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ユウトの学び
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爆発したのは、本当に、本当になんてことのないタイミングだった。
ユウトの実家に行ってから、数日後。
いつものように大学帰り、二人で並んで歩いていたときだったんだ。
「今日さ、サークルのやつらと少し話してから帰るけど……いい?」
「……ふうん」
返事が素っ気なかったのは、自覚していた。
でも、直せなかったんだ。
「リオ、もしかして機嫌悪い?」
――もしかして、って何だよ。そもそも、機嫌を取られるような立場でもないだろう?
「別に」
「本当?」
ユウトが立ち止まって、僕の顔を覗き込む。
その距離の近さが、逆に腹立たしかった。
「……ねえ、ユウト」
「うん?」
その時、我慢していたものが、いきなりぽろっとこぼれ落ちていたんだ。
「僕、ユウトの……“友達”なんだ?」
「えっ?」
ユウトは、きょとんとしたような顔をしていた。
本当に、わかっていないような顔だった。
「実家に行ったときも、そう紹介してたし……」
「……ああ、」
やっと思い出したかのように、ユウトが声を落としていく。
「それにさ、」
僕の言葉は、もう止まらなかった。
「写真サークルの男とも、仲がいいし。皆、ユウトのこと大好きだし。僕だけ、なんか必死でさ……。僕、ユウトのなんなわけ?」
言ってしまってから、悔やんでいく。
前世の僕なら、きっとこんなみっともないことは言わなかったはずだ。
「……僕の方が、顔だって整ってると思うし。でも、それなのに……。なんでユウトの方が余裕あるんだよ」
後半の方は、完全に八つ当たりになっていた。
ユウトは、黙ったままだった。
――ダメだ、終わった。
そう思った瞬間、ユウトは、困ったようにぽりぽりと頭を掻いていた。
「えっと……」
「なに」
「もしかして……。リオ、嫉妬してた?」
その一言で、僕は耳まで熱くなる。
思わず、じとりと睨みつける。
「……悪い?」
「いや、悪くはないけど……」
ユウトは少し考えてから、珍しく視線を逸らしつつ、こう言った。
「……俺、余裕なんてないよ」
「えっ……?」
「リオが不安そうにしてるの、ずっと気づいてたし……。でも、どう声をかけたらいいかわからなくてさ……」
――余裕じゃ、なかった?
「実家で友達って言ったのも、軽く言いたくなかったからさ……」
ユウトは、照れたように目を伏せた。
「家族に言うなら、ちゃんとした時に説明したかったんだ。この間は、ごめん。あんな時に呼んで……」
そう素直に謝られて、僕はもう怒る気力が失せていた。
「もう、……言ってくれればよかったのに……」
しばらくして、ユウトがぽつりと続けていく。
「あとさ、俺……。リオのことが一番好きだよ」
心臓が、どくりと音をたてていく。
「サークルのやつらじゃなくてさ、一緒に帰りたいのはリオだけだし。隣にいて落ち着くのも、リオなんだ」
思わず僕は、ユウトの手を強く握ってこう言った。
「……そういうの、もっと言って」
「えっ?」
「僕、察せないから……。ちゃんと言葉にしないと、わからない」
そう言えば、ユウトは一瞬驚いたように目を見開いてから、苦い笑みを浮かべていた。
「わかった。努力するよ……」
その返事が妙に可愛くて、悔しいけど、僕は少しだけ笑ってしまっていたんだ。
拗ねて、嫉妬して、勝手に不安に思っていて。
それでも、ちゃんと向き合ってくれる相手がいる。
それだけで。
この恋は、思ったよりもずっと健全なのかもしれないと僕は静かに笑っていた。
***
それから少しだけ、ユウトは変わった。
手を引いたり、抱き寄せたり、そんなことは相変わらずしないけれど。
それでも、僕に対しての言葉が増えていた。
「今日、リオと帰れて嬉しい……」
「僕も、嬉しいよ」
「その服、リオによく似合ってる」
「本当?ユウトも、今日もかっこいい」
そう言葉で表現するたびに、少し照れたような顔をする。
それがまた、ずるい。
写真サークルの集まりに顔を出したときも、ユウトは何でもないような顔をしてこう言っていたんだ。
「リオ、ちょっと来て」
「うん?」
集まっていた人たちの前で、ユウトは、さらっと続けていた。
「皆に紹介するよ、俺の恋人……。リオっていうんだ……」
その一言で、僕は頭が真っ白になっていた。
「……は?」
周りの反応なんて、もはやどうでもよかったんだ。
あのユウトが、僕のことを皆に向けて紹介してくれていた。
「リオしか、俺の隣はありえない」
胸の奥が、じんわりと温かくなっていく。
気づけば、僕は目を潤ませていた。
帰り道、僕は思わず聞いていた。
「ねえ、……恥ずかしくなかった?」
「……少しだけ。でも、言わないとリオはまた不安になるだろう?」
そう言って、ユウトははにかんでいた。
――ダメだ、かっこいい。
僕は、何も言うことができずにいた。
そのまま歩いて、人気の少ない道に入ったところで、ふいにユウトが立ち止まる。
「リオ」
そう名前を呼ばれて顔を上げると、ユウトは少しだけ躊躇うように、こう言った。
「俺、リオが好きだよ。言葉にしないと伝わらないって、最近学んだんだ」
真っ直ぐで、不器用で、それでも僕から逃げないその瞳。
このような言葉、前世なら僕は軽く聞き流していたのかもしれない。
それでも今は、この胸の奥に静かに確かに響いていたんだ。
「……反則だろ、それ……」
そう返しながら、僕はユウトの手を握る。
少し驚いたような顔をして、それでも、ユウトもまたぎこちなく握り返していた。
僕たちは、決して完璧な恋人ではなかった。
誰かと比べて、勝手に嫉妬をしては、僕が拗ねて。
それでも、ちゃんと話をして、少しずつその感情を育んでいたんだ。
ユウトの実家に行ってから、数日後。
いつものように大学帰り、二人で並んで歩いていたときだったんだ。
「今日さ、サークルのやつらと少し話してから帰るけど……いい?」
「……ふうん」
返事が素っ気なかったのは、自覚していた。
でも、直せなかったんだ。
「リオ、もしかして機嫌悪い?」
――もしかして、って何だよ。そもそも、機嫌を取られるような立場でもないだろう?
「別に」
「本当?」
ユウトが立ち止まって、僕の顔を覗き込む。
その距離の近さが、逆に腹立たしかった。
「……ねえ、ユウト」
「うん?」
その時、我慢していたものが、いきなりぽろっとこぼれ落ちていたんだ。
「僕、ユウトの……“友達”なんだ?」
「えっ?」
ユウトは、きょとんとしたような顔をしていた。
本当に、わかっていないような顔だった。
「実家に行ったときも、そう紹介してたし……」
「……ああ、」
やっと思い出したかのように、ユウトが声を落としていく。
「それにさ、」
僕の言葉は、もう止まらなかった。
「写真サークルの男とも、仲がいいし。皆、ユウトのこと大好きだし。僕だけ、なんか必死でさ……。僕、ユウトのなんなわけ?」
言ってしまってから、悔やんでいく。
前世の僕なら、きっとこんなみっともないことは言わなかったはずだ。
「……僕の方が、顔だって整ってると思うし。でも、それなのに……。なんでユウトの方が余裕あるんだよ」
後半の方は、完全に八つ当たりになっていた。
ユウトは、黙ったままだった。
――ダメだ、終わった。
そう思った瞬間、ユウトは、困ったようにぽりぽりと頭を掻いていた。
「えっと……」
「なに」
「もしかして……。リオ、嫉妬してた?」
その一言で、僕は耳まで熱くなる。
思わず、じとりと睨みつける。
「……悪い?」
「いや、悪くはないけど……」
ユウトは少し考えてから、珍しく視線を逸らしつつ、こう言った。
「……俺、余裕なんてないよ」
「えっ……?」
「リオが不安そうにしてるの、ずっと気づいてたし……。でも、どう声をかけたらいいかわからなくてさ……」
――余裕じゃ、なかった?
「実家で友達って言ったのも、軽く言いたくなかったからさ……」
ユウトは、照れたように目を伏せた。
「家族に言うなら、ちゃんとした時に説明したかったんだ。この間は、ごめん。あんな時に呼んで……」
そう素直に謝られて、僕はもう怒る気力が失せていた。
「もう、……言ってくれればよかったのに……」
しばらくして、ユウトがぽつりと続けていく。
「あとさ、俺……。リオのことが一番好きだよ」
心臓が、どくりと音をたてていく。
「サークルのやつらじゃなくてさ、一緒に帰りたいのはリオだけだし。隣にいて落ち着くのも、リオなんだ」
思わず僕は、ユウトの手を強く握ってこう言った。
「……そういうの、もっと言って」
「えっ?」
「僕、察せないから……。ちゃんと言葉にしないと、わからない」
そう言えば、ユウトは一瞬驚いたように目を見開いてから、苦い笑みを浮かべていた。
「わかった。努力するよ……」
その返事が妙に可愛くて、悔しいけど、僕は少しだけ笑ってしまっていたんだ。
拗ねて、嫉妬して、勝手に不安に思っていて。
それでも、ちゃんと向き合ってくれる相手がいる。
それだけで。
この恋は、思ったよりもずっと健全なのかもしれないと僕は静かに笑っていた。
***
それから少しだけ、ユウトは変わった。
手を引いたり、抱き寄せたり、そんなことは相変わらずしないけれど。
それでも、僕に対しての言葉が増えていた。
「今日、リオと帰れて嬉しい……」
「僕も、嬉しいよ」
「その服、リオによく似合ってる」
「本当?ユウトも、今日もかっこいい」
そう言葉で表現するたびに、少し照れたような顔をする。
それがまた、ずるい。
写真サークルの集まりに顔を出したときも、ユウトは何でもないような顔をしてこう言っていたんだ。
「リオ、ちょっと来て」
「うん?」
集まっていた人たちの前で、ユウトは、さらっと続けていた。
「皆に紹介するよ、俺の恋人……。リオっていうんだ……」
その一言で、僕は頭が真っ白になっていた。
「……は?」
周りの反応なんて、もはやどうでもよかったんだ。
あのユウトが、僕のことを皆に向けて紹介してくれていた。
「リオしか、俺の隣はありえない」
胸の奥が、じんわりと温かくなっていく。
気づけば、僕は目を潤ませていた。
帰り道、僕は思わず聞いていた。
「ねえ、……恥ずかしくなかった?」
「……少しだけ。でも、言わないとリオはまた不安になるだろう?」
そう言って、ユウトははにかんでいた。
――ダメだ、かっこいい。
僕は、何も言うことができずにいた。
そのまま歩いて、人気の少ない道に入ったところで、ふいにユウトが立ち止まる。
「リオ」
そう名前を呼ばれて顔を上げると、ユウトは少しだけ躊躇うように、こう言った。
「俺、リオが好きだよ。言葉にしないと伝わらないって、最近学んだんだ」
真っ直ぐで、不器用で、それでも僕から逃げないその瞳。
このような言葉、前世なら僕は軽く聞き流していたのかもしれない。
それでも今は、この胸の奥に静かに確かに響いていたんだ。
「……反則だろ、それ……」
そう返しながら、僕はユウトの手を握る。
少し驚いたような顔をして、それでも、ユウトもまたぎこちなく握り返していた。
僕たちは、決して完璧な恋人ではなかった。
誰かと比べて、勝手に嫉妬をしては、僕が拗ねて。
それでも、ちゃんと話をして、少しずつその感情を育んでいたんだ。
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