲するなんて、そんな馬鹿なことをする奴がどこにいるというんだ。
 しかし、キメラというなら俺は安全だ。彼らは制約によって俺に手は出さない。むしろ危険なのはアルヴェンだ。キメラ三人を一人で相手する気なのか。
 
「ま、後は坊やに任せてオレたちは帰ろうぜ、主」
「……アルヴェンが行ったのは、どっちだった?」
「え。そりゃあっち向いて走っていったって、ちょっ、主!?」
 
 テランが示した方向に目をやると、それは道から外れた東にある森だ。俺はそこまで聞くと馬車に備え付けのランプを掴み取り、森に向かって走り出した。キメラであるなら俺が命令すれば、攻撃をやめる可能性がある。今すぐ追いかければ、アルヴェンに追いつけるはずだ。
 
「ちょっと、行くなら馬車から外してオレも連れて行って! 一人にしたら、オレがリティに殺されるから、ねえ! 主!」
 
 テランが後ろで喚いているが、足を止めることなく走り続ける。テランの言う通り馬車から外していたら、完璧にアルヴェンを見失うことになる。かといって馬車を繋げたままではあの森に入れない。
 テランには悪いが、今回は留守番して貰うしかないのだ。泣きそうな声を出すテランを無視して、俺は森の中へ向かった。
 
 
 俺はランプを掲げ、その淡い灯りを頼りに森の中を駆ける。足元は腐葉土が積もり、踏みしめる度にぐしゃりと湿った音がする。
 息を切らしながら走り続けるが、どこにもアルヴェンの姿は捉えられなかった。さすがに大声を上げて探す訳にはいかない。
 月は雲に隠れ、ランプの炎がゆらめく度に、木の影も揺れる。光の届かない場所には何が潜んでいるかわからず、俺の恐怖心を煽る。
 それを振り切って走り続けていると、樹木の根に足をとられてつまずく。踏みとどまったおかげで体勢を崩しただけで済んだが、その際に低木の枝が頬を引っ掻き、赤い線のような切り傷ができた。
 
「っ、た」
 
 ちりっとした痛みを感じたが、気にしている余裕はない。構わず走り続けると、少しひらけた場所に出る。そして、そこに人影が見えた。
 いるのは四人、ただ一人は既に地面に倒れ伏しており、一人を挟むように狼耳が特徴的なキメラと大柄なキメラが立っていた。
 そして、その挟まれているのがアルヴェンだ。夜の闇の中でも彼の金色の瞳と白髪はよく目立つ。彼を見つけることができた安堵からほっと息を吐くが、アルヴェンを挟む二人のキメラはすぐに動き出した。
 先に動いたのは、狼耳のキメラだった。低く身を沈め、滑るようにアルヴェンとの間合いを詰める。駆け出す動きはさすがに速い。しかし、アルヴェンは顔色一つ変えず、一歩後ろに跳んで足元の土を勢いよく蹴り上げた。
 舞い上がる土は空中に広がる。当然、それが狼耳のキメラの視界を奪い、動きが鈍った。その瞬間を逃さずアルヴェンは、力強く地面を蹴り付ける。
 そのまま先ほど離れた距離を一気に詰めると、その勢いのまま顔面に肘を叩き込んだ。容赦のない攻撃に痛々しい打撃音が響いて、俺の方が眉を顰めてしまう。
 狼耳のキメラはうめき声を上げながら、地面に倒れていく。
 だが、大柄のキメラはそれをただ見ていた訳ではない。その隙に小型の斧を振り上げて、突進する。アルヴェンの肩口を狙って振り下ろされようとした瞬間、俺は咄嗟に声を張り上げた。
 
「──っ、やめろ!」
 
 俺の命令を聞いたのかわからないが、大柄のキメラは俺の声に動揺して動きが鈍る。それと同時に、アルヴェンが振り向きざまに蹴りを側頭部に勢いよく叩きつけた。
 またしても痛々しい音が辺りに響くと、大柄のキメラも崩れるように地面に倒れこむ。キメラは総じて人間以上の身体能力を持つため、素手でも相当の威力だ。
 俺はあっという間に終わった戦闘にぽかんと口を開いたまま、見守ることしかできなかった。
 アルヴェンは彼らが倒れたのをしっかりと確認してから、衣服の皺や汚れを軽く叩きながら俺を見る。その姿に焦りも苛立ちも見えない所を見ると、彼からすれば余裕の勝利といったところなのだろう。
 ──さ、さすが主人公。馬鹿みたいに強いな。
 今更ながらアルヴェンが原作では最強クラスの力を持っていたことを思い出す。タイトルにもなっているんだから、強いに決まっている。
 俺、来なくてよかったなこれ。
 
「……サタリア様? どうして、ここに……」
「どうしてもなにも……私のものが逃げたのだとしたら、追うのは当然私の役目だ」
 
 サタリアらしい言葉と演技をしながらアルヴェンの側に寄る。体中を見渡すが、傷はどこにもないことを確認して、改めて安堵から胸を撫でおろす。
 
「ここは危ない。あんたは早く馬車に戻ってくれ」
 
 アルヴェンは俺を見るなり眉を顰めて、不機嫌そうにみえる。確かに今の俺は邪魔でしかない。かといって、アルヴェンをここに置いて帰る訳にはいかない。
 
「キメラの何が危ないというんだ。あれらは私に手を出さない」
「そうだとしても、巻き込まれたら……待て、頬に傷ができてる。誰だ、誰にやられたんだ」
 
 アルヴェンは小さく息を呑むと、先ほど枝先で切った傷を確かめるようにこちらを覗き込んでくる。間近に迫ってくるアルヴェンに戸惑いながら、その顔を軽く押す。
 
「私は誰にもやられていない。お前は、顔が近いと何度言えば──」
 
 ふと顔を上げた時に、目が合った。目が合ったのはアルヴェンではなく、その後方にたっている女性のキメラだ。
 多分最初に倒れていた人影が彼女だったのだろう。その女性のキメラの髪は蛇で出来ており、その瞳も蛇と同じだ。縦長の瞳孔がきゅっとこちらを捉え、手にあるのはナイフだった。
 それをアルヴェンに向かって大きく振り下ろすところで、俺の頭は真っ白になった。
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