桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

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久々のカーニバル

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 先に落ち着きを取り戻したボアーズが「族長の元へ案内する」と言ってくれた。
 賄賂(骨)の件は口外無用だぞと、しっかり釘を刺された。

 コボルトの集落は、ティガが言っていた通り、土壁で造られた簡素な家々が並んでいた。壁が崩れた跡や、補修の痕跡もちらほら見える。雨風にやられて、何度も直しているのだろう。

 集落の一番奥に、ひときわ目を引く石造りの家があった。造りも大きさも他とは段違い。きっとあれが族長の家だろう。
「旦那、あれが族長の家っす」

「だろうね。あれだけ他の家と造りも大きさも全然違うし」
「そうっすね。で、あそこの穴が、俺が潜入しようとして掘った穴の跡っす!」
 ティガが指差した先には、周囲の地面と違う色をした場所があった。

 ——うん、だからさぁ……なんで君は自分の失敗談を自ら掘り起こしたがるかね? もしかして、スキル『穴掘り』の副作用ですかい?
「分かったから、その話はもうするな。ここまで来たのに、また追放されたらどうする」
「す、すまないっす。おいら、墓穴掘るのも得意なんっすよ~なんて……てへっ」

 自覚症状あるんかーい! てか何だよ、さっきのペロっと出した舌は! 全然かわいくねぇわ!
「とりあえず、ティガはちょっと黙ってようか」
「あ、はいっす……」

 ボアーズとヤーキンが先に家の中へ入り、事情を説明しに行ってくれた。
 ある程度は時間がかかるかと思いきや、驚くほどあっさりと中へ通された……ティガを除いてだが。

「お、おいらは外で待機してるっす。何かあったら呼んでくれっす!」
「分かった、じゃあ、俺が交渉に詰まったら呼ぶよ。そのときは頼む」
「了解っす!」

 族長の家ということで、豪華絢爛な内装を想像していたが、実際は石造りの机と長椅子がある程度で、とても質素であった。
「よくぞここまで来たな、人間よ。儂は族長、アビフだ」

 アビフと名乗ったコボルトは、ボアーズやヤーキンより背が低く、人間で言えば五十代くらいに見える。その年齢にしては動きはまだ俊敏そうだが、毛並みには白いものが混じり、瞳には長年の経験を積んだ者特有の落ち着きがあった。

 首には、小動物のしゃれこうべを首飾りとして下げている。この集落では、しゃれこうべを装飾品にするのが流行っているのだろうか?
「初めまして、俺は桃太郎。この子はララです。ララは俺と違って、アビフ様たちとは会話できないので、その旨ご了承ください」

「して、何故お主は儂らと会話できるのだ?」
「あ~、それは、あれですね、俺のスキルが動物とかと会話できるってやつなんですよ」
「ほぉ。珍しいスキルじゃな。それで、今日は何用でこんな所まで来たのじゃ?」

「はい。実は、かくかくしかじかで——」
 俺は、近頃この辺りで魔物が増えていること。それによって人間の生活に支障が出ていること。そしてギルドがコボルト討伐依頼を出していることなどを順を追って説明した。

「ふんっ、くだらん。人間どもが苦しもうが儂らの知ったことではない。討伐依頼? 来るならいつでも来い。返り討ちにしてやる! 分かったらさっさと帰れ!」
 俺は必死に反論する。

「待ってください! 俺はただ、人間とコボルト達が共存共栄していく術がないかと思って——」
 アビフは嘲るように鼻で笑った。

「共存? 何を寝ぼけたことを。お主の頭の中は、お花畑か? 人間どもと儂らが共存共栄など、できるはずがなかろうが!」
「何故です?」

「何故って……当たり前じゃろうが! 儂らと人間では種族が違う。種が違えば、道も違う。交わる道理がなかろうが!」
「それでも、なぜと決めつけるんですか?」

 アビフの目が鋭く光った。
「お主、どうやら聞き分けが悪いようじゃのぉ。手荒なマネはしたくなかったが、これ以上無駄な問答を続けるのなら——」

「ああっ、ちょ、ちょっと待ってください、アビフ様! 力で解決するのは得策ではないかと……。実は、今日は特別な手土産を持参しておりまして。それをご覧になってから、改めて判断していただけません……か?」

 アビフの表情が微かに揺らぐ。
「手土産——とな。ま、まぁ~見てやるくらいは構わん」
 よし、食いついた!

「では、お持ち致します。おーいティガ、入って来てくれ!」
「了解っす、旦那!」
 アビフが即座に声を荒らげた。

「お、おい! ティガは入れるなと言ってあっただろうが! ふざけておるのかっ!」
 俺には勝算があったので、冷静に応じた。

「まぁまぁ、アビフ様。ティガに渡しておいた手土産を持って来させるだけですので、少しだけお許しください」
「お待ち遠様っす! あ、族長、二日ぶりっす。こないだはすみませんでしたっす!」

 アビフは冷ややかに切り返す。
「ふんっ。こっちとら、お前の顔など二度と見たくはなかったのだがな」
「本当に申し訳なかったっす。ただ、今回はおいらの存在は無視してくれっす。これが桃太郎の旦那からの土産っす!」

 ティガが差し出したのは、あらかじめ俺が預けておいたジャバリの肉だった。
 それを見たアビフの目が見開かれる。これが何の肉なのかが一瞬で分かったのだろう。

「ティガ、ありがとう。下がっていいよ」
「はいっす。ではアビフ様、失礼するっす」
 アビフは肉に食い入るように視線を注ぐ。

「ま、待てティガ! これは……ジャバリの肉だな?」
「そうっす。旦那が仕留めた、正真正銘のジャバリの肉っす!」
 アビフの頬がわずかに緩んだが、いかんいかんと、即座に顔を直す。
「お主が仕留めたそれを……儂らにくれると言うのか?」

 俺は笑顔で即答する。
「はい、どうぞお納めください。あ、お気に召しませんでしたか? では、これは持って帰り——」
「ま、待て待て待て! そんなこと一言も言っておらんではないかっ! せ、誠心こもった贈り物、有難く頂戴しようではないか」

 俺は内心で拳を握った。
「喜んで頂けたようで良かったです! これはまだ、ほんの一部です。まだまだ沢山ありますので、今日は集落の皆さんで『ジャバリ肉祭り』をする、なんてのは如何でしょう?」

 俺の提案を受け、アビフの目がギンッギンに輝き始めた。
「ななな……なんじゃとぉーーー‼ ひひひ……久しぶりの、ジャバリカーニバルの準備じゃー‼ ボアーズ、ヤーキン! 急ぎ民を集めよ!」

 ボアーズとヤーキンは揃って「畏まりました!」と返事をした。
 アビフは渋い表情を浮かべながら、ティガにも声を掛ける。
「おい、何を突っ立っておるんじゃ、ティガ!」

「……へ? おいらっすか?」
「他に誰がおる。お前も手伝わんか!」
「は……はいっす!」

 ティガは満面の笑みを浮かべ、勢いよく外へ飛び出して行った。
「アビフ様、ありがとうございます」
「何のことじゃ? 儂はただ、人手が必要だっただけじゃ」

 そう言うアビフ様は、少し照れ臭そうにしていた。
 その仕草を、俺はちょっぴり可愛いと感じてしまい、無性にアビフ様を撫で撫でしたい衝動に駆られたか、さすがに自重した。

「桃太郎と言ったな。お主は変わった人間のようじゃな。気に入った! 提案、前向きに考えて行こうじゃないか!」
「本当ですか⁉ ありがとうございます!」

「堅苦しい話は、ジャバリカーニバルの後じゃ!」
「はいっ!」
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