オメガの僕が男娼に堕とされたら、運命の番に囲われて幸せになった話。

マグノリア

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第六章 恋人の正体

(5)アシュリーの覚悟

 男たちの根城ねじろで一晩を過ごして、翌朝、いよいよ人買いに引き渡されることになった。

 アシュリーはまた両手を縛られたが、足は自由だ。
 部屋を出る前、アシュリーの手首を縛ったのはジャックだった。

「傷があると値段が下がるんだ」

 ジャックはぶつぶつ言いながら、縄でこすれて出血しているアシュリーの手足に軟膏なんこうを塗って、両手は背中側ではなく前で縛ってくれた。少しばかり余裕のある縛り方で、こすれて出血している箇所も、それほど痛くない。もちろん、外すことはできないけれど。

 建物の前に、昨日と同じほろ馬車が停まっていた。灰色のフードを目深にかぶった御者が待機している。

 12、3歳の、ベータの少女の姿もあった。アシュリーより先に誘拐されたらしい。愛らしい顔に、涙のあとが光っていて、がたがた震えている。アシュリーは声をかけてあげたかったけれど、男たちの目を引くことをして少女に害が及んではいけないので、黙っていた。

 両手の使えないアシュリーは、今回もジャックにかかえられて馬車に乗せられた。彼は続いて、少女の膝裏に腕を入れて抱え上げる。

 ジャックと少女のほか、5人の男たちが乗り込んできて、馬車は満員となった。アシュリーを捕まえた髭づらの男もいる

 男たちは隣国へ奴隷を売っている組織へアシュリーを引き渡すつもりのようだ。
 アシュリーは恐怖と戦いながら、自分がどうすべきか考えた。

 ジャックが言ったように、運が良ければ、節度ある主人のもとでペットとして、かわいがってもらえるかもしれない。
 しかし、きっとジョナサンには二度と会えないまま生涯を終えることになるだろう。

 ――ここで僕が死んだら、ジョナサンやコメットは悲しむだろうけれど、僕はジョナサン以外の男を知らないまま消えることができる。

 男娼として生きると決めた時点で、誰かにみさおを立てるという発想はそもそもないと思っていたが、性奴隷として売られることを考えたら、堪えがたいと感じた。もう二度とジョナサンに会えないのであれば、せめて、きれいな体のまま死にたい。

 馬車は村の本道を外れて、森を抜ける道を目指している。途中から川沿いに走っていて、森の手前に、大きな川をまたぐ橋がかかっているのが見えた。あの橋を渡るのだ。
 流れの早い川で、飛び込んだら決して助からないと思うけれど、追っ手から逃れる方法は他に思いつかなかった。

 橋にさしかかるまで、あと少し。自分の命もそこまでだと覚悟を決める。心は不思議と、いでいた。
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