桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

文字の大きさ
20 / 73

『てへっ』と『テヘッ』

しおりを挟む
 俺は、きびだんごの話をアビフ様たちに伝えた。
 明確な理由は不明だが、どうやらこの団子を口にした者同士は、種族の垣根を超えて意思疎通が可能になるらしい。
 ただし——残りは三つ。作り方も不明。つまり超貴重品ってわけだ。

 その貴重なきびだんごをどう活用するか考えた末、一つの案が浮かんだ。
 一つのきびだんごを、いくつかに切り分けて与えても、同じ効果が現れるのではないか……?

 さらに、丸ごと食べさせるわけではない分、分量が減るぶん、俺への忠誠心的なアレも薄れる……かもしれない。そのほうが俺にとっても都合がいい。
 この『俺的ご都合主義』の部分は伏せたまま、アビフ様にきびだんごを食べてもらえないか懇願してみた。

「うーむ。にわかには信じらがたい話じゃのぉ……」
「族長! おいらが旦那や姐さんと会話できてるじゃねぇっすか。それが証拠っすよ!」
「お前は丸ごと一個食べたのじゃろうが。それが条件なら、切り分けて食しても効果があるかどうかは不明じゃろうが」

 アビフ様の言うことは、ごもっともだ。ただでさえ少なくなっているきびだんごを無駄にもできない。それも考慮してくれた発言だろう。
 皆がどうするべきかと唸りを上げている中、ひとり、手を挙げた者がいた。

「はい! 私、そのきびだんごを食べます! 食べさせてください‼」
 声を上げたのは——アテナちゃんだった。
「こら、アテナ! お前は大人しくしておりなさい!」

「いいえ、お父様。私は族長の娘です。この集落のことを考える責任があります!」
 凛とした顔でアテナちゃんは続ける。
「私たちコボルトは、元々争いを好まぬ種族です。でも人間とは、昔から対立ばかりしてきました。その原因は——やはり言葉が通じないことです。もし、その障害を取り除ける手段があるのなら、私はその可能性に賭けてみたいです!」

「アテナ……お主、本気でそう思っているのか?」
「はい! それに……」
 それまで気高く意見を述べていたアテナさんが、急に顔を赤らめ始める。

 その様子を、アビフ様が怪訝そうに見つめ、問いかける。
「それに、何じゃ⁉」
「そ、それに……。私……ララちゃんとお話ししてみたい……です」

(ハファッ⁉)
 ひ、久しぶり俺の心の中で変な感情が開花した音が鳴った。何て尊い理由なんだろうか。
「大将、さっきからアテナがこっちを見てくるんですけど、何を言ってるです?」

 ララは、まだ少しアテナちゃんのことを敵視しているような目つきをしていた。
 でも、アテナさんにチラチラ見られて、うっすら頬が赤い気もする。それに、さっきの『メス犬』呼ばわりから『アテナ』と名前呼びに変わっていた。
 二人は歳も近そうだし、もしかしたら……。

「アテナちゃ、さんがね、ララとお話ししてみたいから、きびだんごを食べてみたいって言ってくれてるんだよ」
「へ? へぇ~……ラ、ララは別に、お話することなんて……無くは、無い……かも、です」

 おひょー‼ なんじゃこの反応は⁉ さっきまでのツンツンしていた態度はどこへやら、急にデレデレし始めたやないですかぁ~!
 俺はこの現象を『ツンデレ』と呼ぶことにした。

「何だよララ~。急にツンデレになってよぉ~」
「ななな、何ですかツンデレって⁉ た、大将の言ってること意味わかんないですっ!」
 ララが急に慌てふためきだしたので、アテナちゃんが「ララちゃんは何て言ってるのですか?」と俺に心配そうに尋ねてきた。

「あ~、ララもアテナちゃんとお話しをしたいみたいだよ。でも、ちょっと照れちゃってるみたいで、あははは」
「ちょ、ちょっと大将! な、何を言っているですかぁ! ララはそんなこと一言も——」

「そっかぁ~、俺の勘違いだったかぁ~。じゃあ、アテナさんにはお断りしておくねぇ~」
「だ、ダメですそんなの! ラ、ララも……おしゃ……した……す……」
「え? 何だって? 声が小さくて聞こえないよぉ?」

「ララもアテナちゃんとおしゃべりしたいですーっ‼」
 顔を真っ赤にしたララが、大きな声でそう言い切った瞬間、アテナちゃんがララに抱きついた。
「ララちゃん! 私もいっぱいおしゃべりしたい‼」

「……え? アテナちゃんの言葉が……分かる、です……」
 そう。アテナちゃんはすでにきびだんごを食べていたのだ。ララが、あーだこーだ言っている間にね。

 でも何故なんだろうか? 可愛いものを前にすると、無性にからかいたくなる衝動に駆られる。俺はその衝動に負け、ララを試すような真似をしてしまっていた。正直めっちゃ楽しかったんだが。

「ララちゃん、ありがとっ!」
 アテナちゃんがそう言うと、再びララに抱きつく。
「う、うわぁ~、ななな、何するですかっ!」

 君がいつも俺にやってることだよ~。急に来られると、今みたいに焦るんだよ~、普通は。
「私、ララちゃんと仲良くなりたい! いっぱいおしゃべりしたい! だからきびだんご、食べちゃった。テヘッ」

 おぉ~、アテナちゃんの『テヘッ』は可愛いなぁ……。ティガの『てへっ』には反吐が出たけど。
「ララも……仲良くしたい、です」

 よーく言った、ララ! ララに同じ年代くらいの友達ができたみたいで、俺も嬉しいぞ。
「ねぇ、ララちゃん。年はいくつ?」

「ララは十二歳です。アテナちゃんは?」
「私は十八歳だよ!」
「「えぇーーー!?」」

「ど、どうしたの二人して?」
「いや、なんと言うか……、アテナちゃ、いや、アテナさんは、てっきりララと同じくらいかと思ってたもので……」

 俺よりも一個年上だったのかよ! 以後はアテナさん呼びで統一しよう……。
「ララより年上だったですね……。アテナ……お姉ちゃんって、呼んでいいですか?」
「もちろんだよ! 妹ができたみたいで、すごく嬉しい!」

 二人はすっかり意気投合し、俺たちのことなど見えていないかのように、二人の世界に浸っていた。
「二人が仲良くなってくれて俺も嬉しいです。話しができれば、ああやって種族の違いも関係無くなるという、一つの成功例を垣間見れた気がしますね」

「うぅむ……。何とも不可思議な力じゃのぉ。して、きびだんごの力には不都合などはないのか?」
「それなんですが……きびだんごを食べると、俺への忠誠心みたいなのが芽生える可能性があってですね……。食べさせる相手は慎重に考えないといけないかなぁとは思っています」

「……それを、儂の娘に食わせたのか……?」
「あ、あぁ~、そ、そうなんですけどね。でも、今回は、四分の一個なので、その分忠誠心は薄くなるんじゃないかなぁ……という仮定の下に食べてもらったんですが……やっぱマズかったですかね?」

「そういうことは先に言わんかーい‼」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...