【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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3章

15.嘘つき

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 外に出ると風が大きく流れて、俺の服を微かに揺らしていく。先ほどまで緊迫した雰囲気に包まれていたため、外の空気は思った以上に心地よくて無意識に小さく息を吐く。
 そして、石の階段を降りると広がるのは正門まで続く石畳、そして今から進む道を邪魔するような人影が一つ。その人影が持つ白色の髪は風に、揺れた。
 
「彼が、サタリア様に紹介したい相手です」
 
 そう言うと、メラニーは頬を僅かに赤らめながら誰もが見惚れるような笑顔を浮かべる。そして、その人影を紹介するように掌で示す。
 
「彼が先ほど、教えてくれました。サイラ様はラクトフェル家が不利になることを口にすると命が危ういらしい、と。他にも、教えてくれました。ラクトフェル家のことを本当にいろいろと……」
 
 俺はメラニーの言葉が、上手く頭に入ってこない。目の前に立っているその人影から目を逸らせない。意識もそちらに奪われる。それでも辛うじて理解したのは、目の前の人物がラクトフェル家のことを売った裏切り者であるということだ。
 そうわかっているのに、気付いたのに、俺は目の前にいる男のことしか考えられなくなっていた。
 彼の名前を呼ぼうとして唇が震えてうまく動かない。動かないというよりは呼びたくなかった。それでも、ここで何もせず立ち尽くすことだけはできない。
 拳をぎゅっと握りしめて、無理矢理唇を開いた。
 
「それは……本当なのか──アルヴェン」
 
 その人影の名前──アルヴェンは表情一つ変えずに晴れ渡る空から降り注ぐ日差しを受けながら、なんでもないような態度でそこに立っていた。
 金の瞳はどこも変わっておらず、俺を真っ直ぐに見据えて逸らさない。そこにはサイラのような不安定な様子はどこにもなかった。
 
「はい、サタリア様」
 
 アルヴェンはいつものように淡々と答えた。普段通りすぎて、逆に俺は困惑する。いっそサイラのように怯えてくれていたら、俺はもっと平然と受け止められたのに。
 ​───ああ、そうか。これで終わりか。
 心の奥の何かがひび割れて、それが少しずつ崩れ落ちる音が聞こえてくる。
 
「……なるほど。お前は、最初からこうするつもりだったのか」
 
 辛うじて俺の声は震えなかった。先ほどのメラニーの言葉を聞く限り、アルヴェンはラクトフェル家の悪行の全てをメラニーに伝えたのだろう。玉座の間で飛んできたフギンも、アルヴェンが送ったものだ。
 
「……」
 
 アルヴェンは何も言わなかった。否定も肯定もしない。しかし、それは俺からすれば十分な答えでもあった。
 俺にはメラニーの側に行きたくないと言いながら、いつからメラニーと繋がっていたのだろうか。
 最近? いや、ずっと前から? どちらにせよ、きっとアルヴェンは最初から復讐の機会を窺っていたのだろう。
 アルヴェンはずっと俺を騙していたのだと、ようやく理解した。俺を惑わして好意があるように見せかけて、隙を窺って、嘘をついて、俺が心を許して傷つくタイミングを狙っていた。
 ──俺だけはアルヴェンが復讐鬼であることを、忘れてはいけなかったのに。
 心臓がぎしぎしと痛む。苦しい、吐きそうだ。ずっと誰かに踏みつけられているようだ。
 
「……はっ。まさか、私がお前にここで裏切られようとはな」
 
 胸がずっと苦しくて、息を吐くだけでなぜか苦痛を感じる。それでも決して、感情を表情には出さない。ここでみっともなく、感情を吐露してしまえば役者だけではなく、男としても情けない。だからこそ、決して本音を晒さずに演じる。
 
「貴様……私を裏切って、タダで済むと思っているのか」
「やめなさい!」
 
 俺が眦を決して一歩前に踏み出すと、その間に割って入るのは可憐なヒロインだ。メラニーは両手を広げ、アルヴェンを背に庇う。そして、眩しいと感じるほどに真っ直ぐな瞳で俺を睨みつけた。
 しかし、本当は怒りなんてものは感じていない。本来の二人は、こうして側にいるものなのだ。
 
「先ほどの話です。サタリア様、あなたがアルヴェンを解放するならサイラ様はお返ししましょう」
 
 一瞬、言葉が詰まる。それでもここまで来たのなら、アルヴェンが望んでいるのなら──俺の答える言葉は決まっていた。
 俺は、そんな二人を見て鼻で笑い飛ばす。感情を一切含めない冷たい目を二人に向け、唇で穏やかな弧を描く。
 
「喜んでお渡ししましょう。そんな劣化品でよろしければ、お受け取りください。第四皇女殿下」
 
 これで原作通りの流れに戻る、という訳だ。
 俺は興味も失せたような目線を向けると、小さく肩を竦める。そして、俺はサイラの肩を優しく抱くと、そのまま連れ添って歩き出す。
 少し強引にサイラを引く形になってしまうが、仕方ない。俺は早くここから去りたかった。あれがあるべき姿だと知りながら、どうしても寄り添う二人を見ていたくなかった。一秒でもはやく、ここから離れたかったのだ。
 
「お待ちください、サタリア様」
 
 しかし、声をかけて追いかけてくるのはアルヴェンだった。本当なら無視してしまえばよかったのに、俺の足は自然と止まってしまった。
 それでも振り返るのは嫌で、足を止めたまま何も答えなかった。
 
「お願いがあります。俺の部屋にある手記を、確認してから燃やしてください」
 
 アルヴェンの声は、残酷なくらいに本当に何も変わらない。だから尚更心臓を抉られるように痛んで苦しくて、悲しくて。
 
「……黙れ。二度と私に声をかけるな」
 
 悪役としての演技もうまくできないまま、俺は再び足を進めてその場から逃げ出すように去った。そして、それ以上、アルヴェンが追ってくることはなかった。
 ──ああ、俺はやっぱり一人になる運命だったようだ。
 
「……嘘つきめ」
 
 誰にも届かないだろう小さな声が無意識に口から零れた。俺は決して俯くことはせず、ただ忌々しいほどに晴れた青空を静かに睨みつけた。
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