ふくらむ体は愛の印

陽花紫

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愛すべき丸い紳士※

 それから季節は巡り、屋敷の中に夏の強い陽の光が差すころ。

 ロビンはすっかり“丸い紳士”へと変化していたのであった。
 彼自身は時折恥ずかしそうに頬を掻くものの、ヤマはそのようなロビンの姿を見つめて、いつも穏やかな笑みを浮かべていた。

 そのスプーンを持つ指先が少し太くなったのを、食卓の向かい側でヤマは愛おしげに見つめていた。

 ――ソーセージみたいな、指だなあ。あの指を、ずっとしゃぶっていたい。

 そのような下心は健在であったが、ヤマは持ち前の強い心で思わずにやけてしまう口を堅く閉ざしていた。
「今日も、美味しいよ」
 笑うとその白い頬は、ふっくらと波打つ。

 ――パンだ、もちもち春のパン祭りの開催だ!いや、今は夏だな。

 その笑顔を目にするたびに、ヤマの心の奥では抑えきれない感情が燃えていた。
「ロビン様、今日も幸せそうですね」
「君のせいでね」
「俺のせい、ですか?」
「ヤマがあまりに優しいものだから、つい……」
 ロビンは笑みを深めながら、湯気の立つスープを口に運びいつものようにヤマが焼いたパンをちぎりはじめた。
 その姿があまりにも穏やかで、ヤマは思わず言葉をこぼしてしまう。
「その笑顔が見られるなら、俺はいくらでもパンを焼きますよ?」
「……それは嬉しいことだが、私はもっと太ってしまうかもしれないよ?」
「それでも、構いません!」
 ロビンの手の上に自らの手を重ね、ヤマはこう宣言した。
「俺は、あなたの全てが好きですから。……愛しています!」
 ロビンは照れたように息を吐き、そして深く頷いた。
「私も、君を愛しているよ」

 あたたかな陽の光がふたりを包みこみ、窓の外では風がやわらかに葉を揺らしていた。
 その音の中に、ふたりの笑い声がゆっくりと溶けていく。
 丸くなったロビンの肩に、ヤマの頭が寄り添う。幸せとは、きっとこうして膨らんでいくものなのであると。

 夜になり、静まり返った屋敷では、ふたりの寝息が重なっていた。
 窓の外では、月が丸く光っていた。
 ヤマはおもむろに目を開けて、その白い月を見る。

 ――ロビン様に、そっくりだなあ。

 その形はまるで今のロビンのように、大きな愛に満ちて、優しく、包みこむような光でもあった。


***

 まずは話し相手として、そうヤマはロビンの伴侶となったものの次第にその関係は互いに変わっていた。

 初々しいやりとりを経て、いつしか二人には真の愛が芽生えていたのだ。
 婚姻当初は互いにその身を抱きしめることでさえ遠慮をしていたものの、今となっては、ヤマはよくロビンのふくよかな身にしがみついていた。
「ロビン様の体温って、なんだか安心します」
 そのような愛らしい言葉を囁かれてしまっては、ロビンも断ることはできなかった。
 重量感のある腕に、柔らかな腹部、何よりしっとりと全てを包み込むような胸元がヤマの今のお気に入りの場所であった。
「ヤマ、くすぐったいよ……」
「すみません。でも、少しだけ力を分けてください」

 ――はあ、幸せ。ふわふわ雄っぱい、もっちりおなか。それに丸くなったロビン様、なんだか肉まんみたい。

 ヤマは独特な愛情表現の言葉を喉奥へとぐっと押し込み、満面の笑みを浮かべてみせた。
 ロビンもまた、ヤマの黒い髪を撫でながら好きなようにさせてやろうと微笑みを返すのであった。

 そして次第に、そのような触れ合いも深みを増していく。
 最初に頬に向けられていた口づけは、いつしか互いの唇へと交わされるようになる。
 婚姻当初、二人には初夜というものはなかったが、愛に向けて確実にその歩みを進めているようにもヤマには思えていた。

 ――ロビン様の唇、ふかふかだったなあ。もっとしてくれても俺はいいんだけどなあ。でも、紳士だから難しいか。

 時にはもどかしく思いながらも、ヤマはその時を待っていた。
 いつしか夜は同じ寝台の上で眠るようになり、肌を触れ合わす機会も増えていく。

***

 ある日、ヤマはその唇を静かにしかし確かな自信を持って首筋へと降ろしていく。
 ロビンは一瞬戸惑うものの、ヤマの愛を静かに感じていた。
 太い首を経た後は、ふくよかな胸元へ。
 何度かその肌の吸い付きを堪能した後に、ヤマはロビンの顔を見上げていた。
「ロビン様。……もっと、キスをしてもいいですか?」
 ロビンはその言葉に頷き、その太い腕でヤマの身を包み込んだ。
 ついにこの時が来たのだと、ヤマは勝利を確信していた。
 ロビンはその日、常とは異なり多めの酒を飲んでいたのであった。
 普段であればこのあたりでヤマの身を離し、さあ寝ようと口にするところではあったのだが今となってはその判断さえも難しい様子であった。ただヤマの髪を撫で、静かに目を閉じていた。

 ――いける!今日こそは、いけるかもしれないぞ俺!

 ヤマは息が荒くなるのをこらえながら、執拗に腹部に唇を押しあてていた。
 時折舌で舐めとるものの、ロビンは次第に深い眠りについてしまったのか返ってくる反応はなかった。

「えっ、……ロビン様?」

 その問いかけにも、返事はなかった。

 ――さすがに寝てる間に何かするのは、よくないよな?

 ヤマの良心が、わずかに痛む。
「……また、しましょうね」
 顔を上げてかすかな寝息をたてるロビンの頬に向けて、ヤマは何度目かの口づけをした。

 しかし一度火がついてしまったヤマの熱は、収まることをしらなかった。
 何度か自らの手でゆるく扱くものの、その熱は膨らむばかりであった。
 ヤマも男の身であるからして、ロビンに隠れて一人でその処理をすることは日常茶飯事であった。
 しかし近頃は、ロビンと同じ寝台で眠っていたためにその機会は格段と減っていたのである。久々に痛いほどの熱を持つ自らの下半身を見遣り、ヤマは心の中でロビンに深く謝罪をした。

 ――ロビン様、本当にごめんなさい。少しだけ、少しだけその手をお借りします。

 そう白く重みのあるやわらかな手を取り、ヤマは自らの熱を静かに収める。
 両の手でロビンの手を包み込むように支えれば、その熱はさらに張り詰める。
「……っ、やっば」
 思わず本音が漏れてしまい、ヤマは慌てて口を塞ぐ。
 ロビンの前では、常に愛らしく礼儀正しいヤマの姿でいたかったのだ。
 しばらく心を落ち着けた後、ヤマは静かに腰を動かす。ロビンが起きてしまわぬように、時折その寝息を確認しながら手の力をゆるやかに加えてついにはその溜まった精を吐き出した。

 ――だめだ、マジできもちいい!ロビン様、本当にすみませんでした!

 息を殺しながら、全てを何事もなかったかのように拭き取りヤマは眠りについた。

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