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3章
12.証拠
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「サタリア、姿勢を正せ」
「はい、父上」
ムルダムの声で我に返ると、言われた通りに軽く顎を引いてから、背筋を真っ直ぐ伸ばす。
ここは皇城内であり、目の前にあるのは玉座の間に続く扉だ。
その重厚な扉を守っているのは鋼鉄の鎧を纏った二人の騎士だが、彼らの首から上はない。本来頭がある部分には何もなく、その頭は小脇に抱えられていた。そして、その状態で俺の身長ほどある大剣を片手で持ち、胸近くに掲げて扉を挟むように、立っている。
彼らは魔法生物のデュラハンだ。忠義に厚く、戦闘力も高い。ちなみに、創ったのは俺だ。しかし、彼らは俺を見ても微動だにしない。
まあ、当然だろう。彼らは俺が初めの方に創った魔法生物だ。ケルベロスたちとは違い、自分の立場をよく理解している。
……そのはずなのだが、よく見るとクローズヘルムを被った首の方だけが激しく震えているように見えるのは気のせいだろうか。あれは、少し怖い。
デュラハンたちは少ししてから、その扉を開く。開いた先に広がるのは、静寂と威圧が混ざり合う空間だ。
高い天井には金と青の装飾が施され、日差しを受けて鈍い光を放っている。床に深紅の絨毯が真っ直ぐに敷かれ、その正面奥には大きな窓が二つ。その窓を背にして、玉座があった。
そこに座るのは五十代後半あたりの男性だ。いい歳の取り方をしているといっていいほど年齢に相応しい整った容姿と、堂々とした出で立ちの彼がこの国の皇帝──ユーシバル・カートライトだ。
そして、その側にはメラニーが立っていた。メラニーは、敵意の籠った目でじっとこちらを見つめている。
実は、この国での王権はかなり強い。俺にはその辺りの理由がよくわからないのだが、なぜか貴族たちや教会は、皇帝に絶対的忠誠を誓っている。それこそ狡猾なムルダムでさえ、皇帝陛下には悪意を向けたり、文句を口にしたりしない。
つまり、不気味なくらい皇帝を崇拝するこの国では王権は絶対的な力を持っているのだ。彼が死ぬべきと決めたのなら、誰も逆らえない。
俺はムルダムの後をゆっくりとついていきながら、玉座の前で足を止める。ムルダムが臣下の礼として、その場に跪くと俺も同じように跪いた。
「陛下。呼び出しを受け、息子と共に参りました。この度の用件をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ふむ。実はな、ラクトフェル伯爵。少し、面白い話を聞いてな。その話をしたくて呼んだのだ」
「面白い話……ですか?」
ユーシバルは玉座からこちらを見下ろしながら口許を緩めて、笑う。しかし、その瞳には何の喜色も浮かんでいないことは一目瞭然だった。ムルダムにもそれが分かったのだろう。穏やかに微笑んで応えながらも、表情には隙が無い。
「──伯爵が、非道な人身売買に手を染めていると聞いた」
その言葉が玉座の間に響き渡った瞬間、静寂が室内を包み込む。俺としては、やはりかと言ったところだ。ただ、ユーシバルの切り口が原作とは違うのが少々気になった。原作では、ラクトフェル家には本当に祝福者がいるのかと、問いかけから始まる。
まあ、既に原作の流れは崩壊しているから、これくらいは気にしなくてもいい範疇ではある。
俺はもし、原作通りの断罪が始まったとしたら、自分が祝福者であることは隠すつもりだ。その決定的な反論がなければ、二回目の断罪は必要ない。ここで、望んだとおりにラクトフェル家は没落するだろう。
「……申し訳ありませんが、何のことを仰られているのか私にはわかりかねます」
ムルダムは平然とした態度で穏やかな微笑みを浮かべながら言葉を返した。彼は、この程度で動揺してボロを出す男ではない。
「陛下は何をもって、そう判断したのでしょうか? 私の行動が誤解を生んだのかもしれません。よろしければ、それをお教えいただきたいのですが」
ムルダムは暗に証拠を出せと言っている。当然の言い分だ。如何に皇帝であろうとも、証拠もなく罰することはできない。
──しかし、まともな証拠なんてないはずだ。
キメラ実験所や、人身売買の証拠すら手に入れられていないはずだ。俺は、メラニーの顔をそっと窺う。しかし、彼女の顔に動揺は見られない。落ち着いた表情で、静かに話を聞いていた。
「ふむ、それもそうだ。メラニー、呼んで来なさい」
「はい、お父様」
メラニーは小さく頷くと、そのまま扉から出ていく。何が起こっているのか、戸惑っていると彼女はすぐに戻ってくる。
戻ってきた時、そこにいるのは彼女だけではなかった。そして、俺はその隣に立つ人物を見て、凍り付いた。
「……サイラ」
メラニーに寄り添うように立っているのは、サイラだった。
「……サイラ。お前が何故そこにいる」
ムルダムも、サイラの姿に気付くと眉を顰めた。その冷え切った声を聞いて、サイラの肩が小さく跳ねる。
……やっぱり、サイラの様子がおかしい。
あの書庫で出会った時は、罪悪感からかと思っていたが、今も瞳孔は開きっぱなしで、落ち着きなさそうに瞳は不安定に揺れている。それは普段のサイラとは遠くかけ離れている。
メラニーが、サイラの肩にそっと手を触れながら前へ進むように促すと覚束ない足取りで前へ進み始める。それを見て、俺の背筋はぞくりと震えた。
───まさか、メラニーが用意した証拠というのは。
「はい、父上」
ムルダムの声で我に返ると、言われた通りに軽く顎を引いてから、背筋を真っ直ぐ伸ばす。
ここは皇城内であり、目の前にあるのは玉座の間に続く扉だ。
その重厚な扉を守っているのは鋼鉄の鎧を纏った二人の騎士だが、彼らの首から上はない。本来頭がある部分には何もなく、その頭は小脇に抱えられていた。そして、その状態で俺の身長ほどある大剣を片手で持ち、胸近くに掲げて扉を挟むように、立っている。
彼らは魔法生物のデュラハンだ。忠義に厚く、戦闘力も高い。ちなみに、創ったのは俺だ。しかし、彼らは俺を見ても微動だにしない。
まあ、当然だろう。彼らは俺が初めの方に創った魔法生物だ。ケルベロスたちとは違い、自分の立場をよく理解している。
……そのはずなのだが、よく見るとクローズヘルムを被った首の方だけが激しく震えているように見えるのは気のせいだろうか。あれは、少し怖い。
デュラハンたちは少ししてから、その扉を開く。開いた先に広がるのは、静寂と威圧が混ざり合う空間だ。
高い天井には金と青の装飾が施され、日差しを受けて鈍い光を放っている。床に深紅の絨毯が真っ直ぐに敷かれ、その正面奥には大きな窓が二つ。その窓を背にして、玉座があった。
そこに座るのは五十代後半あたりの男性だ。いい歳の取り方をしているといっていいほど年齢に相応しい整った容姿と、堂々とした出で立ちの彼がこの国の皇帝──ユーシバル・カートライトだ。
そして、その側にはメラニーが立っていた。メラニーは、敵意の籠った目でじっとこちらを見つめている。
実は、この国での王権はかなり強い。俺にはその辺りの理由がよくわからないのだが、なぜか貴族たちや教会は、皇帝に絶対的忠誠を誓っている。それこそ狡猾なムルダムでさえ、皇帝陛下には悪意を向けたり、文句を口にしたりしない。
つまり、不気味なくらい皇帝を崇拝するこの国では王権は絶対的な力を持っているのだ。彼が死ぬべきと決めたのなら、誰も逆らえない。
俺はムルダムの後をゆっくりとついていきながら、玉座の前で足を止める。ムルダムが臣下の礼として、その場に跪くと俺も同じように跪いた。
「陛下。呼び出しを受け、息子と共に参りました。この度の用件をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ふむ。実はな、ラクトフェル伯爵。少し、面白い話を聞いてな。その話をしたくて呼んだのだ」
「面白い話……ですか?」
ユーシバルは玉座からこちらを見下ろしながら口許を緩めて、笑う。しかし、その瞳には何の喜色も浮かんでいないことは一目瞭然だった。ムルダムにもそれが分かったのだろう。穏やかに微笑んで応えながらも、表情には隙が無い。
「──伯爵が、非道な人身売買に手を染めていると聞いた」
その言葉が玉座の間に響き渡った瞬間、静寂が室内を包み込む。俺としては、やはりかと言ったところだ。ただ、ユーシバルの切り口が原作とは違うのが少々気になった。原作では、ラクトフェル家には本当に祝福者がいるのかと、問いかけから始まる。
まあ、既に原作の流れは崩壊しているから、これくらいは気にしなくてもいい範疇ではある。
俺はもし、原作通りの断罪が始まったとしたら、自分が祝福者であることは隠すつもりだ。その決定的な反論がなければ、二回目の断罪は必要ない。ここで、望んだとおりにラクトフェル家は没落するだろう。
「……申し訳ありませんが、何のことを仰られているのか私にはわかりかねます」
ムルダムは平然とした態度で穏やかな微笑みを浮かべながら言葉を返した。彼は、この程度で動揺してボロを出す男ではない。
「陛下は何をもって、そう判断したのでしょうか? 私の行動が誤解を生んだのかもしれません。よろしければ、それをお教えいただきたいのですが」
ムルダムは暗に証拠を出せと言っている。当然の言い分だ。如何に皇帝であろうとも、証拠もなく罰することはできない。
──しかし、まともな証拠なんてないはずだ。
キメラ実験所や、人身売買の証拠すら手に入れられていないはずだ。俺は、メラニーの顔をそっと窺う。しかし、彼女の顔に動揺は見られない。落ち着いた表情で、静かに話を聞いていた。
「ふむ、それもそうだ。メラニー、呼んで来なさい」
「はい、お父様」
メラニーは小さく頷くと、そのまま扉から出ていく。何が起こっているのか、戸惑っていると彼女はすぐに戻ってくる。
戻ってきた時、そこにいるのは彼女だけではなかった。そして、俺はその隣に立つ人物を見て、凍り付いた。
「……サイラ」
メラニーに寄り添うように立っているのは、サイラだった。
「……サイラ。お前が何故そこにいる」
ムルダムも、サイラの姿に気付くと眉を顰めた。その冷え切った声を聞いて、サイラの肩が小さく跳ねる。
……やっぱり、サイラの様子がおかしい。
あの書庫で出会った時は、罪悪感からかと思っていたが、今も瞳孔は開きっぱなしで、落ち着きなさそうに瞳は不安定に揺れている。それは普段のサイラとは遠くかけ離れている。
メラニーが、サイラの肩にそっと手を触れながら前へ進むように促すと覚束ない足取りで前へ進み始める。それを見て、俺の背筋はぞくりと震えた。
───まさか、メラニーが用意した証拠というのは。
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