【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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3章

4.二人の相談

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 その時、扉のノック音が部屋全体に広がる。俺は、餌の豆を一粒フギンに渡して、小窓から外へ放す。すると、すぐさま大きく羽ばたき、空に戻っていく小鳥の姿を眺めてから窓を閉じた。
 
「ノエル。アルヴェンなら開けてくれ」
 
 そう声を掛けると、宙に白い布がふわりと現れる。そして、いつものように扉が開くと、そこに立っているのはアルヴェンだ。しかし、そこにいたのはアルヴェンだけではなかった。
 
「……サタリア様。シン様とチーク様がお見えです」
 
 そう、アルヴェンの後ろに立っていたのは、シンとチークだった。
 
 ◆◆◆
 
「ほら。お前たちが好きな紅茶とおやつを用意した。遠慮せずに食べなさい」
「本当だ、ありがとう……サタリア兄様」
「……ありがとな、サタリア兄様」
 
 アルヴェンに言って用意させた茶菓子だが、いつもならば飛びつくはずの二人が今回は大人しい。俺の自室に来てから、ずっとこの調子だ。
 シンもチークもどこか沈んだ様子で顔色も良いとは言いづらい。すぐさま部屋の中に入れて座らせたが、相変わらず浮かない顔をしていた。
 それに、三つ子が三人揃っていないのも珍しい。生まれた時から一緒だった三つ子は、互いを自分の分身のように思っているため、常に三人行動している。各自バラバラに甘えにくることはあっても、こうして一人だけ欠けてくることは無かったことだ。
 アルヴェンは俺たちから少し離れた位置で給仕役として、控えている。とはいえ、彼の耳ならあそこからでも、こちらの声は聞こえているだろう。
 
「……お前たちが落ち込んでいるのは、サイラのことかな?」
 
 俺が名前を出すと、二人の顔色がさっと変化する。どうやら図星だったようで二人は少しだけ躊躇ってから、揃って頷いた。
 
「……最近、サイラがおかしいの。僕らと一緒に行動したくないって言い出したりして」
「俺たちに何も言わず、外出したりするんだよ。それで何してるんだって聞いても、俺らには関係ねえって怒るんだよ」
 
 俺からすればただの反抗期にも思えるが、シンとチークの様子を見る限りあり得ないことなのだろう。
 
「その外出先が、どこかは知っているのか?」
「──第四皇女に会いに……皇城に行ってるみたいなの」
 
 シンの言葉を聞いても、驚きは薄い。それでも心に小さな棘が突き刺さった。
 ちくちくとした痛みを今は無視する。このことは覚悟していたことだ。俺としては起こりうる未来だと思っていたし、原作通りの流れならサイラはメラニーに惚れて、夢中になっている頃だ。そして、その気持ちが高まるとラクトフェルを裏切るようになる。
 
「お前たちは……何もないのか?」
「え……?」
「第四皇女に出会ったのだろう? 何も、思うところはなかったのかい」
 
 俺の質問にチークは、首を傾げて不思議そうな顔でこちらを見る。
 俺からすれば、おかしいと感じるのは二人のほうだ。二人もメラニーと出会ったのだから、彼女に惚れていないとおかしいのだが、そんな様子はどこにも見えない。
 
「さ、サタリア兄様が何を言いたいのかわかんないけど……僕は正直、もう顔なんて覚えてないよ」
「俺もだ。そりゃ容姿は良かったと思うけど、特に何の印象もねえけど……」
 
 その表情に嘘は感じ取れない。こうしてサイラがおかしいと言いにくる辺り、二人がメラニーに惚れていないのは本当なのだろう。
 ──それは、どうしてだ?
 やはりこの世界は原作通りに動くことはないのだろうか。それとも、何か別の切っ掛けが必要だったのだろうか。
 色々考えてみるが、答えは出ない。
 
「……わかった。サイラには私から聞いてみよう」
「ほ、本当か?」
「よ、良かったぁ……サタリア兄様が言ってくれたら、サイラもきっと話してくれる!」
 
 チークとシンは、安堵したような息を揃って吐き出す。急に変わった兄弟をずっと心配していたのだろう。表情にも明るさが僅かに戻ったように見える。
 
「だから、気にせずに食べなさい。折角の紅茶も冷めてしまうよ」
 
 二人は声を揃えて「うん!」と答えると紅茶や菓子に手を伸ばす。先ほどとは違って暗い影も消えており、俺は安堵から胸を撫でおろした。
 やっぱり三つ子は俺にとっては可愛い弟だ。この家が没落することになっても、彼らだけは守ってやりたいし、助けてやりたい。
 出来ることなら、三つ子たちも同じ気持ちであってほしい。
 そう思うのは自分勝手な考えであると知りながら、口許を緩めて二人の姿をただ静かに見守った。
 しかし───こちらを見ていたアルヴェンが、眉を顰めて俯いていたことに、俺は気付かなかった。
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