【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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3章

5.殺意

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 真っ暗な室内で、灯りも付けずに小さな影が闇の中で蠢いている。
 微かな紙が擦れるような音に物を動かす音が続くが、それらの物音は最小限に抑えられていた。
 ここはラクトフェル家の地下室にある一室。この部屋は多くの資料が収められている場所で書庫ともいえる場所だ。地下室にあるということは、当然全てキメラ関係のもので、ラクトフェル家の暗部といえる。
 今そこに、本来は入るなと命じられていたはずの人間がいる。
 
「──ウィルオウィスプ。サタリア・ラクトフェルが命じる、光を」
 
 そう俺が淡々と告げると、魔法生物であるウィルオウィスプがその灯りを取り戻す。
 この部屋には監視役兼灯りを担当する、青白い炎を放ちながら浮遊するウィルオウィスプという魔法生物がいる。これは初代当主が残したものの一つでもあり、ラクトフェルの名前を持つものにしか反応しない。もちろん、彼らが攻撃しないのもラクトフェル家の人間だけだ。
 つまり──。
 
「ここで何をしている──サイラ」
 
 青白い炎に照らされながら、驚愕で固まるサイラがそこにいた。
 
「さ、サタリア……兄様……?」
 
 呆然と俺を見上げるサイラの手には、資料がしっかりと握られている。それを見た瞬間、サイラが何をしようとしたのかすぐにわかった。
 
「それを……持ち出そうとしたのか」
 
 冷静であろうとしたせいか、思ったより冷たく鋭い声になってしまう。サイラは怯えたように体を大きく跳ねさせ、勢いよく資料を手放した。手元にあった紙が床に散っていく。
 
「あ……あれ……?」
 
 サイラは自分が行ったことを理解していないような顔をして、俺を見る。そこに広がっているのは恐怖と困惑だ。
 
「ち、違う……兄様。ちがう……」
 
 サイラは弱々しく、頭を左右に振る。サイラが何を否定したいのかはわからないが、彼が行おうとしたことはわかっている。
 多分、メラニーの望みを叶えるための行動だろう。原作でも、メラニーへの好意が高まっていくにつれて、三つ子たちは望んでメラニーを助けるようになるからだ。
 俺は、床に散った資料を遠目に眺める。そこに書かれているのは、魔法生物の依頼を受けた者の名前だ。バイス兄上や、俺、ムルダム、誰がどういう依頼を受けたのか事細かに書かれている。
 表向きには依頼報告書、しかし実際はラクトフェル家の人間の誰が、どのキメラを造ったのかを把握するための資料だ。
 ──あの程度だったら、まあ渡してもいいんだが。
 この程度なら何の証拠にもならない。元々俺は没落のためなら、ある程度の情報なら見逃していいと考えていた。しかし今回は、場所が場所だ。
 あまりにも確信的な内容はサイラの命に関わるため、その場合は止めようとしていただけだ。
 しかし、メラニーが今欲しい情報はこれなのか?
 もっと決定的な証拠になるものを選ぶと思っていたため、俺も予想外だ。
 
「サイラ、落ち着きなさい」
 
 俺は片膝を折って、屈むとサイラに目線を合わせる。他の二人にも約束したのだから、とりあえずはサイラの話を聞こうとした時だ。
 ふと、影がかかる。その長い影は俺に付いてきているアルヴェンのものだ。
 アルヴェンは、三つ子が側にいる間はあまり俺のすぐ側には近寄らない。それでも、一定の距離から離れたりはしないが、こういう風に近付いてくること自体が珍しい。
 ああ、アルヴェンも彼なりにサイラを心配しているのだろうと顔を上げた瞬間、俺は凍り付いた。
 青白い光を受けたアルヴェンの虹彩は冷たい鋼のように鈍く光り、瞳孔は恐ろしいほどに微動だにしなかった。
 その表情には何の揺らぎもなく、怒りも憎しみも、ましてや迷いの影すら浮かんでいない。まるで石で削り出された仮面のように整った表情の奥で、瞳だけが異様な光を宿していた。
 そうして、人間らしい感情を全て削ぎ落としたまま、アルヴェンが見つめているのは​──サイラだった。
 それに気付いた時、ぞわりと背筋が震えた。
 アルヴェンが薄く口を開くと、見るだけで寒さを感じられる白い吐息が溢れ出す。それがどういう力を持つかを俺は知っている。その凄まじさも目にした。
 次の瞬間、俺は弾かれるように立ち上がり、声を張り上げる。
 
「​──ッ、アルヴェン!!」
 
 部屋中に広がるような大声と共に俺は、アルヴェンの胸ぐらを掴んで引き寄せる。心臓が馬鹿みたい早鐘を打ち始めて、動揺から呼吸さえ乱れる。
 原作を、いや今まで身近で見続けていたからこそ、わかってしまった。
 
「お前、今……っ!!」
 
 ​───サイラを、殺そうとしているだろう!
 次の言葉をぐっと飲み込んで、眉を顰めながらアルヴェンを睨み付ける。
 間違いない。アルヴェンは、今し方サイラを凍り付かせようとしていた。それは明確な殺意だった。
 アルヴェンは俺が近くで名前を呼ぶと、その白い息を小さく吸い込む。それでも、吐き出された冷気は刺すように冷たく、俺の頬を撫でる。
 そして、黙って俺を見るアルヴェンは不気味なほど平然として、いつもの彼そのものだった。
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