48 / 73
始動……
しおりを挟む
宴もたけなわとなった頃、ガストンさんがみなの注目を集めるために大きな声を上げた。
「おーい。盛り上がってるとこ悪いが、ちょっと聞いてくれ。今日のメーンイベントと言ってもいいもんをこれから配っていくぞー」
その言葉を合図に、俺とララ、チャットさんやレイラさんたちで手分けして、参加者たちに、例のアレを配っていく。
「みんな行き届いたか? これが、例の——きびだんごもどきだ。もどきといっても、効果は実証済みだ。もちろん味も保証するぜ。優しい甘味があるから、デザート感覚でパクッといってくれ!」
初めて見る形状をした食べ物に、躊躇する人も散見された。
だが——
「なにコレ、美味し~い‼」
一人の女性冒険者がそう叫ぶと、場の空気が一気に変わった。途端に「うまっ!」「これ、もっと欲しいな」などの声が飛び交い、みなこぞってだんごを口に運び始めた。
ひとしきり食べ終えたところで、一人の男が声を上げる。
「なぁ、ギルマス。確かにうまかったけどよ、どうやってこのだんごの効果とやらを証明したんだ?」
彼は、名をフィンというらしい。見た目も言動も頼れる雰囲気をまとっている。
「そ、それはだな……」
なぜかガストンさんは、ヴェルディのことを言おうとしない。どうしたんだろうかと、小声で尋ねてみる。
「どうしたんです、ガストンさん? 俺がヴェルディ、連れてきましょうか?」
「やめとけやめとけ~。あいつをここに連れてきたら、こいつらの前で何言い出すか分かったもんじゃねぇ……。俺にも、ちったぁ面子ってもんがあんだよ。分かるだろ?」
言われて納得。ギルドマスターが、メイド長に日々の怠惰を叱られていることなど、冒険者たちに知られてはいけない。彼らも、ギルマスのそんな裏の顔、知りたくもないだろうしな……。
結局、ガストンさんはこの場で効果の証明はできないと謝罪した上で、意思疎通を深める意味も兼ね、作戦実行の前日にコボルトたちとの懇親会を開くことを提案した。参加者たちもこれに同意し、今日の宴は名残惜しくもお開きとなった。
共闘会議から九日後の朝。俺はギルドへと足を運んだ。
今日は、緊急クエストのために召集された冒険者たちと、救護係、そしてエスピアさん率いる近衛騎士団が顔をそろえる日だ。
今日までに、コボルト用のきびだんごもどきもしっかりと用意してある。
ちなみに、近衛騎士団の面々には、コボルト集落の視察から戻ってきた日に食べてもらっている。あとは、順調にことが運ぶことを祈るばかりだ。
ギルドに到着すると、ベリアさんがすぐに俺たちを見つけ、笑顔で出迎えてくれた。
「おはようございます、桃太郎さんにララちゃん。皆さんもうおそろいですよ。こちらへどうぞ」
案内された扉の先には、装備を整えた冒険者たちがずらりと並んでいた。部屋の隅には、黒装束のエスピアさん率いる近衛騎士団の姿も見える。——なんだか緊張してきた……。
俺の到着を確認すると、ガストンさんが声を上げた。
「よーし、全員そろったな! 改めて、集まってくれてありがとう。ギルドマスターとして、心から礼を言う」
一呼吸置いて、続ける。
「本来なら出発は明日の予定だったが、コボルトたちとの懇親会を開くため、一日前倒しで移動することにした。道中の案内は近衛騎士団のエスピアに任せたいと思う。エスピア、壇上へ!」
名を呼ばれたエスピアさんが前に出る。
「おはようございます。私は近衛騎士団団長、エスピアと申します。目的地であるコボルト集落へは、西の森を通って向かいます。道中では、熊や鹿などの野生動物に加え、いくつかの魔物の存在も確認されています。何か異常を感じた場合は、速やかに報告してください」
そのとき、フィンが手を挙げて質問した。
「その確認されたって魔物は、具体的には?」
「ファングボアが二頭、ホーンラビットが五羽、マッドラットが十匹ほどです」
「弱っちいのばっかだな。これだけの冒険者が揃ってりゃ、問題ないね!」
場のあちこちから、同じような余裕の笑みが浮かぶ。
実際、これだけの数がいれば、俺の出番は無いに等しいだろう。絶対この中で俺が一番弱いだろうしな。
エスピアさんが軽く咳払いし、話を続けた。
「んんっ……油断は禁物です。森の深部に入るにつれ、魔物の数は確実に増えています。今回は『掃討』が目的。くれぐれも油断なさらぬよう、お願いします」
そう言ってエスピアさんは一礼し、元の位置へと戻っていった。
「エスピアの言う通りだ。クエストは成功してナンボだが、俺としてはここにいる全員が、無事に戻ってくることを最優先としたい。……いいな⁉」
「おー‼」
全員の声が、ひとつに揃った。
いよいよ——人とコボルトの、未来をかけた大きな第一歩が始動する。
「おーい。盛り上がってるとこ悪いが、ちょっと聞いてくれ。今日のメーンイベントと言ってもいいもんをこれから配っていくぞー」
その言葉を合図に、俺とララ、チャットさんやレイラさんたちで手分けして、参加者たちに、例のアレを配っていく。
「みんな行き届いたか? これが、例の——きびだんごもどきだ。もどきといっても、効果は実証済みだ。もちろん味も保証するぜ。優しい甘味があるから、デザート感覚でパクッといってくれ!」
初めて見る形状をした食べ物に、躊躇する人も散見された。
だが——
「なにコレ、美味し~い‼」
一人の女性冒険者がそう叫ぶと、場の空気が一気に変わった。途端に「うまっ!」「これ、もっと欲しいな」などの声が飛び交い、みなこぞってだんごを口に運び始めた。
ひとしきり食べ終えたところで、一人の男が声を上げる。
「なぁ、ギルマス。確かにうまかったけどよ、どうやってこのだんごの効果とやらを証明したんだ?」
彼は、名をフィンというらしい。見た目も言動も頼れる雰囲気をまとっている。
「そ、それはだな……」
なぜかガストンさんは、ヴェルディのことを言おうとしない。どうしたんだろうかと、小声で尋ねてみる。
「どうしたんです、ガストンさん? 俺がヴェルディ、連れてきましょうか?」
「やめとけやめとけ~。あいつをここに連れてきたら、こいつらの前で何言い出すか分かったもんじゃねぇ……。俺にも、ちったぁ面子ってもんがあんだよ。分かるだろ?」
言われて納得。ギルドマスターが、メイド長に日々の怠惰を叱られていることなど、冒険者たちに知られてはいけない。彼らも、ギルマスのそんな裏の顔、知りたくもないだろうしな……。
結局、ガストンさんはこの場で効果の証明はできないと謝罪した上で、意思疎通を深める意味も兼ね、作戦実行の前日にコボルトたちとの懇親会を開くことを提案した。参加者たちもこれに同意し、今日の宴は名残惜しくもお開きとなった。
共闘会議から九日後の朝。俺はギルドへと足を運んだ。
今日は、緊急クエストのために召集された冒険者たちと、救護係、そしてエスピアさん率いる近衛騎士団が顔をそろえる日だ。
今日までに、コボルト用のきびだんごもどきもしっかりと用意してある。
ちなみに、近衛騎士団の面々には、コボルト集落の視察から戻ってきた日に食べてもらっている。あとは、順調にことが運ぶことを祈るばかりだ。
ギルドに到着すると、ベリアさんがすぐに俺たちを見つけ、笑顔で出迎えてくれた。
「おはようございます、桃太郎さんにララちゃん。皆さんもうおそろいですよ。こちらへどうぞ」
案内された扉の先には、装備を整えた冒険者たちがずらりと並んでいた。部屋の隅には、黒装束のエスピアさん率いる近衛騎士団の姿も見える。——なんだか緊張してきた……。
俺の到着を確認すると、ガストンさんが声を上げた。
「よーし、全員そろったな! 改めて、集まってくれてありがとう。ギルドマスターとして、心から礼を言う」
一呼吸置いて、続ける。
「本来なら出発は明日の予定だったが、コボルトたちとの懇親会を開くため、一日前倒しで移動することにした。道中の案内は近衛騎士団のエスピアに任せたいと思う。エスピア、壇上へ!」
名を呼ばれたエスピアさんが前に出る。
「おはようございます。私は近衛騎士団団長、エスピアと申します。目的地であるコボルト集落へは、西の森を通って向かいます。道中では、熊や鹿などの野生動物に加え、いくつかの魔物の存在も確認されています。何か異常を感じた場合は、速やかに報告してください」
そのとき、フィンが手を挙げて質問した。
「その確認されたって魔物は、具体的には?」
「ファングボアが二頭、ホーンラビットが五羽、マッドラットが十匹ほどです」
「弱っちいのばっかだな。これだけの冒険者が揃ってりゃ、問題ないね!」
場のあちこちから、同じような余裕の笑みが浮かぶ。
実際、これだけの数がいれば、俺の出番は無いに等しいだろう。絶対この中で俺が一番弱いだろうしな。
エスピアさんが軽く咳払いし、話を続けた。
「んんっ……油断は禁物です。森の深部に入るにつれ、魔物の数は確実に増えています。今回は『掃討』が目的。くれぐれも油断なさらぬよう、お願いします」
そう言ってエスピアさんは一礼し、元の位置へと戻っていった。
「エスピアの言う通りだ。クエストは成功してナンボだが、俺としてはここにいる全員が、無事に戻ってくることを最優先としたい。……いいな⁉」
「おー‼」
全員の声が、ひとつに揃った。
いよいよ——人とコボルトの、未来をかけた大きな第一歩が始動する。
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる