【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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2章

別の世界の話2-1

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 ──どうして、こうなったのだろう。
 今、サイラ・ラクトフェルの心を埋めつくしているのは、深い後悔だけだった。
 サイラは、ラクトフェル家の三つ子の一人として生を得た。そして、三つ子を産んだ母親は、父であるムルダム・ラクトフェルによってキメラ実験に使われて死んだ。
 なぜ、それをサイラが知っているかというと、生まれた時から一度見聞きしたものは、絶対に忘れないという特質を持っていたからだ。
 幼い三つ子に縋りつく母を無理矢理引き剥がして、ムルダムは強引に連れて行った。そして、母は二度とサイラたちの前に戻ってこなかった。
 だからこそ、三つ子たちは生まれた時から愛を知らなかった。
 サイラは、母親のことを共に生まれた兄弟、分身ともいえるチークとシンに教え、三つ子の気持ちは一つになった。
 決して、あれを父とは思わない。サイラたちが大きくなったら、必ずムルダムに復讐しよう。
 いずれ、大きくなれば母にしたようにあの男をキメラの材料にしてやるのだと、サイラたち三人は心に決めた。
 母がいなくなったあと、サイラたちを育ててくれたのがラクトフェル家の次期当主であったサタリアだった。
 サタリアは、サイラたちに優しく接してくれた。叱る時は恐ろしかった事もあったが、理不尽なことを命じられたことは一度もなかった。褒める時は優しくて、いつだってサイラたちのことを理解してくれる。
 愛情を与えてくれた人。この家で唯一敬愛する人。
 ──大好きな、僕らのサタリア兄様。
 けれど、そんなサタリアがサイラたちを心から愛していないことには三人とも気付いていた。
 不意に見せる仮面を張り付けたような笑顔は、どこか感情にズレがあるように感じて、不安定にも見える瞳に見つめられると背筋が凍るようだった。
 サタリアとサイラたちの間にはずっと見えない壁があって、その先に行くことは許されない。
 それでもサイラたちが必死になってサタリアの側にいたのは、必死に愛を求めていたからなのか、怖かったからなのか。
 サイラだけの考えならば、サタリアに見捨てられるのが何よりも怖かった。
 サタリアに、お前たちを育てるんじゃなかったと、これはもういらないと思われることが、どんなことよりも怖かったのだ。
 だから、サタリアのためなら何でもしたかった。それこそ当主になるためにムルダムを殺せ、と言われたら喜んで実行しただろう。
 なぜなら三つ子にとって、世界で一番はサタリアだったからだ。
 ──けれど、その一番は、ある日突如入れ替わることになる。
 彼女と出会ったのは、ある舞踏会でのことだった。先日渡したと聞いたムルダムのお気に入りのキメラを引き連れて、彼女は現れた。
 それは、表に出ることがほとんど無かった魔法生物嫌いの変わり者、第四皇女メラニー・カートライト。
 初めて見た時は、美しい女性だとは思ったが、そこまで心を惹かれることはなかった。それでも、折角舞踏会に顔を出した皇族への挨拶をしない訳にはいかず、話しかけた時だ。
 
『──初めまして。第四皇女、メラニー・カートライトです』
 
 ドレスの裾を軽く摘まんでお辞儀する姿には気品が漂い、間近で見た彼女の笑顔と、鈴が鳴るような美しい声に心を奪われた。
 それは、サイラだけではなくシンもチークも同じだった。サイラたちがメラニー皇女と交わした言葉といえば挨拶だけですぐに別れたが、そこからずっと彼女のことが頭から離れなくなった。
 会えない時間が苦しくて、時間が経つほどに段々とメラニーのことしか考えられなくなっていた。
 身を焦がすような激しい想い、抑えきれない衝動。
 これが初恋なのだと気付くのにさほど時間はかからなかった。段々と強まる気持ちとともにメラニーに会えるのなら、どんな手を使ってもいいと考えるようになった。
 そのため、サイラたちは話し合ってムルダムのお気に入りのキメラの定期点検という名目で、メラニー皇女に会いにいくことにした。
 そこからはまるで転がり落ちるように、メラニーに夢中になっていった。
 彼女が落ち込んだ顔をしたら喜ぶためになんでも叶えてあげたくなったし、彼女が泣いたら、その原因を消し去ってやりたかった。
 そうして、段々と深みに嵌っていって、メラニーのこと以外どうでもよくなっていった。サイラたちがした恋はまるで、底なし沼のようだった。
 そうして、次第にメラニーの存在がサイラたちの全てになった時に、彼女の言葉を聞いて三つ子はラクトフェル家を裏切ることを決めた。
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