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3章
11.断罪
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「おはようございます、サタリア様」
リティは、俺を見るなり深々と頭を下げる。決してリティが嫌だった訳ではない。しかし、胸の奥がずんと重くなり少しだけ全身が重くなる。その正体が寂しさだということに気付く。
アルヴェンの姿が見えないだけで、これだ。
アルヴェンが会いに来なかっただけで、心臓がぎゅっと締め付けられてしまう。完璧に自覚した恋心ほど厄介なものはない。先が思いやられる。
しかしその時、リティの体をぐいっと押しのけて、現れた影がある。
「──早朝のご挨拶にまいりました、サタリア様。おはようございます。体調はいかがでしょうか?」
あの時よりもしっかり整えられた白髪、金の色の瞳は変わらず真っ直ぐに俺を射貫く。それだけで心臓が激しく動く。胸奥から込み上げてくる熱が、止まらない。
……落ち着け。演技を忘れるな。
演技を放棄しても問題ない面子ではあるが、油断しすぎはよくない。というか、素のままでいるとアルヴェンとまともに話せなくなりそうだ。
「体調に問題はない。しかし、二人揃ってどうした?」
見慣れた二人であるが、最初の時以来彼らが揃って来るのは初めてだ。まあ、リティが来たということはムルダムの用件であることは何となく予想がつく。
「朝早くに申し訳ありません。急ぎお伝えしたいことが二点ございまして、こちらに参りました」
「わかった、話を聞こう。お前も中に入りなさい、アルヴェン」
俺は二人を室内に招き入れると、ソファに腰を下ろした。すると、すぐさま動き出すのはリティだ。慣れた手付きと素早い動きで、言わずとも俺が今食べたかった茶菓子と、紅茶の準備を始める。さすがリティだ。
満足して、紅茶を口を付けて飲もうとした時、物凄い目付きでリティを睨むアルヴェンが見えた。さすがのアルヴェンでもこういうことに関して、リティには勝てないだろう。
「それで用は何か教えてくれ、リティ」
「はい。まずは、サイラ様についてです。昨晩に屋敷を出てそこから消息不明となっております。その件でシン様とチーク様が酷く心配しております」
その言葉を聞いて、反射的にアルヴェンの方へ目を向ける。アルヴェンは俺の視線を受けると、真っ直ぐ見返して頭を振った。
「俺は、約束通りに手を出していない」
それを聞いて、小さく安堵の息を吐く。どうやら消息不明になったのはアルヴェンのせいではないようだ。
アルヴェンは、俺に対して嘘はつかない。知っていて黙っていることはあっても、聞けば素直に答える。彼は基本的に俺に忠実だ。
だとすれば確かに心配だ。昨晩のサイラの様子はどうもおかしかった。あの時は余裕がなくてアルヴェンを止めることだけ考えていたから、サイラの様子をしっかり確かめることができなかった。急いで探し出した方がいいのは間違いないだろう。
「わかった、すぐに探そう。方々にも協力して貰えるように手紙を送る」
「かしこまりました。次に……皇城から、旦那様宛てに手紙が届きました」
「な、なに?」
その言葉を聞いた時に俺は眉を顰め、凍り付いた。呼び出しがただの依頼なら問題ないのだが、酷く嫌な予感がする。なぜなら、それは原作にもあった展開だからだ。
だから、俺は恐る恐る口を開いた。
「……もしかして、その呼び出しには、俺も呼ばれているのか?」
リティが違うと答えることを期待しながら、祈るように見つめる。しかし、リティは躊躇いながらも小さく頷いた。
「は、はい。次期当主であるサタリア様も、揃って登城するようにと」
それを聞いた瞬間、俺は頭を押さえながら俯いた。なぜなら、その呼び出しが──皇城で行われるのはラクトフェル家の悪事を暴くための、原作でいう断罪シーンだからだ。
◆◆◆
原作で、ラクトフェル家を暴くための断罪シーンは実は二回ある。
一度目は非公式な場で、サタリアとムルダムが皇帝に呼び出されて、キメラ作成の事実があるのか問い詰められる。
これはアルヴェンとメラニーが、ラクトフェル家には契約者の能力を持つ祝福者がいないのだと皇帝に伝えて、呼び出されたのだ。
アルヴェンのお陰である程度の証拠を集められていたため、ムルダムはあと一歩というところまで追い詰められる。しかし、その時はサタリアが契約者の力を見せつけたため、逆にメラニーたちが追い詰められる状況になるのだ。
ちなみに、この出来事の後でムルダムはサタリアに伯爵の地位を受け渡すことになる。メラニーたちが渡した証拠はキメラ作成の事実を証明できなかったが、人身売買に手を染めていたことは証明されたからだ。
多大な賠償金と、ムルダムが責任をとって爵位を次代に受け渡すという、誰から見ても甘めな処分だった。それは決定的な証拠がなかったことと、皇室も完璧な魔法生物を産む出すラクトフェル家を失いたくはなかったからだろうと、原作では描かれていた。
こうして、その日を境にサタリアは正式にラクトフェル伯爵になるのだ。
──しかし、これが本当にそうだとしたら……あまりにも早すぎる。
元々証拠など集めるにはアルヴェンと三つ子の協力が必須なのだ。
アルヴェンがいなければ、キメラの存在すら知ることは出来ず、三つ子がいなければ証拠は得られない。今のメラニーの側には、アルヴェンもおらず三つ子の内、二人はメラニーに興味すらない状態だ。
ラクトフェル家の内情を探るには、明らかに人手も時間も足りていない。この状況で、どうやってラクトフェル家を追い詰めようと言うのか。
リティは、俺を見るなり深々と頭を下げる。決してリティが嫌だった訳ではない。しかし、胸の奥がずんと重くなり少しだけ全身が重くなる。その正体が寂しさだということに気付く。
アルヴェンの姿が見えないだけで、これだ。
アルヴェンが会いに来なかっただけで、心臓がぎゅっと締め付けられてしまう。完璧に自覚した恋心ほど厄介なものはない。先が思いやられる。
しかしその時、リティの体をぐいっと押しのけて、現れた影がある。
「──早朝のご挨拶にまいりました、サタリア様。おはようございます。体調はいかがでしょうか?」
あの時よりもしっかり整えられた白髪、金の色の瞳は変わらず真っ直ぐに俺を射貫く。それだけで心臓が激しく動く。胸奥から込み上げてくる熱が、止まらない。
……落ち着け。演技を忘れるな。
演技を放棄しても問題ない面子ではあるが、油断しすぎはよくない。というか、素のままでいるとアルヴェンとまともに話せなくなりそうだ。
「体調に問題はない。しかし、二人揃ってどうした?」
見慣れた二人であるが、最初の時以来彼らが揃って来るのは初めてだ。まあ、リティが来たということはムルダムの用件であることは何となく予想がつく。
「朝早くに申し訳ありません。急ぎお伝えしたいことが二点ございまして、こちらに参りました」
「わかった、話を聞こう。お前も中に入りなさい、アルヴェン」
俺は二人を室内に招き入れると、ソファに腰を下ろした。すると、すぐさま動き出すのはリティだ。慣れた手付きと素早い動きで、言わずとも俺が今食べたかった茶菓子と、紅茶の準備を始める。さすがリティだ。
満足して、紅茶を口を付けて飲もうとした時、物凄い目付きでリティを睨むアルヴェンが見えた。さすがのアルヴェンでもこういうことに関して、リティには勝てないだろう。
「それで用は何か教えてくれ、リティ」
「はい。まずは、サイラ様についてです。昨晩に屋敷を出てそこから消息不明となっております。その件でシン様とチーク様が酷く心配しております」
その言葉を聞いて、反射的にアルヴェンの方へ目を向ける。アルヴェンは俺の視線を受けると、真っ直ぐ見返して頭を振った。
「俺は、約束通りに手を出していない」
それを聞いて、小さく安堵の息を吐く。どうやら消息不明になったのはアルヴェンのせいではないようだ。
アルヴェンは、俺に対して嘘はつかない。知っていて黙っていることはあっても、聞けば素直に答える。彼は基本的に俺に忠実だ。
だとすれば確かに心配だ。昨晩のサイラの様子はどうもおかしかった。あの時は余裕がなくてアルヴェンを止めることだけ考えていたから、サイラの様子をしっかり確かめることができなかった。急いで探し出した方がいいのは間違いないだろう。
「わかった、すぐに探そう。方々にも協力して貰えるように手紙を送る」
「かしこまりました。次に……皇城から、旦那様宛てに手紙が届きました」
「な、なに?」
その言葉を聞いた時に俺は眉を顰め、凍り付いた。呼び出しがただの依頼なら問題ないのだが、酷く嫌な予感がする。なぜなら、それは原作にもあった展開だからだ。
だから、俺は恐る恐る口を開いた。
「……もしかして、その呼び出しには、俺も呼ばれているのか?」
リティが違うと答えることを期待しながら、祈るように見つめる。しかし、リティは躊躇いながらも小さく頷いた。
「は、はい。次期当主であるサタリア様も、揃って登城するようにと」
それを聞いた瞬間、俺は頭を押さえながら俯いた。なぜなら、その呼び出しが──皇城で行われるのはラクトフェル家の悪事を暴くための、原作でいう断罪シーンだからだ。
◆◆◆
原作で、ラクトフェル家を暴くための断罪シーンは実は二回ある。
一度目は非公式な場で、サタリアとムルダムが皇帝に呼び出されて、キメラ作成の事実があるのか問い詰められる。
これはアルヴェンとメラニーが、ラクトフェル家には契約者の能力を持つ祝福者がいないのだと皇帝に伝えて、呼び出されたのだ。
アルヴェンのお陰である程度の証拠を集められていたため、ムルダムはあと一歩というところまで追い詰められる。しかし、その時はサタリアが契約者の力を見せつけたため、逆にメラニーたちが追い詰められる状況になるのだ。
ちなみに、この出来事の後でムルダムはサタリアに伯爵の地位を受け渡すことになる。メラニーたちが渡した証拠はキメラ作成の事実を証明できなかったが、人身売買に手を染めていたことは証明されたからだ。
多大な賠償金と、ムルダムが責任をとって爵位を次代に受け渡すという、誰から見ても甘めな処分だった。それは決定的な証拠がなかったことと、皇室も完璧な魔法生物を産む出すラクトフェル家を失いたくはなかったからだろうと、原作では描かれていた。
こうして、その日を境にサタリアは正式にラクトフェル伯爵になるのだ。
──しかし、これが本当にそうだとしたら……あまりにも早すぎる。
元々証拠など集めるにはアルヴェンと三つ子の協力が必須なのだ。
アルヴェンがいなければ、キメラの存在すら知ることは出来ず、三つ子がいなければ証拠は得られない。今のメラニーの側には、アルヴェンもおらず三つ子の内、二人はメラニーに興味すらない状態だ。
ラクトフェル家の内情を探るには、明らかに人手も時間も足りていない。この状況で、どうやってラクトフェル家を追い詰めようと言うのか。
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