4 / 8
恋人になったはずなのに
しおりを挟む
あれから僕は、ユウトとお付き合いをはじめていた。
たしかに、言葉としてはそうなったはずでもあったんだ。
あの日、ちゃんとお互いに頷いていたし、決して曖昧なままに流したわけでもなかったはずだ。
――それなのに。
「……これ、付き合ってるって言えるの??」
自室のベッドに寝転がりながら、僕は天井を睨んでいた。
スマホには、ついさっきユウトから届いたメッセージ。
『今日の写真、現像うまくいった!』
それだけだった。
ハートマークもなければ、好きという言葉さえもない。
以前までの関係と、一体何が違うというのか。
手を繋いだ回数は、片手で数えられるほどしかない。
キスなんて、もちろんしたことはなかったんだ。
帰り道も、相変わらずほんの少しだけ距離を空けて歩いていた。
まるで、友達の延長線上。
いや、延長線上にすら乗れているのかも怪しかった。
「……余裕、なのか……?」
一方的に、そう思ってしまうことが嫌だった。
ユウトは、何も変わらなかった。
相変わらずのんびりしていて、マイペースで。人当たりもよくて、誰とでも自然に言葉を交わしていた。
写真サークルの連中とも、相変わらず仲がいい。
「ユウト、これ見てみろよ」
「すごいな」
「だろー?ここをこうして設定すると、こんな写真が撮れるんだ!」
「へえ、初めて知った」
「おい、俺がいろいろ触ってて発見したんだぞ?」
時には、ユウトの周りに男が二、三人集まって、カメラの話だの、次の撮影場所だのを楽しそうに話している姿を見かけたことも何度かあった。
僕は勝手に、胸の奥をもやもやとさせていたんだ。
――あれ、僕の恋人なんですけど。
けれど声に出したら負けてしまうような気がして、黙ってスマホをいじるふりをする。
前世なら、あのような輪の中に僕は間違いなく割り込んでいた。
腕を取って、肩を抱いて、彼は僕のだと嫌でも示していただろう。
でも今は、そのようなことができないでいた。
そもそもできるはずもないし、したくもなかった。それでユウトに嫌われてしまったら、それこそ本末転倒だ。
「リオ、今日バイト?」
いつの間にか近づいてきたユウトが、何でもないような調子で聞いてきた。
「うん」
「そっか。じゃあ帰り、先行くから」
「……うん」
それだけで、会話は終わってしまう。
その背中を眺めながら、僕はまた、よくないことを考えてしまう。
――僕なんかより、あいつらといる方が楽しいんじゃないのか?
そのようなはずがないと、頭の中ではわかっていた。
けれどこの感情は、そう簡単には割り切れない。
ユウトは、僕よりもその心が広かった。
家族にも愛されて、友達にも囲まれて、きっと失うことにも慣れていない。
それに比べて、僕はどうだ。
愛されることに執着して、失うことを常に恐れて、恋人になった途端に、こんなにも不安になってしまう。
「……ああ、めんどくさい」
それでも、ユウトのことを考えずにはいられなかった。
確かに付き合いはじめたはずであるというのに、恋人らしくなるには、まだまだ時間がかかりそうでもあったんだ。
***
ある日、僕はユウトの実家に遊びに行っていた。
「うち、来る?」
それは、あまりにも軽い誘い方で。
まるでコンビニにでも行くみたいなノリだったから、僕は何も深く考えずに頷いていたんだ。
「母さんたちも、リオに会いたいって言っててさ」
その一言に、胸が少しだけ跳ねたのも事実だ。
「そうなんだ、いいよ!」
――会いたい、か……。もちろん、恋人として?
そう都合よく解釈した僕は、すぐさま後悔をすることになる。
ユウトの実家は、想像以上に賑やかでもあったんだ。
玄関を開けた瞬間に、ユウトを呼ぶ声やおかえりという声が飛び交って、奥から子供が走ってきた。
母親らしき人は朗らかで、父親は少し無口そうだけれど、家族は全員穏やかな雰囲気をしていた。
兄弟も多くて、その日は親戚まで顔を出していたらしい。
――いや、ちょっとこれ……。多すぎない?どんな集まり?
人の気配だけで、少し圧倒されていた。
でも、ユウトはそのような中でもいつものように笑っていた。
誰に声をかけられても笑って返して、僕の存在を忘れているわけではないのに、大して特別扱いもしなかった。
それが、妙に胸に引っかかる。
「……で、この子が?」
母親が僕を見て、にこやかに尋ねていた。
ユウトは、少しだけ間を置いてからこう言った。
「大学の友達」
――……は?
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
頭の中でその言葉を繰り返して、ようやく意味が追いついていく。
友達。恋人じゃなくて、ただの。
僕は笑顔を崩さなかった。そもそも、崩すことができなかった。
「リオです。ユウトとは、いつも一緒で……」
「へえ、仲がいいのねぇ」
仲がいい。
その表現が、やけに刺さる。
その後も、僕は他の人と同じように常に笑顔でその輪の中に佇んでいた。
「ユウトにいちゃん、こっちにきてよ!」
「えーっ、僕のほうだよ!」
「わかったよ、一緒に遊ぼう」
皆、当たり前であるかのようにユウトのことが大好きだった。
それが少し、羨ましくもあったんだ。
家族に囲まれて、肯定されることを疑いもしないユウト。
僕はただ、この胸を痛めるしかなかった。
「リオ、こっちに来なよ」
けれど、ユウトはいつだって優しかった。
僕の手をさらりと引いて、いつだって隣に置いてくれた。
帰り道。
並んで歩きながら、僕はずっと黙っていた。
「疲れた?」
「……別に」
「なんか、静かだからさ」
「……そう?」
僕のことをちらり横目で見たユウトは、いつも通り余裕があって、
僕の内心なんて、これっぽっちも気づいていないように見えてしまう。
それがまた、腹立たしい。
正直に言えば、見た目だって、僕の方が整っていると思う。
はっきり言って、未だにユウトはもさかった。
服装も地味だし、髪だって適当なのに。それなのに、人は自然とユウトのほうに集まってくる。
――ずるい。
そのような感情を抱く僕が、情けなくて、悔しくて。
それでも、止めることができなかった。
「……ユウトってさ、」
「うん?」
「本当に、余裕あるよね……」
ぽろっと出てしまったその言葉に、ユウトは少しだけ困ったように笑っていた。
「そうかな?」
その返事すら、僕には余裕であるかのように見えてしまう。
恋人になったはずであるというのに、僕だけがこんなにも必死で。
この気持ちをどう処理すればいいのかわからないまま、不満と嫉妬だけが、僕の心の中に静かに積もっていたんだ。
たしかに、言葉としてはそうなったはずでもあったんだ。
あの日、ちゃんとお互いに頷いていたし、決して曖昧なままに流したわけでもなかったはずだ。
――それなのに。
「……これ、付き合ってるって言えるの??」
自室のベッドに寝転がりながら、僕は天井を睨んでいた。
スマホには、ついさっきユウトから届いたメッセージ。
『今日の写真、現像うまくいった!』
それだけだった。
ハートマークもなければ、好きという言葉さえもない。
以前までの関係と、一体何が違うというのか。
手を繋いだ回数は、片手で数えられるほどしかない。
キスなんて、もちろんしたことはなかったんだ。
帰り道も、相変わらずほんの少しだけ距離を空けて歩いていた。
まるで、友達の延長線上。
いや、延長線上にすら乗れているのかも怪しかった。
「……余裕、なのか……?」
一方的に、そう思ってしまうことが嫌だった。
ユウトは、何も変わらなかった。
相変わらずのんびりしていて、マイペースで。人当たりもよくて、誰とでも自然に言葉を交わしていた。
写真サークルの連中とも、相変わらず仲がいい。
「ユウト、これ見てみろよ」
「すごいな」
「だろー?ここをこうして設定すると、こんな写真が撮れるんだ!」
「へえ、初めて知った」
「おい、俺がいろいろ触ってて発見したんだぞ?」
時には、ユウトの周りに男が二、三人集まって、カメラの話だの、次の撮影場所だのを楽しそうに話している姿を見かけたことも何度かあった。
僕は勝手に、胸の奥をもやもやとさせていたんだ。
――あれ、僕の恋人なんですけど。
けれど声に出したら負けてしまうような気がして、黙ってスマホをいじるふりをする。
前世なら、あのような輪の中に僕は間違いなく割り込んでいた。
腕を取って、肩を抱いて、彼は僕のだと嫌でも示していただろう。
でも今は、そのようなことができないでいた。
そもそもできるはずもないし、したくもなかった。それでユウトに嫌われてしまったら、それこそ本末転倒だ。
「リオ、今日バイト?」
いつの間にか近づいてきたユウトが、何でもないような調子で聞いてきた。
「うん」
「そっか。じゃあ帰り、先行くから」
「……うん」
それだけで、会話は終わってしまう。
その背中を眺めながら、僕はまた、よくないことを考えてしまう。
――僕なんかより、あいつらといる方が楽しいんじゃないのか?
そのようなはずがないと、頭の中ではわかっていた。
けれどこの感情は、そう簡単には割り切れない。
ユウトは、僕よりもその心が広かった。
家族にも愛されて、友達にも囲まれて、きっと失うことにも慣れていない。
それに比べて、僕はどうだ。
愛されることに執着して、失うことを常に恐れて、恋人になった途端に、こんなにも不安になってしまう。
「……ああ、めんどくさい」
それでも、ユウトのことを考えずにはいられなかった。
確かに付き合いはじめたはずであるというのに、恋人らしくなるには、まだまだ時間がかかりそうでもあったんだ。
***
ある日、僕はユウトの実家に遊びに行っていた。
「うち、来る?」
それは、あまりにも軽い誘い方で。
まるでコンビニにでも行くみたいなノリだったから、僕は何も深く考えずに頷いていたんだ。
「母さんたちも、リオに会いたいって言っててさ」
その一言に、胸が少しだけ跳ねたのも事実だ。
「そうなんだ、いいよ!」
――会いたい、か……。もちろん、恋人として?
そう都合よく解釈した僕は、すぐさま後悔をすることになる。
ユウトの実家は、想像以上に賑やかでもあったんだ。
玄関を開けた瞬間に、ユウトを呼ぶ声やおかえりという声が飛び交って、奥から子供が走ってきた。
母親らしき人は朗らかで、父親は少し無口そうだけれど、家族は全員穏やかな雰囲気をしていた。
兄弟も多くて、その日は親戚まで顔を出していたらしい。
――いや、ちょっとこれ……。多すぎない?どんな集まり?
人の気配だけで、少し圧倒されていた。
でも、ユウトはそのような中でもいつものように笑っていた。
誰に声をかけられても笑って返して、僕の存在を忘れているわけではないのに、大して特別扱いもしなかった。
それが、妙に胸に引っかかる。
「……で、この子が?」
母親が僕を見て、にこやかに尋ねていた。
ユウトは、少しだけ間を置いてからこう言った。
「大学の友達」
――……は?
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
頭の中でその言葉を繰り返して、ようやく意味が追いついていく。
友達。恋人じゃなくて、ただの。
僕は笑顔を崩さなかった。そもそも、崩すことができなかった。
「リオです。ユウトとは、いつも一緒で……」
「へえ、仲がいいのねぇ」
仲がいい。
その表現が、やけに刺さる。
その後も、僕は他の人と同じように常に笑顔でその輪の中に佇んでいた。
「ユウトにいちゃん、こっちにきてよ!」
「えーっ、僕のほうだよ!」
「わかったよ、一緒に遊ぼう」
皆、当たり前であるかのようにユウトのことが大好きだった。
それが少し、羨ましくもあったんだ。
家族に囲まれて、肯定されることを疑いもしないユウト。
僕はただ、この胸を痛めるしかなかった。
「リオ、こっちに来なよ」
けれど、ユウトはいつだって優しかった。
僕の手をさらりと引いて、いつだって隣に置いてくれた。
帰り道。
並んで歩きながら、僕はずっと黙っていた。
「疲れた?」
「……別に」
「なんか、静かだからさ」
「……そう?」
僕のことをちらり横目で見たユウトは、いつも通り余裕があって、
僕の内心なんて、これっぽっちも気づいていないように見えてしまう。
それがまた、腹立たしい。
正直に言えば、見た目だって、僕の方が整っていると思う。
はっきり言って、未だにユウトはもさかった。
服装も地味だし、髪だって適当なのに。それなのに、人は自然とユウトのほうに集まってくる。
――ずるい。
そのような感情を抱く僕が、情けなくて、悔しくて。
それでも、止めることができなかった。
「……ユウトってさ、」
「うん?」
「本当に、余裕あるよね……」
ぽろっと出てしまったその言葉に、ユウトは少しだけ困ったように笑っていた。
「そうかな?」
その返事すら、僕には余裕であるかのように見えてしまう。
恋人になったはずであるというのに、僕だけがこんなにも必死で。
この気持ちをどう処理すればいいのかわからないまま、不満と嫉妬だけが、僕の心の中に静かに積もっていたんだ。
10
あなたにおすすめの小説
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
片思いの練習台にされていると思っていたら、自分が本命でした
みゅー
BL
オニキスは幼馴染みに思いを寄せていたが、相手には好きな人がいると知り、更に告白の練習台をお願いされ……と言うお話。
今後ハリーsideを書く予定
気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいましたのスピンオフです。
サイデュームの宝石シリーズ番外編なので、今後そのキャラクターが少し関与してきます。
ハリーsideの最後の賭けの部分が変だったので少し改稿しました。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
殿堂入りした愛なのに
たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける)
今日からはれて高等部に進学する。
入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。
一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。
両片思いの一途すぎる話。BLです。
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜
なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」
男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。
ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。
冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。
しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。
「俺、後悔しないようにしてんだ」
その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。
笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。
一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。
青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。
本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる