【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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4章

15.一番酷い演技

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「笑っていてほしいし、好きなことを選んで生きてほしい」
 
 痛くなるほど、苦しくなるほど力強く抱きしめながら胸の奥から沸き上がる感情を乗せながら言葉を紡ぐ。
 演技はもういらない。これは俺の心からの本音で、ずっと思っていたことでもある。感情的になってきたせいか、全てが終わって安堵したからなのか。涙腺が緩んで、じわりと涙が溢れてくる。
 
「俺は、アルヴェンのことが一番好きだから」
 
 アルヴェンの頬に手を添えながら、顔を覗き込む。アルヴェンは、呆然とした顔でこちらを見ていた。まるで目の前にいる俺が信じられないと言ったような様子だ。
 それでも、少ししてから答えるようにアルヴェンの腕が俺に巻き付く。
 
「……それは、俺と同じ気持ちでいいのか? 人として好きとか、生き方が好きとかそういう意味じゃないよな」
「え? いや、だから……そりゃ、その、お前と一緒だよ。愛してるってことだ」
 
 ここまではっきり言うのはさすがに恥ずかしい。ちゃんと一番好きと言ったのだからそういうことに決まっているだろう。どう聞けばそんな風に捉えられるというのか、不思議だ。
 すると、アルヴェンの頬が段々と赤みを帯びていくのがわかる。珍しいアルヴェンの照れた顔を見て、俺もつられて頬が熱くなっていく。
 それでも彼には珍しい顔を見られたから、口元が緩んだ。その笑みは演技なんかではなく、ただ幸せで嬉しくて、気の緩んだ締まりのない笑顔だった。
 アルヴェンは一瞬、息を呑む。そして眉を顰めたと思った時にはこちらに顔が近付き、噛みつくように唇を奪われる。いつの間にか頭に手を添えられており、俺は逃げられない。
 厚い舌がぬるりと口腔に入って、俺の舌を捕らえて弄る。その熱さと、勢いに俺の背筋がぞくぞくと震える。
 
「んんっ……ふぅ……っ」
 
 抵抗はしない。むしろ俺からも舌を絡めて、その熱さを求める。微かな水音がしばらく続いて、ようやく唇を離す。
 互いに微かに息を乱しながら、ただ見つめ合う。間近にある熱を孕む金色の瞳が俺を射貫く。最初は恐ろしいと思ったこの熱が、今ではこんなに愛おしく思えるなんて。
 俺はアルヴェンの膝に伸し掛かっている状態なのだが、そのせいであることに気付く。
 
「……アルヴェン」
 
 名前を呼んでもアルヴェンは何食わぬ顔で、俺の首筋に顔を埋めて唇を押し当てている。しかし、尻辺りにはさっきから硬いものが当たっている。同じ男であるからこそ、それが何かわかる。
 
「……サタリア、ここで抱かせてくれ」
「だ、駄目に決まっているだろう! お前は本当に獣か!」
 
 外にいるとはいえ、すぐそばには馬車を引いているテランだっている。こんなところで事に及べばそれこそ、筒抜けだ。
 それに屋敷に帰っても俺がすることはたくさんある。キメラのことはもちろん、ムルダムを家から放り出して、三つ子を迎え入れて、バイス兄上の対処だって考えないといけないわけだ。あとはアルヴェンに回帰のことを詳しく聞き出すことだって残っている。
 ひと段落したとはいえ、俺がラクトフェル家を没落させるためにはまだまだやることが多い。俺がずっと望んだ旅なんてものは当分先になることだろう。
 それでも、以前よりはずっと幸せと思えるのはきっと、アルヴェンがいるからだろう。
 
「……それは、叶えてやれないが他にしたいことがあるなら言ってくれ。叶えられるように努力する」
「俺の、したいこと?」
 
 アルヴェンはしばらく言葉を探すように目を伏せていた。やがて、顔を上げると一度息を吸い、覚悟を決めたように言葉を続けた。
 
「──これから先も、ずっと俺をあんたの側にいさせてくれ」
 
 アルヴェンの声は低く、抑えられているのがわかる。それでも震えは隠し切れず、語尾が擦れていた。そして、その柔らかな笑みには計算も虚勢もない。とても穏やかな表情だった。
 俺はアルヴェンがあまりにも欲のないことを言うものだから、目を丸くしてしまう。それでも彼があまりにも満ち足りた顔をするものだから、何かを言い返すことはできなかった。むしろ少々気恥ずかしくなって、咄嗟に悪役の皮を被る。
 
「当然だ。ほら、お前は私のもの……だろう?」
 
 口端を吊り上げながら演技をしてみせたが、俺の顔は真っ赤で目は潤んでいる。照れが残っているせいで発声もボロボロだ。
 それは、今までの中で一番酷い演技であることは間違いなかった。
 馬車は夜を進み続ける。この行き先は決まっていて、辿り着く場所も知っている。しかし、その行き先がもし変わったとしても俺は、もう一人じゃない。傍にいて、手を取っておなじ舞台に立ってくれる人がいるから。
 走る揺れに身を委ねながら、俺とアルヴェンは温もりを分け合うように離れなかった。
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