28 / 73
贈収賄現場
しおりを挟む
「——将? 大将! おーい、大将ーっ‼」
「うわぁ! な、何だよ、ララ⁉」
ララが突然、俺の顔の前で大きく手を振ってきたので、思わず後ずさる。
「何だよ。じゃないですよ、大将! さっきからボーっとしっぱなしです。どうしたです?」
それを聞き、ようやく数分前の記憶が蘇る——本当に、生きて戻ってきた……。
今はどの地点だろう? まずは確認しないと。
「なぁララ、ちょっと変な質問かもしれないけど……俺、次に何する予定だったっけ?」
「……本当にどうしたです? 頭でも悪くなったですか?」
そこは「頭でも打ったですか?」にしておこうね~。……まぁ、ララの疑問はもっともか。実際、こんな質問されたら誰だって戸惑うだろうし。
「今から大将がテソーロのギルドに行って、お話してきてくれるって予定だったですよ」
「あぁ……そうだったな」
出戻り地点はここか。まずは予定通り、ギルドに行って、ガストンさんに話をつけてこよう。
「じゃあ、みんなはここで待っててくれ。夕方までには戻るからさ」
「うむ、承知した。儂らは吉報を待つことにしよう」
「では、行ってきます!」
前回と同じようにギルドへ向かい、ガストンさんとベリアさんを探す。
やっぱり——ふたりとも、前と同じ場所で話し込んでいた。
「あっ、桃太郎さん! 無事に戻ってきたんですね!」
「はい、何とか。すみません、お話中でしたよね?」
「ちょうどあなたのことを話していたんです! ご紹介しますね。こちら、ギルドマスターのガストンさんです」
「君が、桃くんか~。よろしくな~」
「よ、よろしくお願いします」
会話の内容まで、前回とまったく同じ。不思議な感覚だ……。
俺は前回同様、ガストンさんに事情を説明した。ただし、今回はあることを付け加える。
「ガストンさん、近衛騎士団のエスピアという方はご存じですか?」
「エスピア——あぁ、いつも暗い顔をしてる男がそんな名だったような……。そいつがどうかしたのか?」
なるべく前回の出来事には触れずに、俺は話を進めた。
「はい。その方にも、話し合いの場に居ていただけたらと考えまして。騎士団のお偉いさんが加わってくれれば、交渉も捗るかと思いまして」
「なるほど……。ちょっと待ってな。ちょっくら探してきてやるよ」
「お願いします!」
待つこと、一時間——
「おー、待たせてすまん。この時間は非番だったみたいで、探すのに手こずっちまった。彼が、近衛騎士団のエスピアだ」
「エスピアと申します。……あなたとは初対面のはずですが、なぜ私の名をご存じで?」
つい数時間前に、あなたに殺されたんですよ~……なんて言える訳がなかった。
今もその時のことを思い出し、背中がズキズキと疼いている。
「あぁ~、ええっと……何と言いますか……騎士団の中でも、特に情報通な方だとお聞きしまして……。テソーロの街の発展にご助力いただけるかと期待して、お声をかけました」
我ながら、よくもこんな饒舌に嘘を重ねられるもんだ……。そんな自分に少し嫌気がさした。
「なるほど、そういうことでしたか。話はガストン卿から伺っております。大変興味深い内容でした。では、例のものを頂きましょうか」
例のものって……ああ、賄賂か。どこの世界でも、政治的なことには賄賂が必要なんだな……。
コボルトたちはジャバリの骨なんかで喜んでもらえたけど、ここはやっぱりお金だろうな——
「あの~、今はこれだけしかないんですが……足りますかね?」
「……なんのおつもりですか? 私を密偵部隊長と知っての所業ですか?」
うわっ、足りなかったか⁉ 先にブラックホーンディアの魔含を換金しておくんだった……。
「これは立派な贈収賄現場です。この場で斬り刻まれたいのですか?」
「あー、待て待てエスピア! ギルド内での争いごとは禁忌だぜ。桃くんは、何か勘違いをしておるようだな。エスピアが言っているのは、そんなはした金じゃなくて、君の臓器をいくつか——」
ひぃぃぃー! この世界にはそんな恐ろしい規律があんのかよ……。
たしか腎臓って、一個なくなっても生きていけるとか聞いたことが——
「なに悪ふざけを言っているんですか、ガストンさん‼ 桃太郎さんが本気にして、ブルブル震えてちゃってるじゃないですか! 桃太郎さんも、ちょっとは考えて下さい! エスピアさんが言っているのは、きびだんごのことでしょうに……全く」
「「す、すみません」」
ベリアさんに、鬼の形相で怒られた俺とガストンさんは、深々と頭を下げた。
なぜか隣のエスピアさんまで、バツが悪そうに俺たちに倣って頭を下げた。
「そうでしたね……。では、ご賞味ください。味には自信がありますので」
ガストンさんが「美味いな!」と笑顔でほおばるのを見て、エスピアさんもようやく、きびだんごを口にしてくれた
「うわぁ! な、何だよ、ララ⁉」
ララが突然、俺の顔の前で大きく手を振ってきたので、思わず後ずさる。
「何だよ。じゃないですよ、大将! さっきからボーっとしっぱなしです。どうしたです?」
それを聞き、ようやく数分前の記憶が蘇る——本当に、生きて戻ってきた……。
今はどの地点だろう? まずは確認しないと。
「なぁララ、ちょっと変な質問かもしれないけど……俺、次に何する予定だったっけ?」
「……本当にどうしたです? 頭でも悪くなったですか?」
そこは「頭でも打ったですか?」にしておこうね~。……まぁ、ララの疑問はもっともか。実際、こんな質問されたら誰だって戸惑うだろうし。
「今から大将がテソーロのギルドに行って、お話してきてくれるって予定だったですよ」
「あぁ……そうだったな」
出戻り地点はここか。まずは予定通り、ギルドに行って、ガストンさんに話をつけてこよう。
「じゃあ、みんなはここで待っててくれ。夕方までには戻るからさ」
「うむ、承知した。儂らは吉報を待つことにしよう」
「では、行ってきます!」
前回と同じようにギルドへ向かい、ガストンさんとベリアさんを探す。
やっぱり——ふたりとも、前と同じ場所で話し込んでいた。
「あっ、桃太郎さん! 無事に戻ってきたんですね!」
「はい、何とか。すみません、お話中でしたよね?」
「ちょうどあなたのことを話していたんです! ご紹介しますね。こちら、ギルドマスターのガストンさんです」
「君が、桃くんか~。よろしくな~」
「よ、よろしくお願いします」
会話の内容まで、前回とまったく同じ。不思議な感覚だ……。
俺は前回同様、ガストンさんに事情を説明した。ただし、今回はあることを付け加える。
「ガストンさん、近衛騎士団のエスピアという方はご存じですか?」
「エスピア——あぁ、いつも暗い顔をしてる男がそんな名だったような……。そいつがどうかしたのか?」
なるべく前回の出来事には触れずに、俺は話を進めた。
「はい。その方にも、話し合いの場に居ていただけたらと考えまして。騎士団のお偉いさんが加わってくれれば、交渉も捗るかと思いまして」
「なるほど……。ちょっと待ってな。ちょっくら探してきてやるよ」
「お願いします!」
待つこと、一時間——
「おー、待たせてすまん。この時間は非番だったみたいで、探すのに手こずっちまった。彼が、近衛騎士団のエスピアだ」
「エスピアと申します。……あなたとは初対面のはずですが、なぜ私の名をご存じで?」
つい数時間前に、あなたに殺されたんですよ~……なんて言える訳がなかった。
今もその時のことを思い出し、背中がズキズキと疼いている。
「あぁ~、ええっと……何と言いますか……騎士団の中でも、特に情報通な方だとお聞きしまして……。テソーロの街の発展にご助力いただけるかと期待して、お声をかけました」
我ながら、よくもこんな饒舌に嘘を重ねられるもんだ……。そんな自分に少し嫌気がさした。
「なるほど、そういうことでしたか。話はガストン卿から伺っております。大変興味深い内容でした。では、例のものを頂きましょうか」
例のものって……ああ、賄賂か。どこの世界でも、政治的なことには賄賂が必要なんだな……。
コボルトたちはジャバリの骨なんかで喜んでもらえたけど、ここはやっぱりお金だろうな——
「あの~、今はこれだけしかないんですが……足りますかね?」
「……なんのおつもりですか? 私を密偵部隊長と知っての所業ですか?」
うわっ、足りなかったか⁉ 先にブラックホーンディアの魔含を換金しておくんだった……。
「これは立派な贈収賄現場です。この場で斬り刻まれたいのですか?」
「あー、待て待てエスピア! ギルド内での争いごとは禁忌だぜ。桃くんは、何か勘違いをしておるようだな。エスピアが言っているのは、そんなはした金じゃなくて、君の臓器をいくつか——」
ひぃぃぃー! この世界にはそんな恐ろしい規律があんのかよ……。
たしか腎臓って、一個なくなっても生きていけるとか聞いたことが——
「なに悪ふざけを言っているんですか、ガストンさん‼ 桃太郎さんが本気にして、ブルブル震えてちゃってるじゃないですか! 桃太郎さんも、ちょっとは考えて下さい! エスピアさんが言っているのは、きびだんごのことでしょうに……全く」
「「す、すみません」」
ベリアさんに、鬼の形相で怒られた俺とガストンさんは、深々と頭を下げた。
なぜか隣のエスピアさんまで、バツが悪そうに俺たちに倣って頭を下げた。
「そうでしたね……。では、ご賞味ください。味には自信がありますので」
ガストンさんが「美味いな!」と笑顔でほおばるのを見て、エスピアさんもようやく、きびだんごを口にしてくれた
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる