【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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3章

6.お前だけの

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「……に、兄様?」
「サイラ、お前は今すぐここから出ていきなさい」
「……っ、あ、でも……」
「早く出ていくんだ、サイラッ!」
 
 俺はアルヴェンを睨みつけたまま、鋭く声を飛ばす。サイラの怯えたような声が聞こえるが、振り向かない。今は弟を守ることを優先しなければならない。そのためにも、俺が今アルヴェンから目を逸らしてはだめだ。
 少ししてから小さな足音が急いで、この場から去っていく。それがしっかりと去った音を確認してから、掴んでいた胸倉を突き飛ばすように離す。
 
「……答えろ、アルヴェン。今、サイラを殺そうしたな」
「ああ、そうだ。殺そうとした」
 
 力強く突き飛ばしたというのに、アルヴェンは微動だにしない。それどころか、普段と変わらない様子で平然と頷いてみせた。
 
「自分で何を言っているか、理解しているのか」
「ああ、理解している」
「っ、アルヴェン!」
 
 眉を顰めて、アルヴェンを睨みつける。確かに、ラクトフェル家を恨むアルヴェンとしては、またとない復讐の機会であろうことはある。けれど、なぜサイラなのか。
 彼は、実際にアルヴェンのことには関わっていない。元々父であるムルダムには見捨てられた子たちだ。キメラのことを知っていても、キメラを造ったことはない。
 
「サタリア。あいつのことは諦めろ。もう手遅れだ」
「何を、言っている」
「あれは殺したほうがいい。それをあいつ自身も望んでいるはずだ」
「……やめなさい」
「あいつは、いずれあんたを傷つけて苦しめる。だからこそ、サタリアの命令でも聞けない。あんたを傷つけるやつを俺は許す訳にはいかない。あいつは必ず殺す」
「……やめろ……っ」
「あいつが生きていれば足を引っ張って、この家を破滅させるぞ。殺すべきだ。大丈夫だ、俺が一瞬で終わらせる。だからサタリアは」
「ッ、やめろって言ってるだろ!」
 
 俺は感情に任せてアルヴェンの手首を、乱暴に掴む。これ以上、彼の口からそんなことは聞きたくなかった。
 俺にとってサイラは弟だ。兄として、家族としてずっと守っていきたいと思っている相手だ。
 そして、同時に今の俺にとってアルヴェンは別の意味で側にいてほしいと願っている相手なのだ。そんな彼から、サイラを殺すなどという言葉をどうしても聞きたくなかった。
 そんな荒れ狂うような感情が胸で暴れ続けて、呼吸が荒くなる。目の奥が熱い。
 
「俺は、そこまでしてこの家を守ろうなんて思っちゃいない……っ!」
 
 ああもう駄目だ。感情があふれ出して、演技が保てない。
 そんな俺の言葉にアルヴェンは驚いたような顔を見せて、瞳が輝く。一瞬だけ見えたそこにあったのは失望ではなく、歓喜に近かった。
 
「……ああ、知ってるよ。でも、あんたはこの家を守るべきだ」
「な、何を、言ってるんだ」
「俺はラクトフェル家がただ没落することが、最善じゃないと言ってるだけだ」
「……お前は本当に、アルヴェンなのか?」
 
 原作のアルヴェンでは決して言わないような言葉に、思わず呆然とする。
 完璧な復讐鬼であったアルヴェンは、どんなことをしてもラクトフェル家を滅ぼすと誓っていた。それだけが彼の生き甲斐であり、何よりも望んでいたことだ。
 そのアルヴェンが、ラクトフェル家を守るべきなんて口が裂けても言うはずないのに。一瞬にして、目の前のアルヴェンが知らない男に見えて、混乱する。
 アルヴェンはその金の瞳を細め、俺の手を優しく掴む。そして、手の爪先にそっと唇を押し当てた。
 
「──ああ、そうだ。俺はあんただけの、アルヴェンだ」
 
 激しい熱を帯びた金の瞳が俺を射貫く。そこに宿る力強い意思は、どんなことがあっても曲がることがないように思え、背筋が粟立っていくのを感じる。なのに、目を離せない。
 これだけはわかる。アルヴェンは、どんなことをしてもサイラを殺す気だ。そこに自分自身の犠牲が含まれようとも曲げるつもりがない断固とした意思を感じる。
 つまり、ここで止めないとサイラは間違いなく死ぬ。
 だからこそ、大きく息を吸って先ほどからずっと乱れた息を整える。
 
「……アルヴェン。お前に褒美をやろう」
 
 今更ではあるが、役者としての仮面を被り直す。それはただ表面だけを急いで取り繕っているだけで、演技ですらない。それでも、素では恥ずかしくて言えないことだから仕方ない。
 
「私がいいと言うまで、サイラを殺すな。その言葉に素直に従えるなら、お前の好きなものを何でもやろう」
「……っ」
 
 自分で言いながら情けなくも、言葉が震えた。それでも、効果はあったようでアルヴェンの顔に初めて動揺が浮かんだ。
 
「俺が好きなものが何か、あんたは知っているだろ?」
「ああ、知っているよ」
「なら、そう言われて俺が何を望むかわかって言っているんだな?」
 
 わからないはずがない。出会った時から露骨な程の熱量をぶつけられ、それが恋であるということもアルヴェンの口から聞いた。
 未だ理由はわからない。そこまで想われてる理由も、心当たりもない。ただ、俺は深くアルヴェンに愛されていることはわかっている。
 だから、俺はその金の瞳を見て、しっかりと頷いた。
 
「……そうか。だったら、遠慮はしなくていいな」
 
 アルヴェンは、大きく口を開いて俺の手に歯を立てる。甘噛みに近く、痛くはないが口腔の熱さを感じる。それが妙に生々しくて、指先が跳ねる。
 
「───じゃあ従う褒美に、あんたの全部を俺にくれ」
 
 金の瞳には熱情が激しく渦巻いて、それに呑まれるように俺は息を飲んだ。
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