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兄と弟の孤独
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屋敷は、恐ろしいまでに静まり返っていた。
ネスが去ったあと、マコトの世界から柔らかな光が一つ失われた。
その穴を埋めるかのように、胸の奥ではとある疼きが膨らんでいた。
ネスの深い愛を知ったその身は、さらなる愛を求めていたのだ。
ある日、マコトは書斎を訪れ何冊か本を開いていた。
しかし、目の前の文字をただ眺めるだけに終わってしまう。
頭の中にはミリの笑みとネスのぬくもりと、その渇きで溢れかえっていたのだから。
その時、静かに扉が開かれる。
「マコト」
ミリであった。
朝の光に透ける髪、微かに疲れたような顔。だがその瞳はマコトの胸を突き刺すほどに柔らかく、そして強く光っていた。
「兄さん……」
マコトは声を震わせながら、立ち上がった。
言葉にならない想いが、胸の奥で渦を巻いていく。
ミリは静かに歩み寄り、マコトの肩に手を置いた。その手の温もりに、マコトは思わず息を呑む。
「ネスがいなくなって、寂しいんだね?」
ミリの声は微笑みを帯びていたが、その瞳の奥にはマコトと同じ深い孤独があった。
マコトは言葉を返すこともできずに、ただ頷くだけであった。
胸の奥で何かが弾け、全身に、その熱が広がるのを感じていた。
――兄さんは今、僕のことだけを見つめてくれている。
そのことが、なによりも嬉しくあったのだ。
「……寂しいよ、兄さん」
「うん」
二人の距離は、一瞬にして縮まった。
ミリは静かに、マコトに向けて口づけをした。
互いの鼓動が、目に見えるかのように共鳴する。それはもはや兄弟としてではなく、互いを求める心が導く距離でもあったのだ。
「どうしても耐えられないようであれば、今夜……。俺の部屋においで」
言葉の意味は、確かめるまでもなかった。
ミリの顔は、今にも消えてしまいそうなほどに美しかった。
マコトはその姿を目に焼き付けながら、ゆっくりと頷いていた。
***
夜になり、マコトは重い扉を開けていた。
わずかに緊張したような顔つきをした弟のその姿を目にして、ミリは柔らかな笑みを浮かべていた。
「マコト」
全てを包み込むような深い響きに、マコトはたまらずその身を強く抱きしめる。
「兄さん……!」
ミリはマコトの髪を撫でた後、その耳元に向けて優しく囁いた。
「お前の気持ちは、よくわかるよ」
ミリは、これまでのネスとマコトの姿にかつての自らの身を重ねていたのだ。
そして同時に、憐れにも思っていた。
決して報われるはずもない姿をこれまで弟に見せてきたというのに、弟まで同じ道を辿り深く傷ついているのだと、勘違いをしていたのだ。
しかしマコトはそのことを否定することもなく、静かに兄の優しさに甘えていた。
――どう思われてもいい、兄さんが僕のことを見てくれるのなら。それで、いい。
「寂しい、寂しいんだ……」
ミリがそっと、マコトの背へと手を伸ばす。
その指先が、マコトの胸の奥の疼きをさらに強めさせていた。
「マコト、……俺の可愛い弟」
二人の間に、言葉はいらなかった。
互いにその身を包む布を床へと落とし、ゆるやかに肌へと向けて手を添わせる。
同じ母から生まれた身であるというのに、マコトの身はほどよく引き締まり、ミリの身はしなやかで美しかった。
「……こんな兄さんで、ごめん」
その言葉に、マコトは首を振った。
「僕の大好きな、兄さんだよ」
ミリの金の髪を撫でて、マコトは心からの笑みを浮かべていた。
そのような笑みに、ミリはこの穢れた心が救われるのを感じていた。いつまでも兄を慕い求める弟の愛を、とても嬉しく思っていたのだ。
ミリはマコトの首筋に深く吸い付き、わずかに赤い痕を遺す。
「マコトは、いつまでも俺のそばにいてくれるかい?」
すがるようなその言葉に、マコトは何度も頷いた。
「兄さんの、ミリの隣に……ずっといたいんだ」
夜の闇が、二人の身をあたたかく包み込んでいた。
光も届かぬ部屋の寝台の上で、マコトはミリの腕に強く抱かれていた。
時折交わすその瞳の奥で語るのは、互いの孤独と、強い願いでもあった。
「もう、どこにもいかないで」
「ずっと、そばにいるよ。マコト」
何度も交わされる口づけ、互いの存在を確かめるかのように強く抱き寄せる腕。
触れ合う肌にこもる強い熱。
マコトは初めて、愛する人に心から求められることの喜びを純粋に感じていた。
「俺はもう、何も失いたくはない」
切なるミリの囁きに、マコトの胸の奥は強く震える。言葉にならない想いが、その身からは溢れだしていた。
「……そんなに締めつけて、……悪い子だな」
「兄さんがっ……、激しくするから……っ!」
マコトは自らの内に沈められたその強い熱を感じながら、何度もその想いを搾り取ろうとしていた。
――その全てを吐き出してほしい。どんな兄さんでも、僕は受け止めるから。
そのようなことを願いながら、互いは燃え滾る熱い想いを放つ。
いつしか時の感覚は消え、世界は二人だけのものになっていた。
深い闇の中で、ただ一つに溶け合う。それは互いの心を穏やかな愛で満たしていた。
夜が明け、朝の光が部屋に差し込むころ、二人はようやく距離を取り、息を整えていた。
肩を寄せ合いながらも、この胸の奥の熱が消えることはなかった。
それは互いを求める心と、愛する心が交錯した証でもあったのだ。
マコトは大いなるぬくもりを感じながら、ひとり思う。
――兄さんの、心からの愛がほしい。でも今この瞬間だけは、僕は兄さんと一緒にいるんだ。
それだけで、少しは救われるような気がしていた。
屋敷に、朝の光と静かな温もりが広がる。
二人の間に漂うのはその愛と孤独、そして欲望と慰めだけであった。
その夜からマコトとミリは、二人だけの世界に生きはじめるのであった。
ネスが去ったあと、マコトの世界から柔らかな光が一つ失われた。
その穴を埋めるかのように、胸の奥ではとある疼きが膨らんでいた。
ネスの深い愛を知ったその身は、さらなる愛を求めていたのだ。
ある日、マコトは書斎を訪れ何冊か本を開いていた。
しかし、目の前の文字をただ眺めるだけに終わってしまう。
頭の中にはミリの笑みとネスのぬくもりと、その渇きで溢れかえっていたのだから。
その時、静かに扉が開かれる。
「マコト」
ミリであった。
朝の光に透ける髪、微かに疲れたような顔。だがその瞳はマコトの胸を突き刺すほどに柔らかく、そして強く光っていた。
「兄さん……」
マコトは声を震わせながら、立ち上がった。
言葉にならない想いが、胸の奥で渦を巻いていく。
ミリは静かに歩み寄り、マコトの肩に手を置いた。その手の温もりに、マコトは思わず息を呑む。
「ネスがいなくなって、寂しいんだね?」
ミリの声は微笑みを帯びていたが、その瞳の奥にはマコトと同じ深い孤独があった。
マコトは言葉を返すこともできずに、ただ頷くだけであった。
胸の奥で何かが弾け、全身に、その熱が広がるのを感じていた。
――兄さんは今、僕のことだけを見つめてくれている。
そのことが、なによりも嬉しくあったのだ。
「……寂しいよ、兄さん」
「うん」
二人の距離は、一瞬にして縮まった。
ミリは静かに、マコトに向けて口づけをした。
互いの鼓動が、目に見えるかのように共鳴する。それはもはや兄弟としてではなく、互いを求める心が導く距離でもあったのだ。
「どうしても耐えられないようであれば、今夜……。俺の部屋においで」
言葉の意味は、確かめるまでもなかった。
ミリの顔は、今にも消えてしまいそうなほどに美しかった。
マコトはその姿を目に焼き付けながら、ゆっくりと頷いていた。
***
夜になり、マコトは重い扉を開けていた。
わずかに緊張したような顔つきをした弟のその姿を目にして、ミリは柔らかな笑みを浮かべていた。
「マコト」
全てを包み込むような深い響きに、マコトはたまらずその身を強く抱きしめる。
「兄さん……!」
ミリはマコトの髪を撫でた後、その耳元に向けて優しく囁いた。
「お前の気持ちは、よくわかるよ」
ミリは、これまでのネスとマコトの姿にかつての自らの身を重ねていたのだ。
そして同時に、憐れにも思っていた。
決して報われるはずもない姿をこれまで弟に見せてきたというのに、弟まで同じ道を辿り深く傷ついているのだと、勘違いをしていたのだ。
しかしマコトはそのことを否定することもなく、静かに兄の優しさに甘えていた。
――どう思われてもいい、兄さんが僕のことを見てくれるのなら。それで、いい。
「寂しい、寂しいんだ……」
ミリがそっと、マコトの背へと手を伸ばす。
その指先が、マコトの胸の奥の疼きをさらに強めさせていた。
「マコト、……俺の可愛い弟」
二人の間に、言葉はいらなかった。
互いにその身を包む布を床へと落とし、ゆるやかに肌へと向けて手を添わせる。
同じ母から生まれた身であるというのに、マコトの身はほどよく引き締まり、ミリの身はしなやかで美しかった。
「……こんな兄さんで、ごめん」
その言葉に、マコトは首を振った。
「僕の大好きな、兄さんだよ」
ミリの金の髪を撫でて、マコトは心からの笑みを浮かべていた。
そのような笑みに、ミリはこの穢れた心が救われるのを感じていた。いつまでも兄を慕い求める弟の愛を、とても嬉しく思っていたのだ。
ミリはマコトの首筋に深く吸い付き、わずかに赤い痕を遺す。
「マコトは、いつまでも俺のそばにいてくれるかい?」
すがるようなその言葉に、マコトは何度も頷いた。
「兄さんの、ミリの隣に……ずっといたいんだ」
夜の闇が、二人の身をあたたかく包み込んでいた。
光も届かぬ部屋の寝台の上で、マコトはミリの腕に強く抱かれていた。
時折交わすその瞳の奥で語るのは、互いの孤独と、強い願いでもあった。
「もう、どこにもいかないで」
「ずっと、そばにいるよ。マコト」
何度も交わされる口づけ、互いの存在を確かめるかのように強く抱き寄せる腕。
触れ合う肌にこもる強い熱。
マコトは初めて、愛する人に心から求められることの喜びを純粋に感じていた。
「俺はもう、何も失いたくはない」
切なるミリの囁きに、マコトの胸の奥は強く震える。言葉にならない想いが、その身からは溢れだしていた。
「……そんなに締めつけて、……悪い子だな」
「兄さんがっ……、激しくするから……っ!」
マコトは自らの内に沈められたその強い熱を感じながら、何度もその想いを搾り取ろうとしていた。
――その全てを吐き出してほしい。どんな兄さんでも、僕は受け止めるから。
そのようなことを願いながら、互いは燃え滾る熱い想いを放つ。
いつしか時の感覚は消え、世界は二人だけのものになっていた。
深い闇の中で、ただ一つに溶け合う。それは互いの心を穏やかな愛で満たしていた。
夜が明け、朝の光が部屋に差し込むころ、二人はようやく距離を取り、息を整えていた。
肩を寄せ合いながらも、この胸の奥の熱が消えることはなかった。
それは互いを求める心と、愛する心が交錯した証でもあったのだ。
マコトは大いなるぬくもりを感じながら、ひとり思う。
――兄さんの、心からの愛がほしい。でも今この瞬間だけは、僕は兄さんと一緒にいるんだ。
それだけで、少しは救われるような気がしていた。
屋敷に、朝の光と静かな温もりが広がる。
二人の間に漂うのはその愛と孤独、そして欲望と慰めだけであった。
その夜からマコトとミリは、二人だけの世界に生きはじめるのであった。
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