元悪役令息の僕は今世でたった一つの愛に揺れる

陽花紫

文字の大きさ
5 / 8

ユウトの学び

しおりを挟む
 爆発したのは、本当に、本当になんてことのないタイミングだった。

 ユウトの実家に行ってから、数日後。
 いつものように大学帰り、二人で並んで歩いていたときだったんだ。

「今日さ、サークルのやつらと少し話してから帰るけど……いい?」
「……ふうん」

 返事が素っ気なかったのは、自覚していた。
 でも、直せなかったんだ。
 
「リオ、もしかして機嫌悪い?」

 ――もしかして、って何だよ。そもそも、機嫌を取られるような立場でもないだろう?

「別に」
「本当?」

 ユウトが立ち止まって、僕の顔を覗き込む。
 その距離の近さが、逆に腹立たしかった。

「……ねえ、ユウト」
「うん?」

 その時、我慢していたものが、いきなりぽろっとこぼれ落ちていたんだ。

「僕、ユウトの……“友達”なんだ?」
「えっ?」

 ユウトは、きょとんとしたような顔をしていた。
 本当に、わかっていないような顔だった。

「実家に行ったときも、そう紹介してたし……」
「……ああ、」

 やっと思い出したかのように、ユウトが声を落としていく。

「それにさ、」

 僕の言葉は、もう止まらなかった。

「写真サークルの男とも、仲がいいし。皆、ユウトのこと大好きだし。僕だけ、なんか必死でさ……。僕、ユウトのなんなわけ?」

 言ってしまってから、悔やんでいく。
 前世の僕なら、きっとこんなみっともないことは言わなかったはずだ。

「……僕の方が、顔だって整ってると思うし。でも、それなのに……。なんでユウトの方が余裕あるんだよ」

 後半の方は、完全に八つ当たりになっていた。

 ユウトは、黙ったままだった。

 ――ダメだ、終わった。

 そう思った瞬間、ユウトは、困ったようにぽりぽりと頭を掻いていた。

「えっと……」
「なに」
「もしかして……。リオ、嫉妬してた?」

 その一言で、僕は耳まで熱くなる。
 思わず、じとりと睨みつける。

「……悪い?」
「いや、悪くはないけど……」

 ユウトは少し考えてから、珍しく視線を逸らしつつ、こう言った。

「……俺、余裕なんてないよ」
「えっ……?」
「リオが不安そうにしてるの、ずっと気づいてたし……。でも、どう声をかけたらいいかわからなくてさ……」

 ――余裕じゃ、なかった?

「実家で友達って言ったのも、軽く言いたくなかったからさ……」

 ユウトは、照れたように目を伏せた。

「家族に言うなら、ちゃんとした時に説明したかったんだ。この間は、ごめん。あんな時に呼んで……」

 そう素直に謝られて、僕はもう怒る気力が失せていた。

「もう、……言ってくれればよかったのに……」

 しばらくして、ユウトがぽつりと続けていく。

「あとさ、俺……。リオのことが一番好きだよ」

 心臓が、どくりと音をたてていく。

「サークルのやつらじゃなくてさ、一緒に帰りたいのはリオだけだし。隣にいて落ち着くのも、リオなんだ」

 思わず僕は、ユウトの手を強く握ってこう言った。

「……そういうの、もっと言って」
「えっ?」
「僕、察せないから……。ちゃんと言葉にしないと、わからない」

 そう言えば、ユウトは一瞬驚いたように目を見開いてから、苦い笑みを浮かべていた。

「わかった。努力するよ……」

 その返事が妙に可愛くて、悔しいけど、僕は少しだけ笑ってしまっていたんだ。
 拗ねて、嫉妬して、勝手に不安に思っていて。

 それでも、ちゃんと向き合ってくれる相手がいる。
 それだけで。
 この恋は、思ったよりもずっと健全なのかもしれないと僕は静かに笑っていた。

***

 それから少しだけ、ユウトは変わった。
 手を引いたり、抱き寄せたり、そんなことは相変わらずしないけれど。
 それでも、僕に対しての言葉が増えていた。

「今日、リオと帰れて嬉しい……」
「僕も、嬉しいよ」

「その服、リオによく似合ってる」
「本当?ユウトも、今日もかっこいい」

 そう言葉で表現するたびに、少し照れたような顔をする。
 それがまた、ずるい。

 写真サークルの集まりに顔を出したときも、ユウトは何でもないような顔をしてこう言っていたんだ。

「リオ、ちょっと来て」
「うん?」

 集まっていた人たちの前で、ユウトは、さらっと続けていた。

「皆に紹介するよ、俺の恋人……。リオっていうんだ……」

 その一言で、僕は頭が真っ白になっていた。

「……は?」

 周りの反応なんて、もはやどうでもよかったんだ。
 あのユウトが、僕のことを皆に向けて紹介してくれていた。

「リオしか、俺の隣はありえない」

 胸の奥が、じんわりと温かくなっていく。
 気づけば、僕は目を潤ませていた。


 帰り道、僕は思わず聞いていた。

「ねえ、……恥ずかしくなかった?」
「……少しだけ。でも、言わないとリオはまた不安になるだろう?」

 そう言って、ユウトははにかんでいた。

 ――ダメだ、かっこいい。

 僕は、何も言うことができずにいた。

 そのまま歩いて、人気の少ない道に入ったところで、ふいにユウトが立ち止まる。

「リオ」

 そう名前を呼ばれて顔を上げると、ユウトは少しだけ躊躇うように、こう言った。

「俺、リオが好きだよ。言葉にしないと伝わらないって、最近学んだんだ」

 真っ直ぐで、不器用で、それでも僕から逃げないその瞳。

 このような言葉、前世なら僕は軽く聞き流していたのかもしれない。
 それでも今は、この胸の奥に静かに確かに響いていたんだ。

「……反則だろ、それ……」

 そう返しながら、僕はユウトの手を握る。
 少し驚いたような顔をして、それでも、ユウトもまたぎこちなく握り返していた。

 僕たちは、決して完璧な恋人ではなかった。
 誰かと比べて、勝手に嫉妬をしては、僕が拗ねて。

 それでも、ちゃんと話をして、少しずつその感情を育んでいたんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

付き合ってる彼が、時々ネコになるんですが・・

蒼井梨音
BL
偶然見ていたバスケの試合で、見かけたバスケ部のエース・宗像響也。 一緒にバスケをしたい、と同じ高校に入り、バスケ部に入った、駿。 運良く響也と付き合うことになった駿は、ある日、響也から秘密を聞かされるーー ※大学生編も書いてみたいんですが、いつになるかはわかりません。

ギャルゲー主人公に狙われてます

一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。 自分の役割は主人公の親友ポジ ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...