桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

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運命の歯車

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 屋敷の中は、予想に反してきらびやかさはなく、落ち着いた雰囲気だった。
 豪華絢爛な装飾よりも、壁に飾られた武器や鎧などが目立っている。
 武具のほかにも、見たことのない壺のような物体や、無骨な銀色の箱がところ狭しと置かれている。

「ガストンさん、あれらは一体何ですか?」
「あぁ、あれは全部マジックアイテムだな。あっちの壺は『デュプリケーター』といって、一つのものを複製することができる。こっちの箱は『アイテムボックス』。中に入れたものが、一生腐らなくなるという優れものだ! どっちもチョー高級品だぜ!」

 ア、アイテムボックス⁉
 俺の持っているものと同じ名前であることに驚いた。そういやイーリス様が、こっちの世界でも持ってる人がいるとか言ってたような気がしなくもない。
 ガストンさんに、もう一つ質問をしてみた。

「このアイテムボックスって、どのくらいの容量があるんですか?」
「どれくらいっつったって、この中に入るだけしか入れられねぇよ。せいぜいパンが十個入るかどうかってとこじゃねぇか?」
 それを聞いてさらに驚く。

 ……え? 俺のは、もっとたくさん入るぞ——
 そう思った瞬間、ふいにイーリス様の顔が頭に浮かんだ。
 やっぱり、あれは特別製だったんだ……。あらためて、大切に使おう。ありがとう、イーリス様!


 大広間へと案内され、俺たちは円卓を囲んだ。
「まずは自己紹介から始めようか。俺はガストンだ。この街のギルドマスターをしている。よろしくな」
「儂はコボルト族の族長、アビフじゃ。横におるのは、儂の娘のアテナじゃ」

「ア、アテナです。よろしく……お、お願い、いたしますっ」
「ベリアと申します。ギルドの受付を担当していますが……えっと、なんであたしは今ここにいるんでしょう……?」
「成り行きだと言っただろ~、なっはっはー」

「あ、おいらはティガっす! 桃の旦那に助けられて、なんだかんだでここにいるっす!」
「ララです。よろしくです」
 ボアーズとヤーキンについては、まだきびだんごを食べていないので、話ができないことを説明しておいた。

 一通りの自己紹介が終わり、本題に入る前に、手土産を渡すことにした。
「本日はお時間をいただきありがとうございます。アビフ様より、こちらを献上品としてお預かりしております。どうぞお納めください」
 事前にアイテムボックスから取り出しておいた、あの赤い魔含を差し出した。

 すると、ガストンさんの表情が、一瞬にして険しくなった。
「こ、これは……。一体どこで手に入れたんだ⁉」
「アビフ様のお屋敷に飾ってあったものです。コボルトたちにとって魔含は、あまり価値のないものだそうで……。これは特に輝きも大きさも良かったので、残しておいたとのことでした」

「そうか……。アビフ殿、この魔含の持ち主に、心当たりは?」
「ひと昔前、森で暴れておったオーグルじゃが、それがどうかしたか?」
「やはり……そうか」
 ガストンさんは小さく呟くと、頬に残る古傷へと指を添えた。
 やがて、ぽつりぽつりと昔語りを始めた。

「テソーロの北には貴族のための遊技場があってな。あるとき、狩猟場に獣が一匹も現れなくなった。原因調査の依頼を受けて、当時冒険者だった俺と相棒のレイエス、それに別口で依頼を受けていた冒険者夫婦の四人で即席のパーティを組んだんだ。向かったのは、北西の森――そこで、俺たちは出会ってしまった。あんな化け物、見たこともなかった……」

 ガストンさんは一度、言葉を切る。目に浮かぶのは、過去の光景か。
「戦闘が始まると、駿足のスキルを持つ奥さんが陽動を試み、暗躍スキルの旦那が背後から攻めに回った。だが、二人ともあっけなくやられてしまった……。まだ、小さい子がいるって言っていたのにな……。無念だったが、俺たちでは太刀打ちできなかった。レイエスと俺は、撤退を選んだ」

 当時のことを思い出したのだろう。悔しさが表情ににじみ出ている。
「でも……俺が下手こいて足を滑らせちまってな……万事休す、そう思った時だった——」

 ◆◇◆◇
『おい、レイエス! 何してんだ!』
『親友が目の前で犬死にするとこなんて、誰も見たくねぇだろ……ぐぁっ!』
『レイエス‼』
『逃げろ! お前はこんなところで死んじゃいけねぇ人間だ……‼』
『バカヤロー‼ 死ぬときは一緒だって——』
『ふざけろ! 俺の命を無駄にすんじゃねぇ! ウィル……お前はテソーロの街を背負っていく義務があんだろうが! これを持って逃げてくれっ』
 ◆◇◆◇

「そう言って、あいつは俺にこのガントレットを投げ渡してきた。……形見ってやつだな。あの冒険者夫婦と、レイエスが命を張ってくれたおかげで、俺は今こうして生きてる。その時、俺たちが出会った魔物——あれが、おそらくこの魔含の持ち主……オーグルだ。まったく、運命ってのは、時に恐ろしいもんだぜ」

 静かになった場の中、俺はある疑問を口にした。
「一つ、質問してもいいですか?」
「ん? 何だ?」
「スキルって、遺伝するんでしょうか?」

「……唐突だな。まあ、確かに親から子へ受け継がれる例は多いと聞いている」
「やっぱり……。その冒険者のご夫婦、子どもがいたっておっしゃってましたよね?」
「ああ、たしか……二歳になる女の子がいたとか。名前は……ララティーナだったかな?」

 ——それを聞いて確信した。その子は、きっとララのことだ。
 当の本人はというと、夜も遅いせいか、アテナさんの膝枕でぐっすりと眠っていた。小さな寝息が、静かな部屋に優しく響く。
「その冒険者夫婦のお名前、覚えていたりしませんか?」

「あー、すまん。子の名前は覚えていたが、恩人の名前をすっかり忘れてしまっている。ギルドの帳簿を確認すれば分かるだろう。ベリア、後で確認してくれるか?」
「……はい、承知しました」
「ありがとうございます」

「だが、なぜ君があの夫婦に興味を持つんだ?」
「そうですね。運命の歯車……的なもんですかね」
「……よく分からんが、君がそう言うなら。俺も恩人の名を思い出すいい機会だ。任せてくれ」
「助かります」
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