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4章
終章 誰も知らない始まりの話
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サタリア・ラクトフェルは、生まれた時から自分が他人と違うと自覚していた。
サタリアは、通常の人間が持ち合わせる情というものを一切持ち合わせていなかった。それは生い立ちや他人の影響があったからではない。何のせいでもなく、ただ生まれた時からそれらが欠けていたのだ。更に悪いことに、サタリアの感情を高ぶらせるのは、他者の苦痛や悲痛の帯びた感情だけだった。
サタリアは自分自身が人として壊れているということを自覚していた。しかし、自覚しているからこそ罪悪感もなかった。
そうして、ただ自分の欲のためだけに生きて生きて、彼が生まれ育ったラクトフェル家は没落した。
アルヴェンという想定外のキメラと、第四皇女のメラニーの手によってサタリアは落ちぶれた。
しかし、サタリアは自分が貴族でなくなったとしてもどうでもよかった。サタリアが求めるのは他者の苦痛と悲痛だけだ。契約者である限り、それを幾度も行える力があったからだ。
けれど、それを見通してなのか。彼は没落するとメラニーに捕まった。
薄暗い地下に監禁されながら、望まれるのは魔法生物を創ること。劣悪な環境の中で代償に苦しめられながら、創り続けることはサタリアにとって地獄だった。
ある日、地下室に寝転びながらサタリアはふと思った。
「……もう、飽きたな」
そうつぶやいた後、サタリアは隙をついて地下室から逃げ出した。逃げ出したといっても、代償によって既に体はぼろぼろで、サタリアは遠くに行くことはできなかった。
ただ地下から上がり、盗んでおいた契約書を一枚と小さな果物ナイフを一つだけ持って外に出た。
月すら雲に隠れた夜空の下、ただ呆然と空を仰ぎ見ながら手元に残った契約書を眺める。
──契約者は、文を一つだけ追加できる。
それはサタリアも知っていたが、興味がなくて今まで使わなかった。しかしその時、何故かふと興味が湧いた。
サタリアはずっと思っていたことがある。
自分は心の底から悪魔であり、人として壊れていたからこそこういう終わりを迎えた。けれど、自分がまともであったのならば、こういう結末を迎えなかったのだろうか。
──もし、私が平凡な人であったのなら。
あんなラクトフェル家の中でも、こんな結末を迎えることなく、変わることが出来たのだろうか。
サタリアは果物ナイフで指先を傷つけて、血で契約書にある一文を追加する。
【契約相手は、生命の欠片以外であること】
そして、条件を口にする。
「条件は、私の代わりになるもの。平凡でありながら、道を変えるもの」
サタリアは魔法生物が好きではなかった。何の意志もなく、ただ言われるままに動く不気味な存在。サタリアを楽しませることすらできない不出来なもの。
だから、生命の欠片以外のものと契約ができればそれでよかった。その相手が何でもよかった。
しかし、契約書が燃えあがることはなかった。
「はっ……当然か」
わかっていた。現実は何も変わらない。冷めた目で燃えない契約書を見ながら、サタリアは自分の喉元にそっとナイフを押し当てた。
「──ああ、本当につまらない人生だった」
それが彼の最後の言葉だった。
そのままナイフで自らの喉を掻き切り、サタリアは絶命した。ここで、サタリアの人生は終わることとなる。
しかし、その後彼の血に染まった契約書が赤色に燃え始めたことは──誰も知らない始まりだった。
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