【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

文字の大きさ
59 / 81
幕間

6.独占欲

しおりを挟む
「なら、国を出てすぐの街で待ち合わせをしよう。すぐに追いつくから待っててほしい」
「……このまま一緒に、国を出ないのですか?」
「ああ。実は、ラクトフェル家の屋敷に大切な子を隠しているんだ。あの家にはラクトフェル家の人間しか入れない場所がいくつかあるから、そこに避難させている。あの子も連れていきたいから、俺は一度戻らないと」
 
 サタリアの思いもしなかった言葉に、思わず眉を顰める。
 ──大切な子……って誰だ。
 何故だかわからないが、どうにもそれが気に入らない。てっきりこのまま二人で行くのかと思っていたのに、不満が胸の奥でじわじわと広がっていく。俺が一番だと言っていたくせに、他を見るなんて。
 その時、ふと自分の変化に戸惑う。
 ──俺は、今サタリアを独占したいと思ったのか?
 出会ったころは殺してもいいと思っていた相手だったのに、今ではそんな気持ちはどこからも湧いてこない。
 ここまで来るときっと認めるしかない。サタリアといると俺は人でいられる。なんでもないように名前を呼ばれると、小さく心臓が軋むようになった。
 労わるような優しさが含まれた桔梗色の瞳に見られると、嬉しくて堪らなくなった。たまに俺のことを心配して頭を撫でてくれた時は、わけもなく彼が欲しくなった。
 ──ああ、そうか。
 きっと、今ならさっきの言葉の答えをちゃんと言えるはずだ。
 ──俺はこれから先も、サタリアといれるならそれでいい。
 俺は黙ってサタリアの方に寄りかかると、彼は一瞬驚いた顔をしたがいつものように穏やかに微笑んだ。
 そして、どちらも話さなくなったが重苦しい雰囲気はどこにもない。ただ静かに互いの息遣いだけを聞きながら、蹄の音と車輪の軋む音が重なっていく。
 
「……そうだ。次会ったら時は、その敬語やめてくれよ」
 
 サタリアがずっと気にしていた俺の敬語だ。確かに、意固地になって続けていたが、俺もサタリアの名前を普通に呼んでみたいと思うようになっていた。
 しかし、わざと頷くことはしなかった。次会った時に、驚いて喜ぶ顔が見たかった。理由はそれだけだった。
 
「ッ!」
 
 その時、馬のいななきとともに馬車が激しく前のめりに揺れる。体が宙に浮くような感覚がして、俺は咄嗟にサタリアの体を抱え込んだ。
 藁が舞い上がり、荷台全体から悲鳴をあげるように軋む音が響き渡る。体は荷台の木板に叩きつけられ、少しして馬車は完全に停止した。
 元から痛みに鈍い俺の体は大した怪我でも、痛みはない。しかし、サタリアはただの人間だ。すぐに腕の中のサタリアを見つめたが、眉は顰めているだけで見える限り外傷はどこにもない。それを確かめてから、安堵の息が零れる。
 
「った……なんで急に止まって」 
 
 サタリアが顔を上げて外の様子を窺おうとした時だった。
 
「出てこい! この荷馬車にいるのはわかっている!」
 
 その声は、馬車の外から聞こえてきた。その瞬間、サタリアは眉を顰めて拳を握りしめる。俺は、破れた幌の隙間からそっと前方を覗き見る。全てを見渡せた訳ではないが、少なくとも四人以上の鎧を着た騎士が立っているのがわかった。
 ──待ち伏せか。
 どうやら俺たちがここを通ることは既にバレていたらしい。どこから漏れたのかはわからないが、意外でも何でもない。この国で絶対的に、信頼できる俺たちの味方などいないに等しい。
 
「……ここにいてくれ」
「……いえ、俺も行きます」
 
 サタリアが小声で囁く。しかし、俺はそれに対して首を左右に振った。
 あの騎士たちは近衛騎士だ。皇族直属の精鋭騎士であり、間違いなくメラニーの息がかかった騎士たちだろう。そうであるなら、今の目的は俺よりもサタリアであるはずだ。サタリアは少し迷っていたが、覚悟を決めたように小さく頷いた。
 二人で揃って荷台から降りた瞬間、サタリアの空気が変わる。普段見せていた柔らかさは消えて、その瞳は冷ややかなものになり感情の色が消えていく。
 背筋を真っ直ぐに伸ばしてゆっくりと歩くだけで、気品を感じさせる。
 
「──とんだ無礼者がいたものだな。ここに私がいると知って止めたのか」
 
 そこにいたのは、まさしくラクトフェル伯爵家の最後の生き残りであるサタリア・ラクトフェルだった。
 一切、怯えることのないサタリアの雰囲気に呑まれるように、たじろぐのは騎士たちの方だった。
 
「……既に貴族でもないお前に向ける礼儀などない。サタリア、貴様には第四皇女殿下の元から無断で魔法生物を奪った疑いがかけられている。今すぐ同行して貰おう」
 
 そう言うと、騎士たちは剣を抜いてサタリアに向ける。こちらの言い分を聞く気のない騎士たちにサタリアは眉を顰めたが、当然だ。
 
「断るといえば?」
「貴様に拒否権などない」
 
 サタリアはそれでも怯まずに相手を睨みつけると、緊迫した雰囲気が漂い始める。しかし、サタリアはわかっていない。
 もはや彼らには一切の言葉は通じない。どんな言葉で説得しようとも無駄なのだ。彼らには既に、メラニーの力がかかっているのが俺にはわかる。
 俺はわかっているからこそ、躊躇わずに地面を蹴る。サタリアに一番近い騎士に向かって手を伸ばすと、その勢いのまま引き倒す。
 
「なッ!」
 
 小さな悲鳴を上げるが、鎧を纏った騎士では大した反応が出来るはずもない。そのまま地面に叩きつけられた音が響き渡る。そして、それと同時に拳を振り上げて、力任せに騎士の頭を殴りつけた。
 一切、手加減はしない。手加減をすれば殺されるのはこちらだとわかっているからだ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【1部完・2部準備中】人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

巻き戻った悪役令息のかぶってた猫

いいはな
BL
婚約者のアーノルドからある日突然断罪され、処刑されたルイ。目覚めるとなぜか処刑される一年前に時間が巻き戻っていた。 なんとか処刑を回避しようと奔走するルイだが、すでにその頃にはアーノルドが思いを寄せていたミカエルへと嫌がらせをしており、もはやアーノルドとの関係修復は不可能。断頭台は目の前。処刑へと秒読み。 全てがどうでも良くなったルイはそれまで被っていた猫を脱ぎ捨てて、せめてありのままの自分で生きていこうとする。 果たして、悪役令息であったルイは処刑までにありのままの自分を受け入れてくれる友人を作ることができるのか――!? 冷たく見えるが素は天然ポワポワな受けとそんな受けに振り回されがちな溺愛攻めのお話。   ※キスくらいしかしませんが、一応性描写がある話は※をつけます。※話の都合上、主人公が一度死にます。※前半はほとんど溺愛要素は無いと思います。※ちょっとした悪役が出てきますが、ざまぁの予定はありません。※この世界は男同士での婚約が当たり前な世界になっております。 初投稿です。至らない点も多々あるとは思いますが、空よりも広く、海よりも深い心で読んでいただけると幸いです。 また、この作品は亀更新になると思われます。あらかじめご了承ください。

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)

悪役令息の花図鑑

蓮条緋月
BL
公爵令息シュヴァリエ・アクナイトはある日、毒にあたり生死を彷徨い、唐突に前世を思い出す。自分がゲームの悪役令息に生まれ変わったことに気づいたシュヴァリエは思った。 「公爵家の力を使えば世界中の花を集めて押し花が作れる!」  押し花作りが中毒レベルで趣味だったシュヴァリエはゲームのストーリーなどお構いなしに好き勝手動くことに決め行動が一変。その変化に周囲がドン引きする中、学園で奇妙な事件が発生!現場に一輪の花が置かれていたことを知ったシュヴァリエはこれがゲームのストーリーであることを思い出す。花が関わっているという理由で事件を追うことにしたシュヴァリエは、ゲームの登場人物であり主人公の右腕となる隣国の留学生アウル・オルニスと行動を共にするのだが……? ※☆はR描写になります ※他サイトにて重複掲載あり  

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

処理中です...