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戦争レベル
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当然のことながら、ここから先の展開は未知数だ。洞窟の中に、一体何が潜んでいるというのだろうか
「俺が中を見てきてやる」
そう言ったのは、陽動でも活躍したヴェルディだった。彼を連れてきた判断は、やはり正しかった。さすがギルマス、といったところか。
颯爽と洞窟内へと向かい羽ばたくヴェルディに、心の中で「無事に帰ってきてくれよ……」と祈る。
その祈りが通じたのか、ものの数十秒でヴェルディが戻ってきた。異様なまでに早い帰還に、ガストンが心配そうに声をかける。
「ど、どうしたヴェルディ⁉ まさか、まだ魔物が……⁉」
「いや……何も見えん」
「魔物の姿はなかったということか?」
「いや……真っ暗で何も見えん。俺、鳥だから、暗いとこ苦手だったわ」
(ガクッ‼)
なるほど、鳥目か……。明るい場所からいきなり真っ暗な洞窟に突っ込んでも、そりゃ何も見えないか。
「では、私が代わりに行きましょう。夜目には自信がありますので」
そう申し出たのは、エスピアだった。
「悪いが、頼めるか? うちの鳥野郎が役に立たなくて申し訳ない」
「聞き捨てならーん!」
そう叫んだヴェルディが、ガストンの頭に嘴を突き立てる勢いで襲いかかる。
「うるせぇな、ガストン! 俺は俺なりに全力でやってんだ!」
その通りだと思い、俺もヴェルディを庇って声を上げる。
「そうですよ、ガストンさん。ヴェルディに謝ってください」
「痛ってなぁ~。なんだよ二人して……。わ、悪かったよ、ヴェルディ」
「ママハ、ウィルチャンノミカタヨー、ヨシヨシ~」
……ウィルちゃん⁉
どうやら、ガストンさんの母上——マミーさんは、彼のことをそう呼んでいるらしい。
「おまっ⁉ なんでこのタイミングで、マミ……じゃなくて、母の声真似すんだよ!」
「ナッハッハー。ナッハッハー」
ガストンの頭上を、楽しげに旋回するヴェルディ。それを捕まえようと必死になるギルマスの姿に、周囲の冒険者たちや、コボルトたちからも、大爆笑が巻き起こった。
戦場に、束の間の和やかな空気が流れた。
それにしても、ヴェルディがマミーさんの声真似をするってことは……マミーさんとは、ちょくちょくガストンさんと会ってるってことだよな?
お父様が領主様だから、普段あまり喋る機会がないって言ってたから、ご家族とは疎遠なんだと思っていたが……家族にも、それぞれの関わり方があるってことかな。
再び、気を引き締めなおした俺たちは、エスピアさんに偵察係をお願いし、洞窟の外で待機することにした。
「では、行って参ります。何かあれば、閃光弾を投げますので、その際は援護をお願いします」
エスピアさんが洞窟に入って十分以上たった——と思ったが、実際は数分しか経っていなかった。何が起こるかわからないという不安と緊張が、俺の時間感覚を狂わせていたのだろう。
やがて、エスピアが無事に戻ってきた。
「おい、どうだった? 中の様子は?」
ガストンが、食い気味に問いかける。
「魔物は、先ほど出てきた個体で全てのようです。ただし——奥にいるアレを除いて、ですが」
「奥にいる……アレ?」
「はい。洞窟の最深部に、広い空間がありました。そこに……見たこともないような巨大な魔物がいます!」
「お前ほどの手練れでも、見たことがないと……⁉」
「正直申しまして、あれは……騎士団を総動員して勝てるかどうかのレベルです」
近衛騎士団長の言葉だ……そこに、噓偽りなど皆無だろう。さすがのAランク冒険者のフィンでさえ、その深刻度に驚きを隠し得ないという表情を浮かべている。
「噓だろ……⁉ 騎士団を総動員って……それもう戦争レベルじゃないか!」
ロイドも顔を曇らせながら口を開く。
「確かに俺らは強ぇけど……そいつは、さすがに荷が重すぎるかもだな……」
「……落ち着け!」
ガストンが皆を制すように声を張る。
「エスピア、お前の見立ては? 俺たちに勝ち目はあるのか?」
その問いに、エスピアは目を閉じ、熟考する——そして、静かに口を開いた。
「……ゼロではないでしょう。ただし、情報が決定的に不足しています。もう一度、我々近衛騎士団で偵察に向かいます。全員で、できる限りの情報を収集し、それをもとに作戦を練るべきかと」
「……ああ、そうだな。急いては事を仕損ずる、か。頼めるか?」
「承知いたしました」
魔物が恐れる魔物の偵察——命懸けの任務である。それでも、近衛騎士たちはためらわず、気高く、洞窟の奥へと進んでいった。
俺はイーリス様に祈る。
少しでも多くの手がかりを持ち帰ってくれるように。
そして——誰ひとり命を落とさぬように、と。
「俺が中を見てきてやる」
そう言ったのは、陽動でも活躍したヴェルディだった。彼を連れてきた判断は、やはり正しかった。さすがギルマス、といったところか。
颯爽と洞窟内へと向かい羽ばたくヴェルディに、心の中で「無事に帰ってきてくれよ……」と祈る。
その祈りが通じたのか、ものの数十秒でヴェルディが戻ってきた。異様なまでに早い帰還に、ガストンが心配そうに声をかける。
「ど、どうしたヴェルディ⁉ まさか、まだ魔物が……⁉」
「いや……何も見えん」
「魔物の姿はなかったということか?」
「いや……真っ暗で何も見えん。俺、鳥だから、暗いとこ苦手だったわ」
(ガクッ‼)
なるほど、鳥目か……。明るい場所からいきなり真っ暗な洞窟に突っ込んでも、そりゃ何も見えないか。
「では、私が代わりに行きましょう。夜目には自信がありますので」
そう申し出たのは、エスピアだった。
「悪いが、頼めるか? うちの鳥野郎が役に立たなくて申し訳ない」
「聞き捨てならーん!」
そう叫んだヴェルディが、ガストンの頭に嘴を突き立てる勢いで襲いかかる。
「うるせぇな、ガストン! 俺は俺なりに全力でやってんだ!」
その通りだと思い、俺もヴェルディを庇って声を上げる。
「そうですよ、ガストンさん。ヴェルディに謝ってください」
「痛ってなぁ~。なんだよ二人して……。わ、悪かったよ、ヴェルディ」
「ママハ、ウィルチャンノミカタヨー、ヨシヨシ~」
……ウィルちゃん⁉
どうやら、ガストンさんの母上——マミーさんは、彼のことをそう呼んでいるらしい。
「おまっ⁉ なんでこのタイミングで、マミ……じゃなくて、母の声真似すんだよ!」
「ナッハッハー。ナッハッハー」
ガストンの頭上を、楽しげに旋回するヴェルディ。それを捕まえようと必死になるギルマスの姿に、周囲の冒険者たちや、コボルトたちからも、大爆笑が巻き起こった。
戦場に、束の間の和やかな空気が流れた。
それにしても、ヴェルディがマミーさんの声真似をするってことは……マミーさんとは、ちょくちょくガストンさんと会ってるってことだよな?
お父様が領主様だから、普段あまり喋る機会がないって言ってたから、ご家族とは疎遠なんだと思っていたが……家族にも、それぞれの関わり方があるってことかな。
再び、気を引き締めなおした俺たちは、エスピアさんに偵察係をお願いし、洞窟の外で待機することにした。
「では、行って参ります。何かあれば、閃光弾を投げますので、その際は援護をお願いします」
エスピアさんが洞窟に入って十分以上たった——と思ったが、実際は数分しか経っていなかった。何が起こるかわからないという不安と緊張が、俺の時間感覚を狂わせていたのだろう。
やがて、エスピアが無事に戻ってきた。
「おい、どうだった? 中の様子は?」
ガストンが、食い気味に問いかける。
「魔物は、先ほど出てきた個体で全てのようです。ただし——奥にいるアレを除いて、ですが」
「奥にいる……アレ?」
「はい。洞窟の最深部に、広い空間がありました。そこに……見たこともないような巨大な魔物がいます!」
「お前ほどの手練れでも、見たことがないと……⁉」
「正直申しまして、あれは……騎士団を総動員して勝てるかどうかのレベルです」
近衛騎士団長の言葉だ……そこに、噓偽りなど皆無だろう。さすがのAランク冒険者のフィンでさえ、その深刻度に驚きを隠し得ないという表情を浮かべている。
「噓だろ……⁉ 騎士団を総動員って……それもう戦争レベルじゃないか!」
ロイドも顔を曇らせながら口を開く。
「確かに俺らは強ぇけど……そいつは、さすがに荷が重すぎるかもだな……」
「……落ち着け!」
ガストンが皆を制すように声を張る。
「エスピア、お前の見立ては? 俺たちに勝ち目はあるのか?」
その問いに、エスピアは目を閉じ、熟考する——そして、静かに口を開いた。
「……ゼロではないでしょう。ただし、情報が決定的に不足しています。もう一度、我々近衛騎士団で偵察に向かいます。全員で、できる限りの情報を収集し、それをもとに作戦を練るべきかと」
「……ああ、そうだな。急いては事を仕損ずる、か。頼めるか?」
「承知いたしました」
魔物が恐れる魔物の偵察——命懸けの任務である。それでも、近衛騎士たちはためらわず、気高く、洞窟の奥へと進んでいった。
俺はイーリス様に祈る。
少しでも多くの手がかりを持ち帰ってくれるように。
そして——誰ひとり命を落とさぬように、と。
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