41 / 81
3章
5.殺意
しおりを挟む
真っ暗な室内で、灯りも付けずに小さな影が闇の中で蠢いている。
微かな紙が擦れるような音に物を動かす音が続くが、それらの物音は最小限に抑えられていた。
ここはラクトフェル家の地下室にある一室。この部屋は多くの資料が収められている場所で書庫ともいえる場所だ。地下室にあるということは、当然全てキメラ関係のもので、ラクトフェル家の暗部といえる。
今そこに、本来は入るなと命じられていたはずの人間がいる。
「──ウィルオウィスプ。サタリア・ラクトフェルが命じる、光を」
そう俺が淡々と告げると、魔法生物であるウィルオウィスプがその灯りを取り戻す。
この部屋には監視役兼灯りを担当する、青白い炎を放ちながら浮遊するウィルオウィスプという魔法生物がいる。これは初代当主が残したものの一つでもあり、ラクトフェルの名前を持つものにしか反応しない。もちろん、彼らが攻撃しないのもラクトフェル家の人間だけだ。
つまり──。
「ここで何をしている──サイラ」
青白い炎に照らされながら、驚愕で固まるサイラがそこにいた。
「さ、サタリア……兄様……?」
呆然と俺を見上げるサイラの手には、資料がしっかりと握られている。それを見た瞬間、サイラが何をしようとしたのかすぐにわかった。
「それを……持ち出そうとしたのか」
冷静であろうとしたせいか、思ったより冷たく鋭い声になってしまう。サイラは怯えたように体を大きく跳ねさせ、勢いよく資料を手放した。手元にあった紙が床に散っていく。
「あ……あれ……?」
サイラは自分が行ったことを理解していないような顔をして、俺を見る。そこに広がっているのは恐怖と困惑だ。
「ち、違う……兄様。ちがう……」
サイラは弱々しく、頭を左右に振る。サイラが何を否定したいのかはわからないが、彼が行おうとしたことはわかっている。
多分、メラニーの望みを叶えるための行動だろう。原作でも、メラニーへの好意が高まっていくにつれて、三つ子たちは望んでメラニーを助けるようになるからだ。
俺は、床に散った資料を遠目に眺める。そこに書かれているのは、魔法生物の依頼を受けた者の名前だ。バイス兄上や、俺、ムルダム、誰がどういう依頼を受けたのか事細かに書かれている。
表向きには依頼報告書、しかし実際はラクトフェル家の人間の誰が、どのキメラを造ったのかを把握するための資料だ。
──あの程度だったら、まあ渡してもいいんだが。
この程度なら何の証拠にもならない。元々俺は没落のためなら、ある程度の情報なら見逃していいと考えていた。しかし今回は、場所が場所だ。
あまりにも確信的な内容はサイラの命に関わるため、その場合は止めようとしていただけだ。
しかし、メラニーが今欲しい情報はこれなのか?
もっと決定的な証拠になるものを選ぶと思っていたため、俺も予想外だ。
「サイラ、落ち着きなさい」
俺は片膝を折って、屈むとサイラに目線を合わせる。他の二人にも約束したのだから、とりあえずはサイラの話を聞こうとした時だ。
ふと、影がかかる。その長い影は俺に付いてきているアルヴェンのものだ。
アルヴェンは、三つ子が側にいる間はあまり俺のすぐ側には近寄らない。それでも、一定の距離から離れたりはしないが、こういう風に近付いてくること自体が珍しい。
ああ、アルヴェンも彼なりにサイラを心配しているのだろうと顔を上げた瞬間、俺は凍り付いた。
青白い光を受けたアルヴェンの虹彩は冷たい鋼のように鈍く光り、瞳孔は恐ろしいほどに微動だにしなかった。
その表情には何の揺らぎもなく、怒りも憎しみも、ましてや迷いの影すら浮かんでいない。まるで石で削り出された仮面のように整った表情の奥で、瞳だけが異様な光を宿していた。
そうして、人間らしい感情を全て削ぎ落としたまま、アルヴェンが見つめているのは──サイラだった。
それに気付いた時、ぞわりと背筋が震えた。
アルヴェンが薄く口を開くと、見るだけで寒さを感じられる白い吐息が溢れ出す。それがどういう力を持つかを俺は知っている。その凄まじさも目にした。
次の瞬間、俺は弾かれるように立ち上がり、声を張り上げる。
「──ッ、アルヴェン!!」
部屋中に広がるような大声と共に俺は、アルヴェンの胸ぐらを掴んで引き寄せる。心臓が馬鹿みたい早鐘を打ち始めて、動揺から呼吸さえ乱れる。
原作を、いや今まで身近で見続けていたからこそ、わかってしまった。
「お前、今……っ!!」
───サイラを、殺そうとしているだろう!
次の言葉をぐっと飲み込んで、眉を顰めながらアルヴェンを睨み付ける。
間違いない。アルヴェンは、今し方サイラを凍り付かせようとしていた。それは明確な殺意だった。
アルヴェンは俺が近くで名前を呼ぶと、その白い息を小さく吸い込む。それでも、吐き出された冷気は刺すように冷たく、俺の頬を撫でる。
そして、黙って俺を見るアルヴェンは不気味なほど平然として、いつもの彼そのものだった。
微かな紙が擦れるような音に物を動かす音が続くが、それらの物音は最小限に抑えられていた。
ここはラクトフェル家の地下室にある一室。この部屋は多くの資料が収められている場所で書庫ともいえる場所だ。地下室にあるということは、当然全てキメラ関係のもので、ラクトフェル家の暗部といえる。
今そこに、本来は入るなと命じられていたはずの人間がいる。
「──ウィルオウィスプ。サタリア・ラクトフェルが命じる、光を」
そう俺が淡々と告げると、魔法生物であるウィルオウィスプがその灯りを取り戻す。
この部屋には監視役兼灯りを担当する、青白い炎を放ちながら浮遊するウィルオウィスプという魔法生物がいる。これは初代当主が残したものの一つでもあり、ラクトフェルの名前を持つものにしか反応しない。もちろん、彼らが攻撃しないのもラクトフェル家の人間だけだ。
つまり──。
「ここで何をしている──サイラ」
青白い炎に照らされながら、驚愕で固まるサイラがそこにいた。
「さ、サタリア……兄様……?」
呆然と俺を見上げるサイラの手には、資料がしっかりと握られている。それを見た瞬間、サイラが何をしようとしたのかすぐにわかった。
「それを……持ち出そうとしたのか」
冷静であろうとしたせいか、思ったより冷たく鋭い声になってしまう。サイラは怯えたように体を大きく跳ねさせ、勢いよく資料を手放した。手元にあった紙が床に散っていく。
「あ……あれ……?」
サイラは自分が行ったことを理解していないような顔をして、俺を見る。そこに広がっているのは恐怖と困惑だ。
「ち、違う……兄様。ちがう……」
サイラは弱々しく、頭を左右に振る。サイラが何を否定したいのかはわからないが、彼が行おうとしたことはわかっている。
多分、メラニーの望みを叶えるための行動だろう。原作でも、メラニーへの好意が高まっていくにつれて、三つ子たちは望んでメラニーを助けるようになるからだ。
俺は、床に散った資料を遠目に眺める。そこに書かれているのは、魔法生物の依頼を受けた者の名前だ。バイス兄上や、俺、ムルダム、誰がどういう依頼を受けたのか事細かに書かれている。
表向きには依頼報告書、しかし実際はラクトフェル家の人間の誰が、どのキメラを造ったのかを把握するための資料だ。
──あの程度だったら、まあ渡してもいいんだが。
この程度なら何の証拠にもならない。元々俺は没落のためなら、ある程度の情報なら見逃していいと考えていた。しかし今回は、場所が場所だ。
あまりにも確信的な内容はサイラの命に関わるため、その場合は止めようとしていただけだ。
しかし、メラニーが今欲しい情報はこれなのか?
もっと決定的な証拠になるものを選ぶと思っていたため、俺も予想外だ。
「サイラ、落ち着きなさい」
俺は片膝を折って、屈むとサイラに目線を合わせる。他の二人にも約束したのだから、とりあえずはサイラの話を聞こうとした時だ。
ふと、影がかかる。その長い影は俺に付いてきているアルヴェンのものだ。
アルヴェンは、三つ子が側にいる間はあまり俺のすぐ側には近寄らない。それでも、一定の距離から離れたりはしないが、こういう風に近付いてくること自体が珍しい。
ああ、アルヴェンも彼なりにサイラを心配しているのだろうと顔を上げた瞬間、俺は凍り付いた。
青白い光を受けたアルヴェンの虹彩は冷たい鋼のように鈍く光り、瞳孔は恐ろしいほどに微動だにしなかった。
その表情には何の揺らぎもなく、怒りも憎しみも、ましてや迷いの影すら浮かんでいない。まるで石で削り出された仮面のように整った表情の奥で、瞳だけが異様な光を宿していた。
そうして、人間らしい感情を全て削ぎ落としたまま、アルヴェンが見つめているのは──サイラだった。
それに気付いた時、ぞわりと背筋が震えた。
アルヴェンが薄く口を開くと、見るだけで寒さを感じられる白い吐息が溢れ出す。それがどういう力を持つかを俺は知っている。その凄まじさも目にした。
次の瞬間、俺は弾かれるように立ち上がり、声を張り上げる。
「──ッ、アルヴェン!!」
部屋中に広がるような大声と共に俺は、アルヴェンの胸ぐらを掴んで引き寄せる。心臓が馬鹿みたい早鐘を打ち始めて、動揺から呼吸さえ乱れる。
原作を、いや今まで身近で見続けていたからこそ、わかってしまった。
「お前、今……っ!!」
───サイラを、殺そうとしているだろう!
次の言葉をぐっと飲み込んで、眉を顰めながらアルヴェンを睨み付ける。
間違いない。アルヴェンは、今し方サイラを凍り付かせようとしていた。それは明確な殺意だった。
アルヴェンは俺が近くで名前を呼ぶと、その白い息を小さく吸い込む。それでも、吐き出された冷気は刺すように冷たく、俺の頬を撫でる。
そして、黙って俺を見るアルヴェンは不気味なほど平然として、いつもの彼そのものだった。
366
あなたにおすすめの小説
転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています
柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。
酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。
性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。
そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。
離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。
姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。
冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟
今度こそ、本当の恋をしよう。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【1部完・2部準備中】人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
巻き戻った悪役令息のかぶってた猫
いいはな
BL
婚約者のアーノルドからある日突然断罪され、処刑されたルイ。目覚めるとなぜか処刑される一年前に時間が巻き戻っていた。
なんとか処刑を回避しようと奔走するルイだが、すでにその頃にはアーノルドが思いを寄せていたミカエルへと嫌がらせをしており、もはやアーノルドとの関係修復は不可能。断頭台は目の前。処刑へと秒読み。
全てがどうでも良くなったルイはそれまで被っていた猫を脱ぎ捨てて、せめてありのままの自分で生きていこうとする。
果たして、悪役令息であったルイは処刑までにありのままの自分を受け入れてくれる友人を作ることができるのか――!?
冷たく見えるが素は天然ポワポワな受けとそんな受けに振り回されがちな溺愛攻めのお話。
※キスくらいしかしませんが、一応性描写がある話は※をつけます。※話の都合上、主人公が一度死にます。※前半はほとんど溺愛要素は無いと思います。※ちょっとした悪役が出てきますが、ざまぁの予定はありません。※この世界は男同士での婚約が当たり前な世界になっております。
初投稿です。至らない点も多々あるとは思いますが、空よりも広く、海よりも深い心で読んでいただけると幸いです。
また、この作品は亀更新になると思われます。あらかじめご了承ください。
【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)
悪役令息の花図鑑
蓮条緋月
BL
公爵令息シュヴァリエ・アクナイトはある日、毒にあたり生死を彷徨い、唐突に前世を思い出す。自分がゲームの悪役令息に生まれ変わったことに気づいたシュヴァリエは思った。
「公爵家の力を使えば世界中の花を集めて押し花が作れる!」
押し花作りが中毒レベルで趣味だったシュヴァリエはゲームのストーリーなどお構いなしに好き勝手動くことに決め行動が一変。その変化に周囲がドン引きする中、学園で奇妙な事件が発生!現場に一輪の花が置かれていたことを知ったシュヴァリエはこれがゲームのストーリーであることを思い出す。花が関わっているという理由で事件を追うことにしたシュヴァリエは、ゲームの登場人物であり主人公の右腕となる隣国の留学生アウル・オルニスと行動を共にするのだが……?
※☆はR描写になります
※他サイトにて重複掲載あり
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる