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僕の学び
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あれから僕は、ユウトと距離を置いていた。
連絡先を消したわけでも、全てをブロックしたわけでもなかった。
ただ、こちらから何も送らなくなっただけだ。
大学では、極力顔を合わせないように努めていた。
時間割をずらして、昼休みもずらして。学食じゃなくて、コンビニ飯で済ませるようになっていた。
前世の僕なら、このようなことはしなかっただろう。
拒まれたらなおさら追いかけて、相手の生活に割り込んででも、この存在を示していたはずでもあったんだ。
でも今は、そんな気力もなかった。僕は確かに、恋に敗れていたのだから。
空いた時間は、バイトを増やして埋めていた。
身体を動かしていないと、余計なことを考えてしまうからだ。
マッチングアプリは、完全にやめていた。
もう誰かで代用することができないと、はっきりとわかったからだ。
それでも、時間は進んでいく。
やがて季節が変わり、キャンパスの空気も少しずつ軽くなっていった頃。
周りは楽しそうな声で溢れているのに、僕一人だけが、取り残されていくような気がしていた。
ある日、講義が終わって建物を出たとき、久し振りにユウトの姿を見かけていた。
写真サークルの仲間と一緒にいたけれど、こちらに気づいた瞬間に、彼は足を止めていた。
視線が、合う。
一瞬、逃げようかと思っていた。
でも、もう逃げるような理由もない気がして、僕はそのまま立ち尽くしていたんだ。
「……リオ」
名前を呼ばれただけで、胸が痛む。
「久しぶり」
「うん」
それだけで、会話は途切れてしまう。
その気まずさに耐えかねたのか、一緒にいた仲間たちが、気を利かせて先にどこかに行ってしまう。
僕たちは二人、近くのベンチに座っていた。
「元気だった?」
「まあ、ね……」
それは決して、嘘ではなかった。楽しくはないけれど、生きてはいた。
しばらく黙ってから、ユウトは静かに口を開いた。
「……あの後、さ……」
なぜだか嫌な予感がして、続きを聞きたくないと思ってしまう。
けれどユウトは、僕のほうを向いてこう言った。
「リオがいなくなってから、俺も色々考えてみたんだ……」
胸が、ざわつく。
「ずっと、俺は、リオの気持ちから逃げていたような気がするんだ」
意外だった。
ユウトが、そのようなことを口にするだなんて。
「正直、今でもよく分からないんだ。男とか女とか、そういうのも……」
ユウトは、目を伏せたまま続けていく。
「でも、リオがいなくなって……。初めて気づいたんだ。俺、リオのこと、当たり前に隣にいる存在だと思ってたんだって」
前世の僕なら、この言葉を勝利宣言みたいに受け取っていたのかもしれない。
でも今は、ただ、静かに聞いていた。
「失ってから気づくって、最低だよな」
自嘲気味に笑うユウトを見て、少しだけ、ほんの少しだけこの胸の痛みが和らいでいくような気がしていたんだ。
「……それで?」
促すようにそう言えば、ユウトは意を決したように顔を上げていく。
「俺、リオと一緒にいたい。恋って言葉を使っていいのかは、まだよくわからないけど……でも……」
「ユウト……」
「離れたくないんだ。リオと」
胸の奥が、じんと熱くなっていく。
前世では、甘い言葉も、頑なな誓いも、その独占欲も、全てが当たり前であるかのように僕には与えられていた。
でもそのどれもが、僕が選ばれ続けることへの保証にはならなかったんだ。
今、目の前にいるユウトは。
迷っていて、不器用で、それでも自分の意思でここに立っていた。
「……ねえ、ユウト」
僕は、ゆっくりと言葉を選んでいく。
「僕は、本気なんだ。ありきたりな恋で終わらせたくはないし、お互いに都合のいい存在になるのも嫌なんだ」
ユウトは、真剣な顔で頷いた。
「うん」
「だからさ。……もしも選ぶような時がきたら、ちゃんと僕のことを選んでほしいんだ」
沈黙が、落ちていく。
その時間が、前世よりもずっと重く、誠実であるかのように感じられていた。
「……わかった」
ユウトは、少しだけ照れたように笑っていた。
その表情に、胸が高鳴る。
――好きだ。
強く強く、そう思った。
「時間はかかるかもしれないけど、それでも俺は……。リオだけを選びたい」
その言葉は、派手でも、劇的でもなかった。
それでも確かに、僕ひとりだけに向けられていたんだ。
「そっか」
それだけを答えて、僕は、初めて素直に笑えたような気がしていた。
「大好きなんだ、ユウト」
「……ありがとう」
ちやほやされなくても、僕は生きていけるんだ。
前世では理解できなかったことを、僕は今世で、ようやく学びはじめていた。
僕のこの恋は、まだまだ終わることがないだろう。
それでもきっと、今度こそ、刺されて終わるようなことはないだろう。
少なくとも、僕の隣にいるのは、ちゃんと僕のことを考えてくれている、たったひとりのユウトなのだから。
連絡先を消したわけでも、全てをブロックしたわけでもなかった。
ただ、こちらから何も送らなくなっただけだ。
大学では、極力顔を合わせないように努めていた。
時間割をずらして、昼休みもずらして。学食じゃなくて、コンビニ飯で済ませるようになっていた。
前世の僕なら、このようなことはしなかっただろう。
拒まれたらなおさら追いかけて、相手の生活に割り込んででも、この存在を示していたはずでもあったんだ。
でも今は、そんな気力もなかった。僕は確かに、恋に敗れていたのだから。
空いた時間は、バイトを増やして埋めていた。
身体を動かしていないと、余計なことを考えてしまうからだ。
マッチングアプリは、完全にやめていた。
もう誰かで代用することができないと、はっきりとわかったからだ。
それでも、時間は進んでいく。
やがて季節が変わり、キャンパスの空気も少しずつ軽くなっていった頃。
周りは楽しそうな声で溢れているのに、僕一人だけが、取り残されていくような気がしていた。
ある日、講義が終わって建物を出たとき、久し振りにユウトの姿を見かけていた。
写真サークルの仲間と一緒にいたけれど、こちらに気づいた瞬間に、彼は足を止めていた。
視線が、合う。
一瞬、逃げようかと思っていた。
でも、もう逃げるような理由もない気がして、僕はそのまま立ち尽くしていたんだ。
「……リオ」
名前を呼ばれただけで、胸が痛む。
「久しぶり」
「うん」
それだけで、会話は途切れてしまう。
その気まずさに耐えかねたのか、一緒にいた仲間たちが、気を利かせて先にどこかに行ってしまう。
僕たちは二人、近くのベンチに座っていた。
「元気だった?」
「まあ、ね……」
それは決して、嘘ではなかった。楽しくはないけれど、生きてはいた。
しばらく黙ってから、ユウトは静かに口を開いた。
「……あの後、さ……」
なぜだか嫌な予感がして、続きを聞きたくないと思ってしまう。
けれどユウトは、僕のほうを向いてこう言った。
「リオがいなくなってから、俺も色々考えてみたんだ……」
胸が、ざわつく。
「ずっと、俺は、リオの気持ちから逃げていたような気がするんだ」
意外だった。
ユウトが、そのようなことを口にするだなんて。
「正直、今でもよく分からないんだ。男とか女とか、そういうのも……」
ユウトは、目を伏せたまま続けていく。
「でも、リオがいなくなって……。初めて気づいたんだ。俺、リオのこと、当たり前に隣にいる存在だと思ってたんだって」
前世の僕なら、この言葉を勝利宣言みたいに受け取っていたのかもしれない。
でも今は、ただ、静かに聞いていた。
「失ってから気づくって、最低だよな」
自嘲気味に笑うユウトを見て、少しだけ、ほんの少しだけこの胸の痛みが和らいでいくような気がしていたんだ。
「……それで?」
促すようにそう言えば、ユウトは意を決したように顔を上げていく。
「俺、リオと一緒にいたい。恋って言葉を使っていいのかは、まだよくわからないけど……でも……」
「ユウト……」
「離れたくないんだ。リオと」
胸の奥が、じんと熱くなっていく。
前世では、甘い言葉も、頑なな誓いも、その独占欲も、全てが当たり前であるかのように僕には与えられていた。
でもそのどれもが、僕が選ばれ続けることへの保証にはならなかったんだ。
今、目の前にいるユウトは。
迷っていて、不器用で、それでも自分の意思でここに立っていた。
「……ねえ、ユウト」
僕は、ゆっくりと言葉を選んでいく。
「僕は、本気なんだ。ありきたりな恋で終わらせたくはないし、お互いに都合のいい存在になるのも嫌なんだ」
ユウトは、真剣な顔で頷いた。
「うん」
「だからさ。……もしも選ぶような時がきたら、ちゃんと僕のことを選んでほしいんだ」
沈黙が、落ちていく。
その時間が、前世よりもずっと重く、誠実であるかのように感じられていた。
「……わかった」
ユウトは、少しだけ照れたように笑っていた。
その表情に、胸が高鳴る。
――好きだ。
強く強く、そう思った。
「時間はかかるかもしれないけど、それでも俺は……。リオだけを選びたい」
その言葉は、派手でも、劇的でもなかった。
それでも確かに、僕ひとりだけに向けられていたんだ。
「そっか」
それだけを答えて、僕は、初めて素直に笑えたような気がしていた。
「大好きなんだ、ユウト」
「……ありがとう」
ちやほやされなくても、僕は生きていけるんだ。
前世では理解できなかったことを、僕は今世で、ようやく学びはじめていた。
僕のこの恋は、まだまだ終わることがないだろう。
それでもきっと、今度こそ、刺されて終わるようなことはないだろう。
少なくとも、僕の隣にいるのは、ちゃんと僕のことを考えてくれている、たったひとりのユウトなのだから。
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