ラスボスを闇堕ちさせない為にやり直します!

司馬犬

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第2章

15.

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「だ、駄目だ……駄目な気がする」
 
 全身の力が抜け、画面に触れようとした腕がだらりと下がる。
 それは何かはっきりした理由があった訳ではなかった。それでも今ロードしてしまえば、戻ったとしてもキーリは二度とサラディに向かって心から笑えないような気がした。
 
「ああくそ!」
 
 キーリは自身をよく理解している。力もなく、頭は良くない。しかし、だからこそ気付けた事があった。
 正しくあろうとする人間として、まだ選べる道がある。それはあまりにも遅く、何もしていない臆病者の自分自身に腹が立ってくる。
 その時だった。
 パリンッという音が辺りに響き渡る。その独特な音が、ラルの力によるものだとすぐに理解した。つまり、アレンの守りは残り一回だ。
 しかし、今更だがキーリは気付いてしまう。それは本当に残り一回なのか、という事だった。キーリが目撃した回数なだけであり、実際はもう一回はどこかで使っている可能性は十分にある。
 つまり、次の攻撃が避けられなければ──
 
「──アレンが、サラディに殺される……?」
 
 それを口にした瞬間、全身から汗が噴き出す。心臓も速まり、頭より身体が動いて立ち上がる。その時に選択画面はすぐに消えていく。
 眼前の煙はまだ漂っているが、先程よりは薄くなっている。それでも、もみ合っている二つの影が、どちらが誰なのかは判別できないでいた。
 
「さ、サラディ!!」
 
 キーリは腹の底から声を絞りだして、名前を叫ぶ。しかしその声も情けなく震えている。足も小鹿のように震えていた。
 その声に反応して影の一つの動きが、一瞬だけ止まる。キーリにとってはそれだけで十分だった。
 力強く地面を蹴る。そして、猪のように一直線に止まった影に突っ込むように走り出す。キーリにとってそれはやけくそだった。
 
「ぐっ」
 
 間近になり、サラディの驚きに満ちた顔が見える。それでも勢いを緩めずその腹部に抱きつくように腕を回して、突き飛ばす。突然の襲撃にサラディは反応が遅れて、体勢を崩した。
 小さく呻いたサラディと縺れて、キーリも一緒に床へ転がっていく。二人で全身を打ち付けながらも、先に体勢を立て直したのはキーリだった。
 サラディの上に圧し掛かるように跨る。馬乗り状態になったキーリが、サラディを見下ろすも彼に焦った様子もない。
 
「俺を、殺すのか?」
 
 サラディは、抵抗しようともせず平然とそう口にした。
 今の体勢的には、キーリが有利なのは明らかだ。サラディがこのまま何の抵抗もしないならナイフでも突き立てればあっさりと殺せるだろう。
 しかし、キーリはそうやってあっさり死を口にするサラディも、そう思わせている自分自身にも苛立っていた。同時に悲しさも積もっていく。
 サラディの顔を上から覗き込みながら、キーリは自分の胸元からある物を取り出す。
 それはサラディから貰った贈り物で、彼の血が入ったペンダントだ。円状の銀飾りをいじると中の球体は手元にころりと転がり出てくる。そして、それを軽く床へぶつける。簡単に罅が入り、じわりと中の血が溢れ出てきた。
 それを眺めていたサラディは怪訝そうに眉を顰めた。
 
「何をす……ッ!!」
 
 サラディが言い切る前に、キーリは上を向くと中に入った血を自分の口の中に注ぎ込んだ。少量の血が、ひび割れから漏れ、ぽたぽたと血の雫となりキーリの口へ落ちる。
 錆びた鉄を舐めたような味が広がり、小さくえずく。それでも、吐き出さない。しっかり喉を鳴らして飲み込んだ。
 唇にもついた血を手の甲で拭いながら、サラディを見つめる。サラディもそのキーリの様子を呆然と見つめていた。
 
「お、俺、お前に言わなきゃ事がある!」
「……え」
「わざと黙ってたんだ」
「……」
「俺は、自分の目的のためにどうしても『夜の狼』が必要だった。けど、お前が嫌っているのは知っていたんだ。だから、繋がりを持とうとしていることを言えなかった」
 
 キーリは、サラディの衣服を掴む。それは意識して掴んだものではなかったが、それは力強い。話している最中にどうにも感情が高ぶって、目の奥が段々と熱くなる。
 それは自分自身では制御しきれないもので、蛇口が崩壊したように涙が溢れ出てくる。
 キーリが今しているのは単純なことだ。ロードするより逃げるより、まずしなくてはならないことがあると気付いたからだ。
 それは──
 
「……ごめん。黙ってて、悪かった、サラディ」
 
 ──謝ることだった。
 キーリからぽたぽたと落ちてくる涙を受けながら、サラディの表情は困惑で満ちていた。
 
「お前を傷つけるつもりなんてなかった。本当だよ。お前を殺すなんて、思う訳ないだろ」
「……キーリ」
「でも、まだ言えない事はたくさんある。言いたくないんじゃなくて、まだ上手く説明出来ない。だから信用できないと思うのなら、お前のしたいようにしてくれ」
 
 そのまま、血がついた手の甲を見せつける。それが答えだった。
 そこにあるのはサラディの血だ。キーリは既にそれを飲んでいる。だからこそサラディの意思で、どうにも出来るはずだ。それこそ全身から血が溢れだしたギザットのように。
 キーリの手は震えていた。それでも、潤んだ瞳はどこまでも真っ直ぐにサラディへ注がれている。
 これがキーリの出した自分に出来ることだった。
 サラディは口を開かず、沈黙が流れる。ただ二人で見つめ合ってから、先に動いたのはサラディだった。
 キーリに向かって手を伸ばし、その胸倉を掴む。ぐいっと強めに引かれ、上体が前に傾いた時にサラディも少し身体を起こして──キーリに唇を押し当てた。
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