桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

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闇の監視者

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 道すがら、ララたちがお腹を空かせてるかもと思い立ち、屋台街で食料を買っていくことにした。
 ララには、前に美味しいと絶賛していたチーズと燻製肉のサンドイッチを。コボルトのみんなには、骨付き肉を人数分買っていくことにした。きっと喜んでもらえるだろう。



「みんな、お待たせ。何か変わったことはなかったか?」
「あ、おかえりなさいです、大将! 特に何もなかったですよ。ちょっとお腹が空いたくらいで」
「ならよかった。ほら、ご飯買ってきたから、みんなで食べよっか」

「やったーですー!」
 ララにサンドイッチを、コボルトたちには骨付き肉を手渡していく。
 するとララが「アテナお姉ちゃんも、この肉に齧り付け……と?」なんてことを言いだした。

「えっ、これじゃダメだった?」
「ったく、大将は……。ほんっとに、乙女心が分かってないです~。こんな野蛮な食べ物、アテナお姉ちゃんには——」

「だ、大丈夫だよ、ララちゃん! 骨付き肉、好きだから。せっかく桃太郎さんが買ってきてくれたんだし、ありがたく頂くね」
 なーんか、アテナさんにめっちゃ無理させちゃってないか? 次はもっと乙女心をくすぐる、お洒落ご飯を見繕ってきますね……。


 食事をしながら、俺はギルドでのやり取りを報告する。
「桃太郎君、して、何か進展は見込めたかの?」
「はい。たまたまギルドマスターのガストンさんに直接会うことができまして。今夜零時に西門で合流し、その後、彼の屋敷で話をさせていただけることになりました」

「そうか……。いやはや今更じゃが、なんだか緊張してきたのう。本格的な政《まつりごと》など、儂に務まるか……」
「そんなに構えなくても大丈夫ですよ。思っていることをそのまま、真っすぐに話してくれれば伝わるはずです。きっと、うまくいきます!」

「……うむ、そうじゃな。桃太郎君の言う通りじゃ。ありがとう」
 美味しいサンドイッチでお腹が満たされたララは、すっかり元気を取り戻したようで、大きな声で皆を鼓舞した。

「もし、そのガストンとかいうおっさんがダメって言ってきたら、ララがボッコボコにしてやりますです! ねー、アテナお姉ちゃん♪」
「暴力はダメよ、ララちゃん。ちゃんと言いつけて、お灸を据えるくらいにしておかないとね!」

 こ、怖ぇぇぇぇ~。ララは相変わらず言葉の暴力が過ぎるし、アテナさんからは、言外の圧を感じる……。
「だ、大丈夫だよ二人とも。ガストンさん、めっちゃ優しい——と思うし。そんでもって、めっちゃ強そうだから、逆にボッコボコにされちゃうかもだから、手は絶対出しちゃダメだかんねっ!」



 食後、約束の時間までしばしの休憩を取ることになった。
 ボアーズとヤーキンが手際よく木を伐り、槍と斧を器用に使って簡易寝床を作ってくれた。

 聞けば、二人のスキルは戦闘系ではなく『クラフトワーク』という生産系のものらしい。
 戦闘スキル無しに、魔物をちょちょいと退けるのだから、やはりコボルト族は侮れない。


 約束の時間まで三十分前となり、俺たちは外套を纏い、テソーロの街へと歩み出した。


 予定時刻ぴったりに西門へ到着すると、ガストンさんとベリアさん、そして護衛らしき男性二人が、すでに待っていた。
「よお、時間ぴったしだな。後ろのが、例の奴らだな?」

「はい。よろしくお願いします」
「あぁ、では行こうか」
 俺たちは、ガストンさんを先頭に、北側の居住区へと向かった。

 ***
「——こんな時間に、ガストン卿が西門に? ……ん、誰か来たな。外套を被っていて、何者か判別がつかん。一、二、……全部で七人か。後方の二人は槍と斧を所持している。奴ら、一体何者だ?」



 北側の居住区の前には大きな門があり、許可なしには通れないと、以前ララから聞いていた。今回はガストンさんの同行もあって、何の問題もなく通過できた。
 門をくぐると——整然と立ち並ぶ洗練された建物の数々がそこにあった。
「な、なんじゃこりゃ~! 全部が大豪邸じゃないか……」

「そうだな。ここに住めるのは、限られた人間だけだ。あそこに見える一番大きな建物が、領主邸であり議事堂でもある」
「ガストンさんのお父様がお住まいってことですか?」
「まぁそうなるな。父親つっても、もう何年も口きいてねーけどな」

「仲が……その、あまりよろしくないとか?」
「どうだろうなぁ? 仲が良い悪いというより、身分が違いすぎて話す機会もないし……まあ単純に馬が合わんってのもあるかな。なっはっはー!」
 大仰に笑うガストンさんを見て、俺は複雑な心境になった。

 親子なのに、身分の違いで話しすらできないなんて……。俺ならそんな親子関係、御免被りたい。
「ほれ、着いたぞ。入ってくれ」
 ガストンさんの付き人が左右に分かれて門を開けてくれた。門ひとつとっても、ひとりでは開けられないほど重厚な造りだ。

 門をくぐっても、まだ住居まで十間(約二十メートル)ほどの距離がある。
 広大な敷地には、手入れの行き届いた庭園が広がり、中央には水が噴き出す設備があった。

「ガストンさん。あれは……何ですか?」
「あぁ、あれは『噴水』だ。見た目の美しさに加えて、水の浄化や草木への給水も担っている。機能性も兼ね備えた設備ってわけさ」

 噴水を見たボアーズとヤーキンが目を輝かせながら食いつくように観察している。俺が説明してあげると、ふたりは揃って「我々の集落にも欲しい!」と叫んだ。
 コボルトの集落では、時折干ばつに悩まされることがあるらしい。
 水は命の源だ。あとで噴水の原理を教えてもらえるか聞いてみよう。

「ここまで来たら安心だろう。外套を取っても構わんぞ」
 ガストンさんに促され、俺たちは邸宅に入る前に外套を脱いだ。
「うわぁ……マジもんの魔獣——いや、コボルトじゃねぇか……」
 ガストンさんの反応を見て、アビフ様が少し睨みつけるように呟いた。

「主は、儂らが怖いか?」
「うわぁ……やっべぇ——」
 ガストンさんはそう呟くと、急にうつむいてしまった。
「ど、どうしましたか、ガストンさん?」

 心配して声をかけると、隣にいたベリアさんが、頭を抱えながら言った。
「あちゃ~。これは……琴線に触れちゃったっぽいな……」
 琴線? 何のことだろうと疑問に思った、その瞬間——

「やっべー! マジじゃん‼ マジでコボルトと会話してんじゃん、俺‼ ひゃー、テンション上がるわー。最高だぜー‼」
 ……誰よりもこの状況を満喫してた。

 ガストンさんの変貌の理由をベリアさんが肩をすくめながら説明してくれた。
「これ、ガストンさんの悪い癖なんです。新しい技術とか、珍しいものに目がなくてですね……。何にでも首を突っ込むんで、それが原因でお父様——つまり領主様から半ば勘当されちゃってるんです」

 あ、そゆこと。次期領主の座、放り出しちゃった的な……。
 俺とアビフ様は目を合わせ、なんとも言えない気まずさに小さくうなずき合った。

 ***
「な、何だと⁉ あれは……魔獣じゃないか! なぜ魔獣がこんな場所に⁉ 一体ガストン卿は何を考えているのだ……。これは由々しき事態だ……俺ひとりでは手に負えん。仲間を呼ばねば——」
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