桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

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今度・今回・前回は

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 前回と同じく、話し合いは零時にガストンさんの屋敷で行われることになった。
「では、また今夜よろしくお願いします」
「うむ、約束の時間に西門で待っている。くれぐれも慎重にな」
「はい!」


 二度目の話し合いを終え、俺はララ達への食事を買いに、屋台街へと足を運んだ。
 今回はララからお叱りを受けないよう、女子ウケのよさそうな、フルーツポンチという甘味も忘れず買っておいた。


「みんなお待たせ! ちょっと前回より戻ってくるのが遅くなっちゃったよ」
「大将、おかえりなさいで……ん? 前回ってなんのことです?」
「あっ、いや、なんでもないよ(やべぇ、つい口滑らせちまった……気をつけないと)」

「ま、何でもいいですけど。それより大将~、お腹がすいたです~」
「そ、そうだったな。ご飯買ってきたから、みんなで食べよう」
「やったー! 何を買ってきてくれたんです?」
 俺はサンドイッチをララに、骨付き肉をコボルトのみんなに配った。

 すると、ララが「アテナお姉ちゃんにも、この肉を齧り付けと……」と言いだした。
チッチッチ。今回の俺は前回とは違うぜ、ララさんよぉ!
「そう言うと思って、今度はフルーツポンチってのも買ってきたぞ」

「うわぁ~、美味しそうです! それに見た目も可愛いー!」
 そうだろう、そうだろう~。その反応に、俺はご満悦になる。
「大将にしては、気が利きますね~。アテナお姉ちゃん、一緒に食べましょです~」
「ほんと、美味しそうだね! ありがとうございます、桃太郎さん!」

 なんか余分な一言があった気もするが……これはモテ度急上昇なんじゃねぇか⁉︎ ほんと、やり直せて良かったわ~。
 ……って、浮かれてる場合じゃねぇだろ俺!
 でもまぁ、女性に喜んでもらえるのは、やっぱ悪い気はしないな——ふふっ。

「ところで桃太郎さん?」
「なんです? アテナさん」
「さっきっておっしゃっていましたが、あれはどういう意味ですか?」

「……へ? あ、あぁ~。あれです、あれ! ララと『今度食べような~』って言ってたので、そのですよ」
「——ララ、そんなお話した覚えないです」
「あ……あれれ~、おかしいなぁ~?」

「大将……どこの馬の骨とそんな話を——」
 その言葉を耳にし、ティガが急に話に割り込んできた。
「馬の骨! どこっす? どこにあるっす⁉」

「ティ、ティガ、落ち着いて! 馬の骨なんてないから! その骨付き肉だけで十分だろ~」
 晩餐の中繰り広げられる談笑に、皆の表情がほころんだ。
 すまん、ティガ……めっちゃ助かった! いつか必ずお返しするからな。



 食後に少し休憩を挟んでから、俺たちは予定通り西門に到着した。
 今回は前と違って、ガストンさんの横にいるのはベリアさんではなく、エスピアさんだった。
「よお、時間ぴったしだな。後ろのが、例の奴らだな?」

「はい。よろしくお願いします」
「あぁ、では行こうか」
 俺たちは、ガストンさんを先頭に、北側の居住区へと向かった。
「みんな、外套はお屋敷に入るまで絶対取らないようにね」
「はーいです」


 忠告どおり、全員が屋敷に入ってもまだ外套を着用し続けている。どこで誰に見られてるかもわからないしな。
 今回は前回の二の舞にならないよう祈るしかない。
「ようこそ、我が屋敷へ。では、大広間で話をしよう。こっちだ」
 ガストンさんに案内されながら進むと、アビフ様がマジックアイテムの並ぶ棚の前で立ち止まった。

「ふむ……この妙な箱や壺は、一体なんじゃろうな?」
 その問いに、俺が答えた。
「それらは、マジックアイテムです。こっちがアイテムボックスで、これがデュ、デュプ……なんちゃら、です。中に入れた物を、何個も複製できるらしいですよ」

「これはデュプリケーターって言うんだ。どっちもチョー高級品だぜ! にしても、よくこんな珍品の名前を知ってたなぁ!」
 あ、ヤバ……。調子に乗って、ついさっき知ったばかりの知識をひけらかしてしまった。

「あ、あぁ~いやぁ、俺もそういう珍しいものに興味がありまして……。い、いいですよね~、ロマンがあって~、あははは」
「おっ、分かる口じゃねーか、桃くん! 別の部屋に、俺のコレクションがあるんだけど、見ていくか?」

 その提案に、アビフ様が食いつく。
「そ、そのコレクションとやら……わ、わしも見てみたいんじゃが……ぜひ——」
「お父様ぁ~! 楽しそうで何よりですわ~。ですが、私たちはそんなことをしにここまで来たのではないのですよ~。当然、分かっておられますよねぇ~?」

 このやりとり……さっきと同じ……。やっぱり過去は変えられないのか⁉
 そう思った時だった——
「な……なんてことだっ‼」
 声の主は、エスピアさんだった。アビフ様に一喝を入れた反動で、アテナさんの外套が脱げ、彼女の顔が露わになったのだ。

 マズい! 俺は、咄嗟に身構えた——が。
「な……なんて見目麗しいんだ‼」
 ——えっ?
「あ、あなたは、本当にま、魔獣なの……ですか?」

「私は、魔獣ではありません。コボルトという種族です! 申し遅れました、私はアテナと申します」
「アテナ……。あなたに相応しい、美しいお名前だ」
 エスピアさんの言葉に、アテナさんの頬が染まる。

「わ、私なんて、そ、そんな……ですぅ~」
「魔獣——いや失礼、コボルトにも、あなたのようなお美しい淑女がいらっしゃるとは思ってもみませんでした」
 そう言ってエスピアさんは、アテナの手を取り膝をついた。
 それを様子を見たアビフ様が、ボアーズとヤーキンへ指令を出した。

「おい、ボアーズ、ヤーキン。あいつをヤレ!」
「「はっ‼」」
「あー、待った待ったー! 暴力はダメですよ、暴力はー‼ ここまでの努力が台無しになっちゃいますよ!」

 せっかく過去が改変されたと胸をなで下ろしていた矢先、別の血が流れそうになり、俺は必死に止めにかかった。
「エスピアさん、手を放してください! アテナさんは、こちらにいらっしゃるアビフ様のご令嬢です。親御さんの前でそういうのは……ね」

「おっと、これは失礼いたしました。お父様、ご無礼をお許しくださいませ」
「だ~れがお父様じゃ! お主にそう呼ばれる筋合いはない!」
「まぁまぁ落ち着いて下さい、アビフ様。ひとまず広間へ向かいましょう」
 俺はアビフ様を落ち着かせ、背中を押しながら広間へと向かった。

「ささ、広間はこっちです。早く行きますよー」
 だが俺は、また一つの過ちを犯していることにまだ気づいていなかった。ガストンさんに指摘されるまでは——
「おい、桃くん。なぜ広間がそっちだと知っているんだ?」

 しまった‼ 事を穏便に済ませようと焦るばかりに、余計なところでまたボロが出た。
「あ、えっと……その……。ベ、ベリアさんから聞いてあったんです!」
 我ながら苦しい言い訳だと思いつつも、申し訳ないがベリアさんの名を使わせてもらった。

「……あぁ、そういうことか。あいつは何でもすぐ話しやがるからなぁ。まったく、困った奴だぜ」
 ——すみません、ベリアさん。今度何か美味しい物でもご馳走しますね……。
 勝手に貸しを作りまくる俺だった。


 ***
 その頃、ベリアは自室で日課の読書中。すると、突然鼻がムズムズしだした。
「ヘ、ヘクチュン! ……風邪でも引いちゃったかしら? 明日に備えて、今日はもう寝よっかな」
 あらぬ風評被害のやり玉になっているとも露知らず、ベリアはひとりつぶやくのだった。
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