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4章
14.幸せを願う
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◆◆◆
テラスから戻ると、俺は再度皇帝であるユーシバルに呼び出され、人身売買について咎められることになった。
原作通りの断罪となったが、俺はそれらの仕業は全てムルダムのせいだとした。
ムルダムは人に言えない性的欲求を持っており、それを解消するために仕出かしたことであると説明をしたのだ。
当然、俺は人身売買について知らなかったことにした。それを知ったのは一度目に呼び出された時であり、俺はその後にムルダムを問い詰め、爵位を譲ってもらったという流れだ。
その後、皇帝から命じられたのは多大な賠償金とムルダムの貴族籍の剥奪だ。ムルダムはラクトフェルの名を背負うことさえ許されないことになった。彼がただ死ぬより悲惨な末路を辿ることになるのは間違いないだろう。
俺が皇帝の言葉を粛々と聞き入れている時、側にいたメラニーはずっと俯いていた。遠目で見てもわかるほどに手足は震えており、魔法生物が近くを通るたびにその小さな肩が跳ねるのがわかった。どうやら、テラスの出来事は彼女にちょっとしたトラウマを植え付けてしまったようだ。
── 一応、監視としていくつか魔法生物には声をかけておいたが、あれじゃ暫くは部屋から出てこなくなりそうだな。
もしかしたら、以前の引き籠りの魔法生物嫌いに戻ってしまうかもしれない。しかし、仕方なかった。
メラニーは俺が思っている以上に魔法生物とキメラに固執していた。あそこまで脅すつもりはなかったが、俺にも譲れないものがあった。
「……さて」
今は建国祭からの帰りで、屋敷に向かう馬車の中だ。道を走る振動を受けながら俺は前方を睨みつける。そこにいるのは、アルヴェンだ。
御者席に行くというアルヴェンを半ば強引に車内に引っ張り込んだのは俺だ。向かい合うように座り、馬車が走り出しても互いに何も話さなかった。
それでも、いい加減にこの重苦しい沈黙に嫌気がさして、俺から口を開く。
「アルヴェン。お前、私から離れて建国祭で何をするつもりだった?」
俺はアルヴェンを止めるため、建国祭に参加したわけだがアルヴェンが何をする気だったのかは未だに知らない。
アルヴェンは、何も話さないくせにその目だけはいつもと変わらず俺だけを見つめていた。しかし、俺が問いかけると、微かに目線を逸らす。
「……あんたを苦しめる全てを、なくすつもりだった」
「……なくす? もしかして……ホワイトドラゴンの力を使うつもりだったのか」
アルヴェンは、少し間を空けてから黙って頷いた。それを知って、俺の背筋がぞくりと震えた。アルヴェンならそれをやりきれるとわかっていたからだ。国一つを凍らせるほどの力があるのだから、あの場一帯を凍らせるなど造作もないことだろう。
確かに皇族も、貴族の当主もいなくなればこの国は終わりだ。本来ならあの場にいたのはムルダムだっただろうから、俺もラクトフェル家に縛られる必要はなくなる。
──でも。
「それで、お前は?」
「……え」
「その後、お前はどうするつもりだった」
アルヴェンの企みが成功したとして、国が終わることになれば彼は国を滅ぼした大罪人として、扱われることになるだろう。
そうなればアルヴェンは他国からも目をつけられる。追われ続けて、どの国に行こうとも彼に安寧の時が訪れることはない。俺は思わず、下唇をぎゅっと噛んだ。
そうなることは、アルヴェンならきっとわかっていただろう。けれど、それでもよかったのだとわかる。ずっとアルヴェンの頭の中にあるのは、俺だけのことで、俺が幸せになることだけを願っている。
それが叶うのなら自分を含めて、どんな代償を支払ってもいいと思っている。そして彼にはその重みを背負う覚悟がある。そう、わかってしまう。それがとても嫌だった。
───こいつは、本当に。
俺は微かな苛立ちを感じながら、拳を握りしめ座席から腰を浮かせる。そして、同時にアルヴェンの方へ踏み出す。
「サタリア……?」
近づいてきた俺を訝しげな表情で見つめてくるが、何も言わずにアルヴェンの膝に乗り上げる。そして、目を細めて見下ろした。
「私、いや俺は……」
俺は両腕でしっかりとアルヴェンの体を抱きしめた。
「──アルヴェンには幸せになってほしいと思ってるよ」
そう言った瞬間、アルヴェンの体が一瞬大きく跳ねた。それでも気にせず両腕に力を込めて、強く強く抱きしめる。
テラスから戻ると、俺は再度皇帝であるユーシバルに呼び出され、人身売買について咎められることになった。
原作通りの断罪となったが、俺はそれらの仕業は全てムルダムのせいだとした。
ムルダムは人に言えない性的欲求を持っており、それを解消するために仕出かしたことであると説明をしたのだ。
当然、俺は人身売買について知らなかったことにした。それを知ったのは一度目に呼び出された時であり、俺はその後にムルダムを問い詰め、爵位を譲ってもらったという流れだ。
その後、皇帝から命じられたのは多大な賠償金とムルダムの貴族籍の剥奪だ。ムルダムはラクトフェルの名を背負うことさえ許されないことになった。彼がただ死ぬより悲惨な末路を辿ることになるのは間違いないだろう。
俺が皇帝の言葉を粛々と聞き入れている時、側にいたメラニーはずっと俯いていた。遠目で見てもわかるほどに手足は震えており、魔法生物が近くを通るたびにその小さな肩が跳ねるのがわかった。どうやら、テラスの出来事は彼女にちょっとしたトラウマを植え付けてしまったようだ。
── 一応、監視としていくつか魔法生物には声をかけておいたが、あれじゃ暫くは部屋から出てこなくなりそうだな。
もしかしたら、以前の引き籠りの魔法生物嫌いに戻ってしまうかもしれない。しかし、仕方なかった。
メラニーは俺が思っている以上に魔法生物とキメラに固執していた。あそこまで脅すつもりはなかったが、俺にも譲れないものがあった。
「……さて」
今は建国祭からの帰りで、屋敷に向かう馬車の中だ。道を走る振動を受けながら俺は前方を睨みつける。そこにいるのは、アルヴェンだ。
御者席に行くというアルヴェンを半ば強引に車内に引っ張り込んだのは俺だ。向かい合うように座り、馬車が走り出しても互いに何も話さなかった。
それでも、いい加減にこの重苦しい沈黙に嫌気がさして、俺から口を開く。
「アルヴェン。お前、私から離れて建国祭で何をするつもりだった?」
俺はアルヴェンを止めるため、建国祭に参加したわけだがアルヴェンが何をする気だったのかは未だに知らない。
アルヴェンは、何も話さないくせにその目だけはいつもと変わらず俺だけを見つめていた。しかし、俺が問いかけると、微かに目線を逸らす。
「……あんたを苦しめる全てを、なくすつもりだった」
「……なくす? もしかして……ホワイトドラゴンの力を使うつもりだったのか」
アルヴェンは、少し間を空けてから黙って頷いた。それを知って、俺の背筋がぞくりと震えた。アルヴェンならそれをやりきれるとわかっていたからだ。国一つを凍らせるほどの力があるのだから、あの場一帯を凍らせるなど造作もないことだろう。
確かに皇族も、貴族の当主もいなくなればこの国は終わりだ。本来ならあの場にいたのはムルダムだっただろうから、俺もラクトフェル家に縛られる必要はなくなる。
──でも。
「それで、お前は?」
「……え」
「その後、お前はどうするつもりだった」
アルヴェンの企みが成功したとして、国が終わることになれば彼は国を滅ぼした大罪人として、扱われることになるだろう。
そうなればアルヴェンは他国からも目をつけられる。追われ続けて、どの国に行こうとも彼に安寧の時が訪れることはない。俺は思わず、下唇をぎゅっと噛んだ。
そうなることは、アルヴェンならきっとわかっていただろう。けれど、それでもよかったのだとわかる。ずっとアルヴェンの頭の中にあるのは、俺だけのことで、俺が幸せになることだけを願っている。
それが叶うのなら自分を含めて、どんな代償を支払ってもいいと思っている。そして彼にはその重みを背負う覚悟がある。そう、わかってしまう。それがとても嫌だった。
───こいつは、本当に。
俺は微かな苛立ちを感じながら、拳を握りしめ座席から腰を浮かせる。そして、同時にアルヴェンの方へ踏み出す。
「サタリア……?」
近づいてきた俺を訝しげな表情で見つめてくるが、何も言わずにアルヴェンの膝に乗り上げる。そして、目を細めて見下ろした。
「私、いや俺は……」
俺は両腕でしっかりとアルヴェンの体を抱きしめた。
「──アルヴェンには幸せになってほしいと思ってるよ」
そう言った瞬間、アルヴェンの体が一瞬大きく跳ねた。それでも気にせず両腕に力を込めて、強く強く抱きしめる。
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