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幕間
2.ラクトフェル家の没落
しおりを挟む俺はその言葉を聞いた瞬間、頭の中が焼かれるような怒りを感じて、鉄格子に向かって体を進める。しかし、繋がれた鎖が激しい音を立てながら俺の行動を制限する。
怒りを湛えた瞳でメラニーを睨みつける。睨みつけるだけで人を殺せるというならば、彼女は数十回死んでいることだろう。
「キメラは元人間だと、言っただろう」
胸の奥で沸き立つものを押し殺し、低く鋭い声が自然と零れる。
復讐を終え、俺はラクトフェル家に縛られていたキメラ達全員の解放をメラニーに望んだ。俺とは違い、彼らには人として生きて欲しかったからだ。メラニーはそんな俺の願いに笑顔で頷いて──そして、一人残らず殺した。
「なぜだ、なぜ殺した?」
「ですから、教えたでしょう。私は魔法生物が怖いわけではなく……キメラという存在が死ぬほど嫌いなのです」
メラニーは平然と言い切る。その表情には憐憫も同情もない。
一般的にメラニーは魔法生物嫌いだと認識され、親しい相手には魔法生物が哀れで近づきたくなかったと知られている。しかし、この認識はどちらも正しく、どちらも間違っている。
「殺す必要は、ないはずだ」
「無理です。あの気持ち悪い造形物、見ているだけ吐き気がする。存在していると思うだけでも許せない。他の人たちがどうして、あれを魔法生物だと勘違いして側に置けるのか私にはまったくわかりません」
そう言いながらメラニーは、ここに来て初めて感情を表に出す。彼女は苦虫を嚙み潰したような顔で、嫌悪に満ちた声で吐き捨てた。
メラニーは生まれた時から人よりもずっと目が良く、勘もよかった。彼女は俺と関わる前から魔法生物によく似た存在、キメラがいると知っていたのだ。
メラニーが生まれた時には周りにいるのはキメラが多く、彼らを見るのも嫌だった彼女はそれを避けて魔法生物嫌いと呼ばれるようになっていったのだ。
つまり、俺の復讐はメラニーにとっても都合の良いものだった。彼女的には醜悪なキメラを生み出す大本のラクトフェル家を滅ぼすことができる。
「ああ、けれどアルヴェンは別です。キメラであるはずなのに、純粋に美しいと思える。魔法生物と変わりません。だから私は貴方になら触れることができた」
メラニーの白い肌が仄かに赤く色づき、藤色の瞳は小さく潤む。まるで恋する乙女のような表情だが、これは収集品に見惚れるようなものであり、恋愛ではないと知っている。
メラニーはキメラが嫌いであったが、魔法生物に対しては偏狂的な愛を向けている。魔法生物に掛けるその熱情は異常だ。盲目的といっていいほど愛を向けている。
「でも、アルヴェン。私がキメラを生かしても結果は変わらなかったと思いますよ」
「何……?」
「彼らは、使われることに慣れ過ぎたのでしょう。命じる主がいなくなったと伝えてもどこにもいけずに呆然としていました。与えられた自由の使い方なんてわからない。自分たちの居場所だってあそこしかなかった。ムルダムは、正当に売られたものしか買いませんでしたから」
メラニーは興味無さそうな顔で小さく肩を竦めた。彼女の言うことは本当だ。調べてわかったことではあるが、ムルダムがキメラに使った人たちは全員家族に何かしらの理由で売られたものばかりだった。
もしかしたら、親族にいらないと突きつけられたものであるからこそ、心が折れやすいと知っていたのかもしれない。
「彼らからすれば……ラクトフェル家に滅んでほしくなかった、なんて思っていたかもしれませんね」
メラニーの言葉に思わず眉を顰める。ラクトフェル家を滅ぼしたのは間違いなく俺だ。そのことに後悔はない。しかし、メラニーの言葉は心の奥底に刺さり、じくじくとした痛みを感じさせる。
「さて。そんなどうでもいいことは置いておいて、今日は素晴らしい報告があります。貴方も私も悩んでいた、本当の魔法生物を創っていたのが誰かわかりました」
メラニーは喜々とした様子で語る。彼女からすればずっと探していた念願の契約者の力を持つ祝福者だ。
キメラとは別に、ラクトフェル家には本物の魔法生物を創っている人間がいる。俺がそれに気づいたのは、少し前だ。メラニーは随分前からそれを知っており、探していたようだ。しかし、ラクトフェル家を断罪しようともその本人は現れることはなかった。
──ラクトフェル家が没落するのを止めるため、力を使うだろうと思っていたのに。
「貴方も予想していたとは思いますが、やはり祝福者はサタリア・ラクトフェルです」
メラニーの口は歪む。彼女からすれば自分の愛する魔法生物を無限に生み出すことができる存在だ。ずっと探して、望んでいた存在でもある。
「今から彼をここに連れてきますね。今の彼は平民ですから、どう扱っても問題ないでしょう」
メラニーの言う通りだ。没落前のラクトフェル家ならばいざ知らず、平民となった今のサタリアにはメラニーにどうあっても逆らえない。平民に落ちぶれたことでさえ地獄だろうが、メラニーに捕まれば更なる地獄がサタリアには待っているだろう。
──ああだが、もうどうでもいい。
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