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番外編 ハミダクとノクスの物語
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自分で勝手に描いたとはいえ、ノクスの顔は、本当に心臓に悪い。
いや本当に、洒落にならないくらいに。
俺の好みの要素をこれでもかと詰め込んだ、完璧な美しさがそこにはあったんだ。
青い瞳は静かな湖のようで、見つめられると吸い込まれそうになるし。その白い肌は光を柔らかく反射して、まるで触れたら溶けてしまいそうでもあったし、その形のいい唇なんて。
見るたびに、描くんじゃなかったって思う。
いや、描いたのは俺なんだけどさ。
その美貌と目を合わせるたびに、どうにも気恥ずかしくなって逸らしてしまう。
息が近くにかかるだけで、無意識に肩が強張る。
――あれっ?俺って、こんなにウブだったっけ?
ぼんやりとそのようなことを考えながら顔を上げると、そこには泣きそうに眉を寄せたノクスがいた。
「……ハミダク」
「あっ、ごめんごめん!べつに、嫌とかじゃなくってさ!」
慌てて、大げさに手を振った。
「ノクスの顔が嫌なんじゃなくて、その逆で……逆すぎて……。その……」
言い訳にもなっていない言葉を並べる俺を、ノクスはじっと見つめたあとに、こう呟いた。
「……ハミダクは、私の顔が嫌なのか?」
「だから、ちがうってば!」
もう、駄目だ。これは。
こういう時のノクスは、素直すぎてずるいんだ。
これまではただの仮面のクールな占い師だったのに、ノクスは今や大型犬かと思うくらい表情豊かになっていた。
意を決して、俺はぐっと距離を詰める。
ちゅっ。
と、その白い頬に軽くキスをした。
するとたちまち、あれほど寄っていた眉がふわりと離れてノクスの表情は穏やかな笑みに変わっていく。
「……なるほど」
「なるほど、じゃないよ」
「安心した」
そう言って、今度はノクスのほうからそっと唇が近づいてくる。
さっきより、少し長いキスをした。
ずるい。
本当に、ずるい男だ。この男は。
それからのノクスは、見ていて飽きない男でもあった。
嬉しいときは目を細めて笑うし、不安なときは唇を結んで俺をじとりと見つめるし、キスのあとには、必ず少しだけ照れたような顔をしていた。
そのお返しのキスを受け取って、俺たちは今日も呆れるほど幸せな日々を送っていた。
正直に言ってしまえば、幸せすぎて何も手につかない状態でもあったんだ。
ノクスはノクスで、占いの最中にうっかり俺とのことを惚気てしまい、お客さんに微妙な顔をされて遠ざかられることが増えていた。
俺は俺で、挿絵を描いているはずなのに、気づいたら登場人物の顔が全部ノクスになっていたことがある。
着実に、仕事に支障をきたしていた。
「ノクス……。これ、どうすればいいと思う?」
その日も、寝台の上でぴったりと体を寄せ合いながら俺たちは眠りにつこうとしていた。
「……慣れ、だろうな」
ノクスは、相変わらず穏やかに笑っていた。
「慣れるかな……?」
「慣れる。それに、慣れなくても構わないと私は思う……」
「えっ?」
「その度に、こうして確かめればいい」
そう言って、ノクスは俺の額に軽くキスをした。
「おやすみ、ハミダク」
「おやすみ、ノクス」
さすがに寝るときは、仮面を外させるようにした。
おやすみのキスができないのは、俺が困るからだ。
それから、おはようのキスも。
唇に触れる、柔らかい感触。
互いに微笑んで、夜が終わって朝が始まる。
それくらい、俺たちはすっかりラブラブのバカップルになっていたんだ。
END
いや本当に、洒落にならないくらいに。
俺の好みの要素をこれでもかと詰め込んだ、完璧な美しさがそこにはあったんだ。
青い瞳は静かな湖のようで、見つめられると吸い込まれそうになるし。その白い肌は光を柔らかく反射して、まるで触れたら溶けてしまいそうでもあったし、その形のいい唇なんて。
見るたびに、描くんじゃなかったって思う。
いや、描いたのは俺なんだけどさ。
その美貌と目を合わせるたびに、どうにも気恥ずかしくなって逸らしてしまう。
息が近くにかかるだけで、無意識に肩が強張る。
――あれっ?俺って、こんなにウブだったっけ?
ぼんやりとそのようなことを考えながら顔を上げると、そこには泣きそうに眉を寄せたノクスがいた。
「……ハミダク」
「あっ、ごめんごめん!べつに、嫌とかじゃなくってさ!」
慌てて、大げさに手を振った。
「ノクスの顔が嫌なんじゃなくて、その逆で……逆すぎて……。その……」
言い訳にもなっていない言葉を並べる俺を、ノクスはじっと見つめたあとに、こう呟いた。
「……ハミダクは、私の顔が嫌なのか?」
「だから、ちがうってば!」
もう、駄目だ。これは。
こういう時のノクスは、素直すぎてずるいんだ。
これまではただの仮面のクールな占い師だったのに、ノクスは今や大型犬かと思うくらい表情豊かになっていた。
意を決して、俺はぐっと距離を詰める。
ちゅっ。
と、その白い頬に軽くキスをした。
するとたちまち、あれほど寄っていた眉がふわりと離れてノクスの表情は穏やかな笑みに変わっていく。
「……なるほど」
「なるほど、じゃないよ」
「安心した」
そう言って、今度はノクスのほうからそっと唇が近づいてくる。
さっきより、少し長いキスをした。
ずるい。
本当に、ずるい男だ。この男は。
それからのノクスは、見ていて飽きない男でもあった。
嬉しいときは目を細めて笑うし、不安なときは唇を結んで俺をじとりと見つめるし、キスのあとには、必ず少しだけ照れたような顔をしていた。
そのお返しのキスを受け取って、俺たちは今日も呆れるほど幸せな日々を送っていた。
正直に言ってしまえば、幸せすぎて何も手につかない状態でもあったんだ。
ノクスはノクスで、占いの最中にうっかり俺とのことを惚気てしまい、お客さんに微妙な顔をされて遠ざかられることが増えていた。
俺は俺で、挿絵を描いているはずなのに、気づいたら登場人物の顔が全部ノクスになっていたことがある。
着実に、仕事に支障をきたしていた。
「ノクス……。これ、どうすればいいと思う?」
その日も、寝台の上でぴったりと体を寄せ合いながら俺たちは眠りにつこうとしていた。
「……慣れ、だろうな」
ノクスは、相変わらず穏やかに笑っていた。
「慣れるかな……?」
「慣れる。それに、慣れなくても構わないと私は思う……」
「えっ?」
「その度に、こうして確かめればいい」
そう言って、ノクスは俺の額に軽くキスをした。
「おやすみ、ハミダク」
「おやすみ、ノクス」
さすがに寝るときは、仮面を外させるようにした。
おやすみのキスができないのは、俺が困るからだ。
それから、おはようのキスも。
唇に触れる、柔らかい感触。
互いに微笑んで、夜が終わって朝が始まる。
それくらい、俺たちはすっかりラブラブのバカップルになっていたんだ。
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