40 / 81
3章
4.二人の相談
しおりを挟む
その時、扉のノック音が部屋全体に広がる。俺は、餌の豆を一粒フギンに渡して、小窓から外へ放す。すると、すぐさま大きく羽ばたき、空に戻っていく小鳥の姿を眺めてから窓を閉じた。
「ノエル。アルヴェンなら開けてくれ」
そう声を掛けると、宙に白い布がふわりと現れる。そして、いつものように扉が開くと、そこに立っているのはアルヴェンだ。しかし、そこにいたのはアルヴェンだけではなかった。
「……サタリア様。シン様とチーク様がお見えです」
そう、アルヴェンの後ろに立っていたのは、シンとチークだった。
◆◆◆
「ほら。お前たちが好きな紅茶とおやつを用意した。遠慮せずに食べなさい」
「本当だ、ありがとう……サタリア兄様」
「……ありがとな、サタリア兄様」
アルヴェンに言って用意させた茶菓子だが、いつもならば飛びつくはずの二人が今回は大人しい。俺の自室に来てから、ずっとこの調子だ。
シンもチークもどこか沈んだ様子で顔色も良いとは言いづらい。すぐさま部屋の中に入れて座らせたが、相変わらず浮かない顔をしていた。
それに、三つ子が三人揃っていないのも珍しい。生まれた時から一緒だった三つ子は、互いを自分の分身のように思っているため、常に三人行動している。各自バラバラに甘えにくることはあっても、こうして一人だけ欠けてくることは無かったことだ。
アルヴェンは俺たちから少し離れた位置で給仕役として、控えている。とはいえ、彼の耳ならあそこからでも、こちらの声は聞こえているだろう。
「……お前たちが落ち込んでいるのは、サイラのことかな?」
俺が名前を出すと、二人の顔色がさっと変化する。どうやら図星だったようで二人は少しだけ躊躇ってから、揃って頷いた。
「……最近、サイラがおかしいの。僕らと一緒に行動したくないって言い出したりして」
「俺たちに何も言わず、外出したりするんだよ。それで何してるんだって聞いても、俺らには関係ねえって怒るんだよ」
俺からすればただの反抗期にも思えるが、シンとチークの様子を見る限りあり得ないことなのだろう。
「その外出先が、どこかは知っているのか?」
「──第四皇女に会いに……皇城に行ってるみたいなの」
シンの言葉を聞いても、驚きは薄い。それでも心に小さな棘が突き刺さった。
ちくちくとした痛みを今は無視する。このことは覚悟していたことだ。俺としては起こりうる未来だと思っていたし、原作通りの流れならサイラはメラニーに惚れて、夢中になっている頃だ。そして、その気持ちが高まるとラクトフェルを裏切るようになる。
「お前たちは……何もないのか?」
「え……?」
「第四皇女に出会ったのだろう? 何も、思うところはなかったのかい」
俺の質問にチークは、首を傾げて不思議そうな顔でこちらを見る。
俺からすれば、おかしいと感じるのは二人のほうだ。二人もメラニーと出会ったのだから、彼女に惚れていないとおかしいのだが、そんな様子はどこにも見えない。
「さ、サタリア兄様が何を言いたいのかわかんないけど……僕は正直、もう顔なんて覚えてないよ」
「俺もだ。そりゃ容姿は良かったと思うけど、特に何の印象もねえけど……」
その表情に嘘は感じ取れない。こうしてサイラがおかしいと言いにくる辺り、二人がメラニーに惚れていないのは本当なのだろう。
──それは、どうしてだ?
やはりこの世界は原作通りに動くことはないのだろうか。それとも、何か別の切っ掛けが必要だったのだろうか。
色々考えてみるが、答えは出ない。
「……わかった。サイラには私から聞いてみよう」
「ほ、本当か?」
「よ、良かったぁ……サタリア兄様が言ってくれたら、サイラもきっと話してくれる!」
チークとシンは、安堵したような息を揃って吐き出す。急に変わった兄弟をずっと心配していたのだろう。表情にも明るさが僅かに戻ったように見える。
「だから、気にせずに食べなさい。折角の紅茶も冷めてしまうよ」
二人は声を揃えて「うん!」と答えると紅茶や菓子に手を伸ばす。先ほどとは違って暗い影も消えており、俺は安堵から胸を撫でおろした。
やっぱり三つ子は俺にとっては可愛い弟だ。この家が没落することになっても、彼らだけは守ってやりたいし、助けてやりたい。
出来ることなら、三つ子たちも同じ気持ちであってほしい。
そう思うのは自分勝手な考えであると知りながら、口許を緩めて二人の姿をただ静かに見守った。
しかし───こちらを見ていたアルヴェンが、眉を顰めて俯いていたことに、俺は気付かなかった。
「ノエル。アルヴェンなら開けてくれ」
そう声を掛けると、宙に白い布がふわりと現れる。そして、いつものように扉が開くと、そこに立っているのはアルヴェンだ。しかし、そこにいたのはアルヴェンだけではなかった。
「……サタリア様。シン様とチーク様がお見えです」
そう、アルヴェンの後ろに立っていたのは、シンとチークだった。
◆◆◆
「ほら。お前たちが好きな紅茶とおやつを用意した。遠慮せずに食べなさい」
「本当だ、ありがとう……サタリア兄様」
「……ありがとな、サタリア兄様」
アルヴェンに言って用意させた茶菓子だが、いつもならば飛びつくはずの二人が今回は大人しい。俺の自室に来てから、ずっとこの調子だ。
シンもチークもどこか沈んだ様子で顔色も良いとは言いづらい。すぐさま部屋の中に入れて座らせたが、相変わらず浮かない顔をしていた。
それに、三つ子が三人揃っていないのも珍しい。生まれた時から一緒だった三つ子は、互いを自分の分身のように思っているため、常に三人行動している。各自バラバラに甘えにくることはあっても、こうして一人だけ欠けてくることは無かったことだ。
アルヴェンは俺たちから少し離れた位置で給仕役として、控えている。とはいえ、彼の耳ならあそこからでも、こちらの声は聞こえているだろう。
「……お前たちが落ち込んでいるのは、サイラのことかな?」
俺が名前を出すと、二人の顔色がさっと変化する。どうやら図星だったようで二人は少しだけ躊躇ってから、揃って頷いた。
「……最近、サイラがおかしいの。僕らと一緒に行動したくないって言い出したりして」
「俺たちに何も言わず、外出したりするんだよ。それで何してるんだって聞いても、俺らには関係ねえって怒るんだよ」
俺からすればただの反抗期にも思えるが、シンとチークの様子を見る限りあり得ないことなのだろう。
「その外出先が、どこかは知っているのか?」
「──第四皇女に会いに……皇城に行ってるみたいなの」
シンの言葉を聞いても、驚きは薄い。それでも心に小さな棘が突き刺さった。
ちくちくとした痛みを今は無視する。このことは覚悟していたことだ。俺としては起こりうる未来だと思っていたし、原作通りの流れならサイラはメラニーに惚れて、夢中になっている頃だ。そして、その気持ちが高まるとラクトフェルを裏切るようになる。
「お前たちは……何もないのか?」
「え……?」
「第四皇女に出会ったのだろう? 何も、思うところはなかったのかい」
俺の質問にチークは、首を傾げて不思議そうな顔でこちらを見る。
俺からすれば、おかしいと感じるのは二人のほうだ。二人もメラニーと出会ったのだから、彼女に惚れていないとおかしいのだが、そんな様子はどこにも見えない。
「さ、サタリア兄様が何を言いたいのかわかんないけど……僕は正直、もう顔なんて覚えてないよ」
「俺もだ。そりゃ容姿は良かったと思うけど、特に何の印象もねえけど……」
その表情に嘘は感じ取れない。こうしてサイラがおかしいと言いにくる辺り、二人がメラニーに惚れていないのは本当なのだろう。
──それは、どうしてだ?
やはりこの世界は原作通りに動くことはないのだろうか。それとも、何か別の切っ掛けが必要だったのだろうか。
色々考えてみるが、答えは出ない。
「……わかった。サイラには私から聞いてみよう」
「ほ、本当か?」
「よ、良かったぁ……サタリア兄様が言ってくれたら、サイラもきっと話してくれる!」
チークとシンは、安堵したような息を揃って吐き出す。急に変わった兄弟をずっと心配していたのだろう。表情にも明るさが僅かに戻ったように見える。
「だから、気にせずに食べなさい。折角の紅茶も冷めてしまうよ」
二人は声を揃えて「うん!」と答えると紅茶や菓子に手を伸ばす。先ほどとは違って暗い影も消えており、俺は安堵から胸を撫でおろした。
やっぱり三つ子は俺にとっては可愛い弟だ。この家が没落することになっても、彼らだけは守ってやりたいし、助けてやりたい。
出来ることなら、三つ子たちも同じ気持ちであってほしい。
そう思うのは自分勝手な考えであると知りながら、口許を緩めて二人の姿をただ静かに見守った。
しかし───こちらを見ていたアルヴェンが、眉を顰めて俯いていたことに、俺は気付かなかった。
389
あなたにおすすめの小説
転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています
柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。
酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。
性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。
そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。
離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。
姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。
冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟
今度こそ、本当の恋をしよう。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【1部完・2部準備中】人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
巻き戻った悪役令息のかぶってた猫
いいはな
BL
婚約者のアーノルドからある日突然断罪され、処刑されたルイ。目覚めるとなぜか処刑される一年前に時間が巻き戻っていた。
なんとか処刑を回避しようと奔走するルイだが、すでにその頃にはアーノルドが思いを寄せていたミカエルへと嫌がらせをしており、もはやアーノルドとの関係修復は不可能。断頭台は目の前。処刑へと秒読み。
全てがどうでも良くなったルイはそれまで被っていた猫を脱ぎ捨てて、せめてありのままの自分で生きていこうとする。
果たして、悪役令息であったルイは処刑までにありのままの自分を受け入れてくれる友人を作ることができるのか――!?
冷たく見えるが素は天然ポワポワな受けとそんな受けに振り回されがちな溺愛攻めのお話。
※キスくらいしかしませんが、一応性描写がある話は※をつけます。※話の都合上、主人公が一度死にます。※前半はほとんど溺愛要素は無いと思います。※ちょっとした悪役が出てきますが、ざまぁの予定はありません。※この世界は男同士での婚約が当たり前な世界になっております。
初投稿です。至らない点も多々あるとは思いますが、空よりも広く、海よりも深い心で読んでいただけると幸いです。
また、この作品は亀更新になると思われます。あらかじめご了承ください。
【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)
悪役令息の花図鑑
蓮条緋月
BL
公爵令息シュヴァリエ・アクナイトはある日、毒にあたり生死を彷徨い、唐突に前世を思い出す。自分がゲームの悪役令息に生まれ変わったことに気づいたシュヴァリエは思った。
「公爵家の力を使えば世界中の花を集めて押し花が作れる!」
押し花作りが中毒レベルで趣味だったシュヴァリエはゲームのストーリーなどお構いなしに好き勝手動くことに決め行動が一変。その変化に周囲がドン引きする中、学園で奇妙な事件が発生!現場に一輪の花が置かれていたことを知ったシュヴァリエはこれがゲームのストーリーであることを思い出す。花が関わっているという理由で事件を追うことにしたシュヴァリエは、ゲームの登場人物であり主人公の右腕となる隣国の留学生アウル・オルニスと行動を共にするのだが……?
※☆はR描写になります
※他サイトにて重複掲載あり
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる