乙女ゲームの世界なのに幼馴染の男から告白された俺のハッピーエンドとバッドエンド

陽花紫

文字の大きさ
2 / 2

分岐点

しおりを挟む
 カオルとカズトが交際をはじめて一月ほどが経過したある日のこと、カズトはヒロインであるミユキに呼び出されていた。

 その姿を目にした瞬間、カオルはゲーム補正でカズトの想いがミユキに傾いてしまうのではないかと焦っていた。 
 校舎裏で、ミユキはカズトに向けて想いを伝えていた。
「カズトくんのことが、好きなの……」
 その告白は、まるでシナリオ通りであった。
 しかしカズトは、きっぱりと断っていた。
「ごめん。俺、君のことよく知らないから」
 そしてミユキもまた、諦めなかった。
「よく知らないって……。それなら、これから私のことを知ってほしいの。私はこんなにもカズトくんのことが好きなのに」
「いや、俺他に好きな人がいるから。本当に、ごめん。それじゃ」
 カズトはミユキに背を向け、静かに立ち去った。

 カオルはほっと息をつきながら、カズトの後についていこうとした。
 しかし耳に入った呟きに、思わず背筋を凍らせてしまう。

「攻略対象が落ちないだなんて、おかしいわ……」

 そして、あることを思い出す。
 実はカズトもまた、モブでありながらも隠れ攻略対象であったのだ。
 しかしゲームを何周かプレイしないと、そのルートは開かれない。
 カオルはわずかな不安を胸に押し込めながら、どうかこのまま何も起きないようにと願うばかりであった。

 しかし次の日、思いもよらない出来事にカオルは言葉を失っていた。
 カオルもまた、攻略対象のうちの一人であるレグルスから愛の告白をされていたのだ。
「俺は、お前のことが好きだ」
 レグルスは騎士団長の息子であり、クラスメイトでもあった。
 しかしカオルとの接点は、皆無に等しい。
 誰かの間違いではないのかと伝えると、レグルスはカオルを静かに睨みつけた。
 同じ黒髪黒目であるというものの、レグルスは体格もよくその容姿も整っていた。
「カオルのことが、好きなんだ。どうか俺と付き合ってほしい」
 告白をしているというのに、眉間には深く皺が刻まれ口角は下がっていた。
 カオルはその気迫に怯えながらも、やっとの思いで言葉を絞り出す。

「ごめん。……気持ちは嬉しいんだけど、……その、そういうの、受けられないんだ……」
「ああ!?」
 次の瞬間、カオルの真横に勢いよくその手が押し付けられた。
 いわゆる、壁ドン状態である。しかしそこには、ときめきではなく恐怖が生まれていた。
「この学園にいられなくなっても……、いいのか?」
 それは紛れもなく、脅しであった。
 乙女ゲームの攻略対象にしては、いささか横暴すぎないかとカオルは遠くを見つめていた。
「おい、聞いてるのか?」
「すみません、ごめんなさい!」
 その気迫にいてもたってもいられずに、カオルは静かに逃げ出した。


 二人はそれぞれ断ったはずであった。
 しかしなおも、ミユキとレグルスは諦めなかった。

 気づけば、教室へ行くたびに誰かの視線が刺さるようになる。
 ミユキのファンもレグルスの取り巻きをも敵に回す形となり、カオルとカズトの学園生活は急速に息苦しいものへと変わってしまう。

 そしてある日、二人は同時に決意する。
「……もう、ここにはいられない」
「カズト……」
「逃げよう。カオルと一緒なら、俺はどこでも生きていける」
 学園に退学届を出したとき、両家の親は激怒した。
 家はしばらく荒れたが、それでも二人はその手を離しはしなかった。
 波風を立てない平和な生活が一番だと、互いに強く誓った。

***

 二人は家を離れ、とある小さな町で一緒に暮らすようになる。
 実家からの援助もなく、苦しい日々をおくっていたがそれでも二人はその顔に笑みを絶やさなかった。

 しかしある日、カズトは呟く。
「このままで、本当に幸せになれるのか?」
 二人は働いていたものの、給料も安く蓄えも少なかった。
 そのままでいいとカオルは笑うものの、カズトはそうは思わなかった。
 その身にまとう服も、もう何年も新調していないのだから。

「俺は……カオルにもっと、いい暮らしをさせたい」
 その声は、いつになく弱いものであった。
「カズト……」
 カオルの胸は、ひどく締め付けられる。
 ささやかな幸せは、確かにここにあるというのに。
 しかしカズトの不安も、痛いほどにわかっていた。

 二人はより良い未来を求めて、新たな仕事を探しはじめる。
 しかし、どこも不採用であった。
 魔力量も少なく、なおかつ魔法学園を退学した二人に対して、世間は冷たくもあったのだ。

 そのような中、唯一その身を受け入れる場所をカズトは見つけだしていた。
「魔力の量は問わない、未経験でもいい、若い男大歓迎」
 しかしその場所は、騎士団であった。
 そこにはかつてカオルのことを脅していたレグルスが、今や団長となって君臨しているのであった。
 貼り紙を前に、二人はどうしたものかと腕を組む。
「カズト、もっと他にいい所があるんじゃないのか?」
 カオルはレグルスの記憶を思い出し、わずかにその身を震わせた。
 しかしカズトは、頑なであった。
「給料も、これまで探したどこよりもいい。カオル、俺一人だけでも、入団試験を受けてみる」
「でも、レグルスがいるんだぞ?」
「俺はカオルのためなら、なんだってする」

 そのように門のそばで立ち止まる二人の様子を見かねて、やがて騎士団のうちの一人が声をかける。
「迷うなら、入ってみるといい。試験を受けてみなきゃ結果も出ないし、どうせ厳しい指導についていけなくて、すぐに辞める奴も多いんだ。いい経験くらいにはなるさ」
 その言葉は軽く背中を押すだけのものであり、強要でも脅しでもなかった。
 しかし、今の二人の胸には必要以上に響いていた。
「俺、やってみる」
「カズトが行くなら、俺も行く」
 不安な未来よりも、カズトと離れることの方が怖い。
 その一心で、カオルは一歩を踏み出した。


 入団試験は、あっけないほど残酷であった。
 団員たちの手によって、カオルもカズトもまるで紙のように吹き飛ばされてしまったのだ。
 剣を握ってもその手は震え、魔法陣の描画は遅く、その盾は数秒で弾き飛ばされてしまう。
「不合格」
 試験官は、あっさりと告げた。

「残念だったな。また来いよ!」
 手を振る団員に見送られ、カオルとカズトは互いに顔を見合わせる。
「駄目なものは、駄目なんだな」
「そうだね、でも……いい経験にはなったと思う」
 そこには悔しさよりも、勇気を振り絞って立ち向かった清々しさがあったのだ。
「帰ろう、カズト」
「ああ。今日の夕飯は、何にしようか」
 そのような他愛ない言葉を交わしながら歩き出した、その時であった。

 視界の端に、見覚えのある影が立ちはだかる。
 団長服を堂々と着こなし、黒の髪を風になびかせた男。
 レグルスであったのだ。

「カオル」

 その低い声が響くや否や、カオルに向けてレグルスの腕が伸びる。
「カズト!」
 叫んだ瞬間にはもう遅く、カオルの身は抱えられレグルスによって連れ去られてしまう。
「カオル!」
 カズトもまた慌てて、その後を追いかける。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

転生したが壁になりたい。

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

異世界転生してBL漫画描いてたら幼馴染に迫られた

はちも
BL
異世界転生した元腐男子の伯爵家三男。 病弱設定をうまく使って、半引きこもり生活を満喫中。 趣味と実益を兼ねて、こっそりBL漫画を描いていたら── なぜか誠実一直線な爽やか騎士の幼馴染にバレた!? 「……おまえ、俺にこうされたいのか?」 そんなわけあるかーーーっ!! 描く側だったはずの自分が、 誤解と好意と立場の違いにじわじわ追い詰められていく。 引きこもり腐男子貴族のオタ活ライフは、 王子と騎士に目をつけられ、 いつの間にか“逃げ場のない現実”へ発展中!? 誠実一直線騎士 × 流され系オタク 異世界・身分差・勘違いから始まる リアル発展型BLコメディ。 *基本的に水・土の20時更新予定です。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...