27 / 73
物々交換
しおりを挟む
ガストンさんは、昔話を語り終えると、ゆっくりとアビフ様の元へ歩み寄った。
そして、目の前に跪き、ガントレットをつけた左腕を差し出す。
「アビフ殿……友の仇を討ってくれて、本当に感謝する。ありがとうございます!」
アビフ様は差し出された手を、ぐっと握り返し、力強く頷いた。
「儂らはただ、邪魔者を討っただけじゃ。だが、それがそなたの因縁相手だったのなら……まぁ、巡り合わせというやつじゃの」
そう言いながらも、アビフ様はガントレットにじっと目をやる。
「それよりも——」
「それよりも、どうされました?」
「このガントレットとやら、…めーっちゃ格好ええのう! この紋様とか、なんとも言えん味がある……う~ん、たまらんっ!」
コボルト族は装飾品が好きだ。特に、やんちゃ坊主たちが好みそうな、無骨ながらも技巧が光る装飾に目がないようだ。このガントレットには、それを満たす資格が十二分に備わっていた。
「こ、これはいかんぞ! 大事な友の形見であって——いや、もう俺が持っていても仕方ないものか……。そうだ、この魔含と物々交換するってのは、どうだろうか?」
「その話、乗った! そもそも魔含はお主にやると言ったものじゃ。それでもよいなら、ありがたくいただくぞ!」
「もちろんですとも!」
「にしても、人間どもはこんな石っころなんぞを一体何に使うんじゃ?」
アビフ様の素朴な問いかけに、ベリアさんが答えてくれた。
「魔含は、様々なマジックアイテムに使われる重要な素材です。先ほどご覧になったアイテムボックスやデュプリケーターなどにも、当然使われています」
なるほどそれで高値で買い取ってもらえるって訳か。合点がいった。
「にしてもアビフ殿! あんた良い趣味してるじゃねぇーか、気に入った! よかったら俺のコレクション、見ていくか?」
「コレクションとな! 是非見せて——」
「お父様ぁ~! 楽しそうで何よりですわ~。ですが、私たちはそんなことをしにここまで来たのではないのですよ~。当然、分かっておられますよねぇ~」
満面の笑顔でそう言い放つアテナさんからは、雷鳴のようなプレッシャーがピリピリと漂っていた。
「も、もちろんじゃよ。話が終わったら……、その~、ちょびっとだけ……寄り道程度に……」
「はぁ……仕方ありませんね。ガストン様にご迷惑をおかけしないでくださいよ」
そんな和やかなやり取りが続いていた矢先——
突然広間の扉が『ドンッ!』という大きな衝撃音と共に開いた。
眠っていたララも、その音に反応して飛び起きた。
「そこまでです、ガストン卿! 外患誘致の容疑で、あなたの身柄を拘束します!」
「な、なんだお前たちはっ⁉︎ 突然俺の屋敷に——ってまさか、お前ら近衛騎士団か⁉」
不意に現れた黒ずくめの者たちは、全部で五人。主格と思しき男を中心に、四人がガストンさんを取り囲む。
「ガストン卿。外患誘致は、重大な国家反逆罪です。大人しくしてください」
「国家反逆罪だぁ⁉ ……あぁ、そういうことか。この方々は——」
ガストンさんが説明を始めようとしたその時、主格の男が突然剣を抜いた。
「魔獣ども! 何を企んでいるか知らんが、ここで殲滅する!」
剣閃が走る。狙いはアビフ様——
「あ、危ない!」
気づけば、俺の体は勝手に動いていた。アビフ様を庇うように、間に割って入る。
「ゔぐぁっ‼」
「大将‼」「旦那ー‼」「桃太郎さん‼」
背中に激しい衝撃と共に、熱いものが流れ出すのを感じた。血だ……止まる気配がない。
「邪魔だ。そこをどけ!」
「な……なんでいきなり……斬りかかって……?」
「魔獣だぞ! 理由など不要だ‼」
「あ、あなた達は、一体、何者なん……ですか? お、俺たちは……、ただ話し合いを——」
「お前が魔獣を操っている者だったか! ふん、冥土の土産に教えてやろう。我が名はエスピア。近衛騎士団・密偵部隊長だ。地獄でアイリス様に詫びるがいい」
エスピア——その名を、俺は脳裏に刻む。
そして、意識が……すうっと、遠のいていった。
そして、目の前に跪き、ガントレットをつけた左腕を差し出す。
「アビフ殿……友の仇を討ってくれて、本当に感謝する。ありがとうございます!」
アビフ様は差し出された手を、ぐっと握り返し、力強く頷いた。
「儂らはただ、邪魔者を討っただけじゃ。だが、それがそなたの因縁相手だったのなら……まぁ、巡り合わせというやつじゃの」
そう言いながらも、アビフ様はガントレットにじっと目をやる。
「それよりも——」
「それよりも、どうされました?」
「このガントレットとやら、…めーっちゃ格好ええのう! この紋様とか、なんとも言えん味がある……う~ん、たまらんっ!」
コボルト族は装飾品が好きだ。特に、やんちゃ坊主たちが好みそうな、無骨ながらも技巧が光る装飾に目がないようだ。このガントレットには、それを満たす資格が十二分に備わっていた。
「こ、これはいかんぞ! 大事な友の形見であって——いや、もう俺が持っていても仕方ないものか……。そうだ、この魔含と物々交換するってのは、どうだろうか?」
「その話、乗った! そもそも魔含はお主にやると言ったものじゃ。それでもよいなら、ありがたくいただくぞ!」
「もちろんですとも!」
「にしても、人間どもはこんな石っころなんぞを一体何に使うんじゃ?」
アビフ様の素朴な問いかけに、ベリアさんが答えてくれた。
「魔含は、様々なマジックアイテムに使われる重要な素材です。先ほどご覧になったアイテムボックスやデュプリケーターなどにも、当然使われています」
なるほどそれで高値で買い取ってもらえるって訳か。合点がいった。
「にしてもアビフ殿! あんた良い趣味してるじゃねぇーか、気に入った! よかったら俺のコレクション、見ていくか?」
「コレクションとな! 是非見せて——」
「お父様ぁ~! 楽しそうで何よりですわ~。ですが、私たちはそんなことをしにここまで来たのではないのですよ~。当然、分かっておられますよねぇ~」
満面の笑顔でそう言い放つアテナさんからは、雷鳴のようなプレッシャーがピリピリと漂っていた。
「も、もちろんじゃよ。話が終わったら……、その~、ちょびっとだけ……寄り道程度に……」
「はぁ……仕方ありませんね。ガストン様にご迷惑をおかけしないでくださいよ」
そんな和やかなやり取りが続いていた矢先——
突然広間の扉が『ドンッ!』という大きな衝撃音と共に開いた。
眠っていたララも、その音に反応して飛び起きた。
「そこまでです、ガストン卿! 外患誘致の容疑で、あなたの身柄を拘束します!」
「な、なんだお前たちはっ⁉︎ 突然俺の屋敷に——ってまさか、お前ら近衛騎士団か⁉」
不意に現れた黒ずくめの者たちは、全部で五人。主格と思しき男を中心に、四人がガストンさんを取り囲む。
「ガストン卿。外患誘致は、重大な国家反逆罪です。大人しくしてください」
「国家反逆罪だぁ⁉ ……あぁ、そういうことか。この方々は——」
ガストンさんが説明を始めようとしたその時、主格の男が突然剣を抜いた。
「魔獣ども! 何を企んでいるか知らんが、ここで殲滅する!」
剣閃が走る。狙いはアビフ様——
「あ、危ない!」
気づけば、俺の体は勝手に動いていた。アビフ様を庇うように、間に割って入る。
「ゔぐぁっ‼」
「大将‼」「旦那ー‼」「桃太郎さん‼」
背中に激しい衝撃と共に、熱いものが流れ出すのを感じた。血だ……止まる気配がない。
「邪魔だ。そこをどけ!」
「な……なんでいきなり……斬りかかって……?」
「魔獣だぞ! 理由など不要だ‼」
「あ、あなた達は、一体、何者なん……ですか? お、俺たちは……、ただ話し合いを——」
「お前が魔獣を操っている者だったか! ふん、冥土の土産に教えてやろう。我が名はエスピア。近衛騎士団・密偵部隊長だ。地獄でアイリス様に詫びるがいい」
エスピア——その名を、俺は脳裏に刻む。
そして、意識が……すうっと、遠のいていった。
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる