桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

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贈収賄現場

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「——将? 大将! おーい、大将ーっ‼」
「うわぁ! な、何だよ、ララ⁉」
 ララが突然、俺の顔の前で大きく手を振ってきたので、思わず後ずさる。
「何だよ。じゃないですよ、大将! さっきからボーっとしっぱなしです。どうしたです?」

 それを聞き、ようやく数分前の記憶が蘇る——本当に、生きて戻ってきた……。
 今はどの地点だろう? まずは確認しないと。
「なぁララ、ちょっと変な質問かもしれないけど……俺、次に何する予定だったっけ?」

「……本当にどうしたです? 頭でも悪くなったですか?」
 そこは「頭でも打ったですか?」にしておこうね~。……まぁ、ララの疑問はもっともか。実際、こんな質問されたら誰だって戸惑うだろうし。

「今から大将がテソーロのギルドに行って、お話してきてくれるって予定だったですよ」
「あぁ……そうだったな」

 出戻り地点はここか。まずは予定通り、ギルドに行って、ガストンさんに話をつけてこよう。
「じゃあ、みんなはここで待っててくれ。夕方までには戻るからさ」
「うむ、承知した。儂らは吉報を待つことにしよう」
「では、行ってきます!」



 前回と同じようにギルドへ向かい、ガストンさんとベリアさんを探す。
 やっぱり——ふたりとも、前と同じ場所で話し込んでいた。
「あっ、桃太郎さん! 無事に戻ってきたんですね!」
「はい、何とか。すみません、お話中でしたよね?」

「ちょうどあなたのことを話していたんです! ご紹介しますね。こちら、ギルドマスターのガストンさんです」
「君が、桃くんか~。よろしくな~」
「よ、よろしくお願いします」

 会話の内容まで、前回とまったく同じ。不思議な感覚だ……。
 俺は前回同様、ガストンさんに事情を説明した。ただし、今回はあることを付け加える。
「ガストンさん、近衛騎士団のエスピアという方はご存じですか?」

「エスピア——あぁ、いつも暗い顔をしてる男がそんな名だったような……。そいつがどうかしたのか?」
 なるべく前回の出来事には触れずに、俺は話を進めた。

「はい。その方にも、話し合いの場に居ていただけたらと考えまして。騎士団のお偉いさんが加わってくれれば、交渉も捗るかと思いまして」
「なるほど……。ちょっと待ってな。ちょっくら探してきてやるよ」
「お願いします!」



 待つこと、一時間——
「おー、待たせてすまん。この時間は非番だったみたいで、探すのに手こずっちまった。彼が、近衛騎士団のエスピアだ」

「エスピアと申します。……あなたとは初対面のはずですが、なぜ私の名をご存じで?」
 つい数時間前に、あなたに殺されたんですよ~……なんて言える訳がなかった。
 今もその時のことを思い出し、背中がズキズキと疼いている。

「あぁ~、ええっと……何と言いますか……騎士団の中でも、特に情報通な方だとお聞きしまして……。テソーロの街の発展にご助力いただけるかと期待して、お声をかけました」

 我ながら、よくもこんな饒舌に嘘を重ねられるもんだ……。そんな自分に少し嫌気がさした。
「なるほど、そういうことでしたか。話はガストン卿から伺っております。大変興味深い内容でした。では、例のものを頂きましょうか」

 例のものって……ああ、賄賂か。どこの世界でも、政治的なことには賄賂が必要なんだな……。
 コボルトたちはジャバリの骨なんかで喜んでもらえたけど、ここはやっぱりお金だろうな——

「あの~、今はこれだけしかないんですが……足りますかね?」
「……なんのおつもりですか? 私を密偵部隊長と知っての所業ですか?」
 うわっ、足りなかったか⁉ 先にブラックホーンディアの魔含を換金しておくんだった……。

「これは立派な贈収賄現場です。この場で斬り刻まれたいのですか?」
「あー、待て待てエスピア! ギルド内での争いごとは禁忌だぜ。桃くんは、何か勘違いをしておるようだな。エスピアが言っているのは、そんなはした金じゃなくて、君の臓器をいくつか——」

 ひぃぃぃー! この世界にはそんな恐ろしい規律があんのかよ……。
 たしか腎臓って、一個なくなっても生きていけるとか聞いたことが——

「なに悪ふざけを言っているんですか、ガストンさん‼ 桃太郎さんが本気にして、ブルブル震えてちゃってるじゃないですか! 桃太郎さんも、ちょっとは考えて下さい! エスピアさんが言っているのは、きびだんごのことでしょうに……全く」

「「す、すみません」」
 ベリアさんに、鬼の形相で怒られた俺とガストンさんは、深々と頭を下げた。
 なぜか隣のエスピアさんまで、バツが悪そうに俺たちに倣って頭を下げた。

「そうでしたね……。では、ご賞味ください。味には自信がありますので」
 ガストンさんが「美味いな!」と笑顔でほおばるのを見て、エスピアさんもようやく、きびだんごを口にしてくれた
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