元悪役令息の僕は今世でたった一つの愛に揺れる

陽花紫

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当然の結末

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 決定的だったのは、本当に、本当に些細な出来事でもあったんだ。

「今日、サークルの飲み会があるんだ」

 昼休み、学食でカレーを食べながら、ユウトがそう言っていた。
 いつもと変わらない、何気ない口調で。
「へえ」
「写真サークルの、新歓も兼ねてるやつでさ……」

 新歓。
 その単語に、なぜだか嫌な予感がしてしまう。

「女の子も、多いんでしょ?」 
「まあ、そうだな」

 ユウトは、悪びれもせずに笑っていた。
 それが、どうしようもなく腹立たしく思えていたんだ。

 ――ああ、まただ。

 前世でも、こうやって僕の知らないところで、愛した男たちの関係は増えていた。

 知らない間に選択肢が増えて、そして最後には僕の手からこぼれ落ちていく。

「いいじゃん、楽しんできなよ」

 そう言えた僕は、少しだけ大人になれていたような気がする。
 でも、この胸の奥はぐちゃぐちゃだった。

 その日の夜、僕は久しぶりにアプリを開いていた。
 溜まっていたメッセージに適当に返事をして、会おうという誘いに、反射的に頷いた。

 ――もう、誰でもいい。

 そのような考えが浮かぶ時点で、終わっていた。

 出会った相手は、そこまで悪くはなかった。
 話も合ったし、顔だって僕の好みの部類だったと思うんだ。
 でも、夜の街中で抱きしめ合ったその時に、ふと、ユウトの笑った顔が頭をよぎる。

 途端に僕は、気持ち悪くなっていた。

「……ごめん。今日は、無理……」

 相手が怪訝そうな顔をするのも構わずに、僕はその場から駆け出した。

 夜風が、やけに冷たかった。

 ――こんなこと、前世では一度もなかったのに。

 部屋に戻っても、なかなか眠りにつくことができなかった。

 ユウトのことが、やけに気になる。
 今頃、誰かと笑っているのだろうか。もしかしたら、女子に好意を向けられているのではないのだろうか。
 スマホを握りしめたまま、気づけば僕はユウトにメッセージを送っていた。

『今どこ?』

 すぐに返事がきた。

『二次会。もうすぐ終わるけど』

 胸が、どくりと鳴った。

『会えない?』

 しばらくして、既読がつく。
 その数秒が、やけに長く感じられた。

『今から?』

『うん』

『いいよ、少しだけなら』

***

 コンビニ前で待っていると、少しの酒の匂いを纏って頬を赤くしたユウトが現れた。

「……ごめん、待たせた?」
「ううん」

 街灯の下で見るユウトは、いつもより無防備であるかのようにも見えていた。

「で、どうしたんだ?こんな時間に」
「……なんとなく」

 その言葉に、これまで溜め込んできた全部が詰まっていた。

 少し歩いて、僕たちは川沿いの道のほうまで出ていた。
 夜風が強くて、ユウトの髪が揺れていた。

「リオ」

 突然ユウトが、立ち止まる。

「もしかして最近、元気ない……?」

――ああ、ダメだ。

 その優しい一言で、僕の中の何かが切れた。

「ユウトはさ、その……。僕のこと、どう思ってる?」

 自分でも驚くくらい、この声は冷静で。

「どうって……。なんだよ、友達だろう?」

 返事は、即答だった。
 胸の奥で、何かが音を立てて崩れていく。

「僕は、違う」
「……えっ?」
「友達とか、そういうのじゃ足りないんだ」

 言ってしまったんだ。
 最悪のタイミングで、最悪の言葉を。

 ユウトは、目を見開いて黙り込む。
 それでも僕は、やりきれなくて伝えてしまったんだ。この気持ちを、この想いを。

「僕、ユウトのことが好きなんだ」

 その夜の静けさが、やけに残酷であるように思えていた。

 しばらくして、ユウトは困ったように眉を下げて笑っていた。

「リオのことは、大切だよ。でも……、ごめん」

 その言葉だけで、充分だった。
 当然の結末だと、思っていた。

「俺、今まで男を恋愛対象として考えたことがなくてさ……」

「……そっか……」

 予想通りの、答えだった。
 わかっていた。わかっていたはずなのに。
 それ以上、何も言うことができなかった。

 前世なら、ここで縋っていたのかもしれない。
 抱きついて、泣いきついて、相手が折れるまで僕は離さなかったのかもしれない。

 でも今は、そのようなことはできなかった。

「ごめん。言わなきゃよかったな……」
「リオ……」
「ごめん、忘れて」

 自分の言葉に、自分が一番傷ついた。

「今日は、もう帰るよ……」

 そう言って背を向けた瞬間、ユウトが何か言いかけたような気配がしたけれど、僕は決して振り返るようなことはしなかった。

 部屋に戻って、明かりもつけずに床に座り込む。

 ――まただ。

 結局、今世でも、僕は選ばれることはなかったのだ。

 でも、不思議と前世ほどの絶望はなかった。
 この胸は確かに痛いはずなのに、それでもどこかで、これでよかったと思っている僕がいた。

 奪わなかった、縛らなかった、壊さなかった。

 それだけが、前世と決定的に違う点でもあったんだ。
 そして同時に、それが一番苦しい選択でもあったんだ。
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