ラスボスを闇堕ちさせない為にやり直します!

司馬犬

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第2章

14.

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それはまるでただ道に転がる石を見るかのような視線だった。今のギザットの姿が視界の端に映り、恐怖が全身を包み込む。
 言い訳をするべきだろうか。誤魔化すべきだろうか。そんな思考が脳内を駆け巡り、キーリは次の言葉に詰まる。
『夜の狼』なんて知らない、ギザットの言葉は全て嘘だと言うのは簡単だった。しかし、本当にそれで丸く収まるのだろうか。キーリの恐怖心は疑心を大きく膨らませていく。
 キーリは、縛られたまま拳を強く握り締める。そして、口を開こうとした瞬間だった。それより先に動いたのが、狼面の人物だ。
 彼は床に向かい、小さな玉を転がした。それには導火線があり、先に小さな火が灯っているのを見てキーリは身を固めた。
 爆薬、と叫ぶ前に小屋内を包んだのは煙だ。勢いよく噴き出した濃い煙が一気に立ち込める。
 
「ちっ!」
 
 前方にいたサラディが舌打ちをする。しかし、今やその姿さえ煙で覆われ見えづらい。狼面の人物が、キーリにすぐさま近寄ってくる。
 
「……この隙に一人で逃げるんだぞ、キーリ」
 
 そう小さく囁いたのは狼面の人物だ。先程よりはっきりと聞こえたために、キーリはわかった。それは確かに聞いた覚えのあるものだった。
 
「あ、アレン……?」
 
 キーリの声に反応して、僅かに笑った声が聞こえた。そして次の瞬間、後ろで縛られていた手が自由になる。狼面の人物──アレンが縄を解いてくれたのだと気付いたのは少し遅れてからだった。
 見える位置に手が動かす事が出来て、ようやく安堵の息が出る。礼を言おうとそちらを見た時には、既にその姿はなかった。
 
「小賢しい獣が、邪魔だ!」
 
 聞こえてくる声はサラディだ。小さく響く音が戦っているのだとすぐにわかった。もちろん、その相手はアレンだろうことは間違いない。
 キーリからは煙で見えづらい為、はっきりとわからない。ただ動いている影が二つ見えていた。
 アレンとサラディが戦っている。そして、アレンはキーリをここから逃がすために注意を引いているのだと漸く気付く。
 唖然として、思考が遅れるが自由になった手足を見つめ、小さく息を飲む。
 
「そ、そうだ。今こそ、ロードだろ!」
 
 キーリの言葉に反応してなのか、選択を問う見慣れた画面が浮かび上がってくる。
 既に手足は自由になっている。画面を操作することに邪魔するものは何も無かった。飛びつくように顔を近付ける。
 
「これでいいんだ。い、急いで戻って、ロード場所からやり直せば……」
 
 震えた指先が『はい』と表示された上で止まる。そのまま触れる事でロードが出来る。そうすれば全てが元通りになるだろう。
 色々な失敗はあったが、キーリがやり直しできれば全てが解決する。全てがなかった事にできるのだ。
 しかし、触れる手前で指は止まった。
 
「──キーリ! どこだ、キーリ!」
 
 サラディの声が再度聞こえてくる。アレンと戦いながらも、ただキーリの名前を呼んでいる。それが怒りからくるものなのか、定かではない。
 ただキーリには、何故か小さな子供が泣きながら叫んでいる声に聞こえた。一人は寂しいと必死に訴えているように感じるのだ。
 無意識に声の方へ振り返っていた。しかし、煙でその姿をはっきりと捉えられない。
 
 ──本当に、今のサラディから目を逸らしていいのか俺。
 
 キーリにとって現状が最悪なのは間違いなかった。
 サラディには色々知られてしまい、アレンと殺し合いを始めた。ここから大逆転できるような知恵も腕力もキーリにはない。むしろ、全てを覆す事ができるのはこれしかないとさえ感じていた。
 しかし、指は動かない。ただ小さく震えるだけだ。
 
「キーリッ!!」
 
 サラディは、ずっと叫ぶように名前を呼び続ける。
 その声を振り払うように目を固く瞑り、指先に力を込める。
 しかし、その時キーリの脳裏に浮かんだのはサラディの笑顔だった。それは、友人にならなれるとキーリが答えた時の表情だ。
 まるで子供のように笑い、唯一の友人だと告げた。それを思い出した瞬間、キーリは下唇を噛みしめた。
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