【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

文字の大きさ
56 / 81
幕間

3.すべてが終わった後の話

しおりを挟む
 守るべき同胞は消え、全てをかけた復讐は終わった。復讐が叶った際の甘く、痺れるような歓喜も多く貪った。
 ラクトフェル家への復讐のために生きてきた〝もの〟なのだから、全てが終わった後に自分がどうなるかの興味は既に失せている。
 メラニーの話を聞くのも段々と億劫になり、目を閉じた。今更、別に聞きたいことも見たいことも何もなかった。
 
「ああ、興味を無くしてしまったのですね。構いませんよ、時間は沢山あります」
 
 メラニーの溜息混じりの声を最後に、その気配が遠ざかっていく。そうして、また牢に一人取り残される。それからどれくらいの時間が経ったのか、ふと微かな足音が聞こえた。メラニーがまた来たのかと思ったが、目を開けるのが億劫でそのまま何もせずにいた。
 すると金属の軋む音がして、牢が開かれたのだとわかった。
 
「──ああ、よかった」
 
 それはメラニーの声ではなかった。しかし、どこか聞き覚えのある声で、思わず目を開く。
 まず飛び込んできたのは夜のような黒色の髪だった。その容姿は、見るものを自然に惹き付ける魅力があり、絵画のように整った造形の良さは柔らかさより鋭さを感じさせる。しかし以前に感じた近寄りがたい空気はなく、桔梗色の瞳は穏やかに光を湛えていた。
 
「大丈夫か、アルヴェン。助けに来たんだ、俺と行こう」
 
 そう言って俺に手を差し伸べたのは、ラクトフェル家の最後の生き残り──サタリア・ラクトフェルだった。
 その時、確かに俺の心に静かな風が吹き込んでくるのを感じた。
 
 ◆◆◆
 
 俺がサタリアを見たのは、たった三回だけだ。
 一回目は、サタリアの専属使用人を選ぶ時、結局見回ってから誰も選ばずに終わった。
 二回目はバイスを殺して運んだ時、階上からそれを目撃しながら何も言わなかった。
 三回目は断罪された時、騒ぎ立てるムルダムに対してサタリアは何も口を開かずに静かに立っていた。
 どの時もサタリアは年齢よりもずっと落ち着いており、その立ち振る舞いは誰よりもラクトフェル家の人間らしかった。
 
「悪いな。すぐに城下町から離れられたらいいんだが、今はまずい。狭い部屋だが、ここに暫くいてほしいんだ」
 
 ──そのサタリアが、何故か目の前にいる。
 俺を、あの地下から引っ張り出すと手際よく外に連れ出して、今は城下町の民家の一室にいた。民家自体は狭く、床は硬い板張りでところどころ擦り切れて、風が吹くと木の窓枠がきしきしと鳴る。置かれている家具なども最小限で、暖炉の灯りがこの部屋で一番明るい光源だった。
 ここが今のサタリアの家だとしたら、随分と落ちぶれたものだ。彼の衣服も以前のような一流のものではなく擦り切れた古着姿だ。
 正直、自分でも何故ここまで着いてきたのかわからない。手を振り払って無視をしてもよかったのに、俺は彼の手を取った。
 祝福者であった彼に興味があったのか、あそこから出たかったからなのか。自問自答しても答えは出なかった。
 ──それにしても、以前とは随分雰囲気が違う。
 話し方からその仕草まで、まるで別人だと言っていいだろう。以前のサタリアは他者を惹き付け、微笑みながら相手を貶めるような危険を孕んだ男であったはずだ。
 しかし、今のサタリアは容姿以外は平凡だ。どこにでもいるような大人しい青年に見える。
 
「首輪は……外せなくて悪いな。その鍵はどうやっても手に入れられなかった。この国を出たら、壊す手段を探すから我慢してくれ」
「どうやって、俺の居場所を知ったのですか」
 
 貴族でなくなったサタリアに敬語を使う必要はないとわかっている。それなのにわざわざ敬語で話すのは、自分がどういう位置になっても、決してラクトフェルト家の人間と平等でいたくないという意地のようなものだった。
 
「こんな俺でも元伯爵家の人間だ。ツテがあるんだよ。この家もそのツテに用意してもらったものだ」
「ツテ、ですか」
「ああ、まあ気にしないでくれ。それより、お腹が減っていないか? パンくらいならすぐ用意でき」
「まずは、俺を出した目的を教えてください」
 
 穏やかに微笑みかけるサタリアの言葉を遮って声を出す。わざわざあそこまでやってきて俺を出したのは、何かしらの目的があってのことだということはわかる。
 ──メラニーへの復讐か? ラクトフェル家の再興を考えているのか?
 どちらにせよ、俺が手を貸すことは絶対にない。サタリアを忌々しく思いながら睨みつけると、彼は一瞬瞳を見開いてから小さく笑った。
 
「ないよ」
「何……?」
「目的なんてない。強いて言うなら、お前を助けることが目的だな」
 
 俺は、怪訝そうに眉を顰める。俺が囚われていた地下室に入るだけでも相当危険だ。ましてや、拘束や牢を開く鍵を持っていたところを見ると俺の救出は計画されていたことがわかる。
 ──そこまでしておいて、何もないと?
 そんな言葉が信用できるはずもなく、目を細めて睨みつける。すると、サタリアは眉を垂らして困ったように笑った。
 
「きっと頭がおかしくなっていると思われるかもだけど、俺はラクトフェル家が没落するのを知っていた」
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【1部完・2部準備中】人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

巻き戻った悪役令息のかぶってた猫

いいはな
BL
婚約者のアーノルドからある日突然断罪され、処刑されたルイ。目覚めるとなぜか処刑される一年前に時間が巻き戻っていた。 なんとか処刑を回避しようと奔走するルイだが、すでにその頃にはアーノルドが思いを寄せていたミカエルへと嫌がらせをしており、もはやアーノルドとの関係修復は不可能。断頭台は目の前。処刑へと秒読み。 全てがどうでも良くなったルイはそれまで被っていた猫を脱ぎ捨てて、せめてありのままの自分で生きていこうとする。 果たして、悪役令息であったルイは処刑までにありのままの自分を受け入れてくれる友人を作ることができるのか――!? 冷たく見えるが素は天然ポワポワな受けとそんな受けに振り回されがちな溺愛攻めのお話。   ※キスくらいしかしませんが、一応性描写がある話は※をつけます。※話の都合上、主人公が一度死にます。※前半はほとんど溺愛要素は無いと思います。※ちょっとした悪役が出てきますが、ざまぁの予定はありません。※この世界は男同士での婚約が当たり前な世界になっております。 初投稿です。至らない点も多々あるとは思いますが、空よりも広く、海よりも深い心で読んでいただけると幸いです。 また、この作品は亀更新になると思われます。あらかじめご了承ください。

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)

悪役令息の花図鑑

蓮条緋月
BL
公爵令息シュヴァリエ・アクナイトはある日、毒にあたり生死を彷徨い、唐突に前世を思い出す。自分がゲームの悪役令息に生まれ変わったことに気づいたシュヴァリエは思った。 「公爵家の力を使えば世界中の花を集めて押し花が作れる!」  押し花作りが中毒レベルで趣味だったシュヴァリエはゲームのストーリーなどお構いなしに好き勝手動くことに決め行動が一変。その変化に周囲がドン引きする中、学園で奇妙な事件が発生!現場に一輪の花が置かれていたことを知ったシュヴァリエはこれがゲームのストーリーであることを思い出す。花が関わっているという理由で事件を追うことにしたシュヴァリエは、ゲームの登場人物であり主人公の右腕となる隣国の留学生アウル・オルニスと行動を共にするのだが……? ※☆はR描写になります ※他サイトにて重複掲載あり  

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

処理中です...