桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

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よく見てやがる

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 こうして、数年ぶりにジャバリカーニバルが開催されることとなった。
 集落の皆には、アビフ様から説明をしてもらい、おそらくこの世界で初めての、人間とコボルトの交流会が開かれた。

「桃太郎殿、紹介したい者がおるんじゃが、よいか?」
「あの、アビフ様。『殿』なんて堅苦しい呼び方おやめください。呼び捨てで構いませんから。それで、紹介したい方とは?」

「では、桃太郎君と呼ばせてもらうぞ。紹介したいのは、この娘じゃ」
「は、初めまして。桃太郎、さん」
(きゅわわーん!)

 か、可愛いっ! なんだこの可愛い生き物は‼
 年齢は、ララと同じくらいだろうか? 背丈もほぼ一緒だな。
 この子は——しゃれこうべ、着けてないな。その代わりに、頭に赤いお花を刺してある。しゃれこうべは、男の嗜み……的なものなのかな?

「儂の娘、アテナじゃ」
 あ~、この子がティガの言ってた族長の娘さんか。これは……うん、手を出したくなる気持ちもわからなくも——
 なんて考えていると、強烈な殺気がバチバチ飛んで来ているのを背中に感じた。

「な……なんですか、ララ……さん?」
「大将、なんかやましいこと考えてるです」
「そそ、そんなことない、よ」

「ウソです。鼻の下がビョーンって伸びてたです。男の人はやましいことを考えると、鼻の下が伸びるって聞いたことあるです!」
(うぐっ‼)

 ララの奴、俺のことをよく見てやがる……油断も隙もないな。
 何か言い訳を、と考えていると、アテナがララに急接近してきた。
「なにこれ⁉︎ 素敵な髪飾り」

「な、なんです急に⁉」
 ララにはアテナの言葉が通じないので、俺が通訳する。
「アテナちゃん、ララの髪飾りに興味があるみたいだよ」

「こ、これですか……って、大将! 今のどういうことです⁉」
「え? 今のって?」
「アテナ‼ ララ、ちゃん付けで呼んでもらったことなんて一度もないのに、パッと出の小娘には付けですかぁ~⁉」

 いやぁ~、俺に言わせれば、君もまぁまぁパッと出だよ? まだ出会って三日目じゃね?
「ララはさ、俺の仲間だろ? アテナちゃ、じゃなくて、アテナさんは、初対面だから。決して、何か意識したとかではないからね! ね⁉」

「言い訳はもういいです……。で、この髪飾りが欲しいんですか、このメス犬は?」
 ララさ~ん! 言葉の暴力ですよ~! 幸か不幸か、言葉通じないから問題ないのですが、お口悪くなってますよ~。

「こらこら、ララちゃん。そんな言い方しちゃダメでしょ?」
「今さら『ちゃん』付けしなくていいですよ、大将。あと、この髪飾りは大将に買ってもらった大事な物です。あげないですって伝えてくださいです」

 ふぇ~。女の子の扱いって、こんなにも難しいもんだったんだなぁ。体力だけじゃなく、こっちの方も鍛錬が必要だな、こりゃ……。
「だ、大丈夫だよ。欲しいとは言ってないから。あ、そうだ! アレがあったな」

 俺は、アイテムボックスから、ララの髪飾りを買った時にオマケでもらった黄色い星型の髪留めを取り出した。
「これ、アテナさんに差し上げます」

「えっ? こんな素敵な物を……いいんですか?」
「どうぞ。オマケで貰った物ですが、気に入ってもらえると嬉しいです」
「ありがとうございます! 大切にします!」
「儂からも礼を言うぞ、桃太郎君」

「いえいえ、こんなものしか手元になくて、逆に申し訳ないです」
「いや、十分じゃ。アテナがこんなに喜んでいる姿を見るのは久しぶりじゃ。人間は器用な生き物とは聞いておったが、このような装飾品まで作れるのか……」

「そうですね。人間はそれぞれ得意なことを生業にして、支え合いながら生活をしています。そういう点では、人間もコボルトも同じじゃないかと思うんです」
「うむ、まさにその通りじゃ。我々も、狩りが得意な者、日用品を作る者、料理が上手な者など、互いに支え合って暮らしておる」

「人間にはできて、コボルトにはできないこと。コボルトにはできて、人間にはできないこと、というものもあるかと思います。足りないところを補い合える関係になれたら、未来が広がると思うのですが……どうでしょう?」

「ふむ……。とても良い考えじゃとは思うのだが、やはりアレがな……」
「アレ、とは?」
「言葉が通じぬことじゃ。こればかりは、どうしようもない障壁となる」

「はい……。でも、もしかすると、その障壁を越える方法があるかもしれないとしたら?」
「言語の壁を、越えるじゃと? して、その方法とは⁉」

「それが、まだ成功するかは分からなくて……実験のような形になるので、まずは了承をいただけるかどうかをお考えいただきたいのです」
「儂らに、実験台になれと言うのか……」

 さすがにまずったかな……? 変な副作用とかはないはずなんだけど。
「ふむ、お主のことだ。話だけは聞こう。判断はそれからじゃ」
「も、もちろんです! では、まず俺とティガが話せるようになった経緯からご説明させていただきます——」
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