再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第4章

165 最大級のパーティー1

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その日の夕方、カールは自宅に帰って俺は森の家に泊まることにした。

今日は一日ずっとクィトの近くにいたから芸素探知はしていない。つまり意外と身体は疲れていなかった。夜が更けても寝られず、俺は飲み物でも飲もうと思って居間へと向かった。

「あら、寝られないの?」

「あ、シーラ。起きてたんだ。」

肩にショールを羽織ったシーラがソファに座っていた。
月明りが部屋に入るおかげで、部屋はそこそこ明るかった。

「シーラ、何飲んでるの?」

「お酒。」

「あははっ!」

紅茶かなと思ったが、温めた葡萄酒だったらしい。

「寒い時や眠れない時に飲むのよ。」

「そうなんだ。俺も一口飲んでいい?」

「いいわよ、はい。」

シーラから葡萄酒をもらい、口を付ける。葡萄酒の他にもハーブのような味がした。予想以上に落ち着く。

「ほんとだ。いいね、これ。」

「でしょ? ふふっ。」

俺は窓に近寄った。窓の外には一面の芝生、木々、そして小川。今はそこに月明りが差しており、影すらできている。とても幻想的だった。この景色は公爵邸では見られない。

「……あなたを避けてるわけじゃないわよ。」

「え?」

俺が振り返るとシーラが優しく微笑んでいた。

「シリウスのこと。昨日は森の家にいて、今日は公爵邸に帰っちゃったでしょ?私とシリウスは基本的にどちらかは公爵的にいるようにしてるの。」

「へぇそうなんだ。なんで?」

「何かあった時、私達のどちらかが公爵の近くにいたほうがいいでしょ?」

シーラがいたずらっ子のように笑った。

「そうだったんだ……あ、でもシリウスが俺を避けてるなんて思ってないよ。俺は何も避けられるようなことしてないからね。」

「ふふっ、そうね」

俺はシーラの向かいのソファに座って、真正面からシーラに聞いた。

「シーラは俺らが昼に話してたことの答えを知ってるか?」

「……今のアグニより知ってる答えは多いと思うわ。けど、一緒よ。あの人はなかなかヒントも答えもくれないから。」

シーラが少しだけ切なそうに微笑んだが、すぐに衝撃の言葉を口にした。

「けど私は記憶を持ってるの。」

「………え? 記憶って……過去の記憶ってこと?え、どういうこと??」

そんなの初耳だ。それに天使の血筋は全員洗礼式で記憶を封じられているはず。なのにどうしてシーラは記憶を持ってるんだ?

シーラは仕方なさそうに肩を竦めて答えた。

「そのまんまの意味よ。私は洗礼式を受けてないの。」

「え?? だって……どうやって洗礼式受けてないのバレなかったのか?」

俺の質問に、シーラの芸素はピリッと張りつめた。表情はリラックスしているようだったが、芸素からは「隠したい」という感じが伝わった。俺はそれを察知し、急いで答えた。

「あ、別に答えたくなきゃいいよ!ただそうか……シーラはそんなことをずっと抱えてたんだな。」

「………ねぇ、アグニ?」

「ん?」

シーラに呼ばれてそちらを向く。シーラは色っぽく、それでいて挑発的な笑顔を見せた。

「あなた、芸素で人の感情を読んでから人の表情を見てるでしょ?」

「え??」

シーラが少しだけ真剣な顔で言った。

「やめた方がいいわ。貴族は心のうちを読まれることを嫌うの。」

指摘された通り、俺は基本的に相手の芸素で感情を判断している。人は興奮している時、芸素が丸く広がり、悲しい時は泥のように重く、攻撃的な時はつんつんしている。そんな風に「芸素の顔」を見て人の感情を判断している。

「え……でも……芸素を読んだ方が本当の気持ちを知りやすいよ…?」

「だからこそ貴族は嫌がるわ。どんなに殺したい相手でも人前では笑顔を保ち続けるのが貴族よ?あなたが芸素を読めるなんてこと、知られたら大変だわ。」

俺が芸素を読めると知ったら、貴族は俺の前では感情を動かさないようにするだろう。それどころが心の内を知られないために俺を避ける可能性すらある。

「そっか……でも不安だよ。みんなどうやって人の気持ちを知るんだ?」

「もう……まだ人慣れしてないのね。」

俺の台詞にシーラはふぅと軽くため息を吐いた。

「皆、あなたのように芸素を読むことができない。だからこそ、相手の顔を見て対話するのよ。わずかな表情の変化を見逃さないように。」

「す、すげぇな。けど表情だけじゃあ相手の気持ちなんてわからないよ……」

俺が萎れた声を出すとシーラが笑った。

「ふふっ。徐々にでいいわ。頑張ってね。あ、芸素の読めることは人に言っちゃいけないわよ?」

「わかった。」

「いい子ね。じゃあ、そろそろ戻るわ。おやすみなさい。」

「あ、うん!おやすみ。」

俺は部屋を出ていくシーラを見て、そしてまた窓の外を見た。相変わらず月明りが眩しい。


少しだけ、夜に出歩いてしまうシリウスの気持ちが理解できた。




・・・・・・





今週の6の日はいよいよ公爵とシャルル大公とフォード大公が主催する最大級のパーティーだ。公爵邸で働く人たちもどことなく慌ただしい様子。何よりも公爵が忙しそうだ。基本的に朝からぶっ通しで誰かに指示を出し、動いている。

俺も何か手伝えないだろうかと思ったが、公爵から『シーラとシリウスが私の邪魔をするのを止めてくれれば、君に心から感謝するよ』と言われた。どうやら2人はこんなにも忙しそうな公爵の邪魔をして遊んでいるらしい。

なので俺は積極的にシーラをダンスに誘い、シリウスとは武芸の練習を行った。ほんの少しだけだけど公爵邸の書類仕事も手伝えたし、とりあえず満足だ。



そして8週目6の日の朝

以前同様、シーラに全身マッサージに付き合わされ(なぜかまたシリウスも一緒)パーティーの準備に入った。
今日着るスーツはまじの一等品だ。なんせ公爵チョイスだからな。

黒地のタキシードでネクタイを付けている。カマーバンドも黒。だがよくわからないけど、布の質が違う。お値段がすごいことはわかる。そしてそんなお高そうなネクタイに、まじでやばそうな値段の宝石を付けている。

紫と透明の宝石を組み合わせた、垂れ下がる花をモチーフにしたブローチだ。輝きすぎて目が痛い。

シリウスに公爵から借りたこのブローチを見せたら、爆笑しながら『これで子爵家程度の家は買えるよ』と言われた。
どうやら俺は全神経を張り巡らせてこの宝石を死守しなければならない地獄のパーティーに招待されたようだ。





・・・





今日の俺は一応主催者側の人間という括りらしいのでパーティー会場には早めに行く。ちなみにシーラは公爵のパートナー役で、シリウスはお留守番だ。

今日の会場の名は、「女神の楽園」。
そして実際、その名にふさわしい美しさだった。

天井と片方の壁は一面ガラス張りになっており温室のようだ。そして夜空に浮かぶ星々の代わりに、天井には無数のシャンデリアと蓄芸石が取り付けられている。

もちろんガラス張りじゃない方の壁も美しい。天空の楽園を想起させるような巨大な絵画があり、壁自体に芸石が埋め込まれ金の装飾が施されている。金の装飾は天使の血筋のみに許されているので、ここの持ち主がシャルト公爵だからこそできる装飾なのだ。

そして特に印象的なのは、会場の中央にある巨大な噴水。噴水中央には天空人の女性を模した石造と色とりどりの花々、そして草木が生えている。そんな石造の周りに美しく軌跡を描く水が飛び交う。ただ水が吹き上がってるだけなのになんだか気品すら感じる。

「ほぉ~~~~………こんな場所がまだあったのか~~」

色んな土地に行って色々見てきたつもりだが、さすが公爵。レべチっすね。

「アグニ!」

呼ばれた方を振り返るとアルベルトとシャルルがいた。彼らも主催者側の人間なので早くに会場入りしたのだろう。

「おー!シャルルとアルベルト!学院の授業がないからすごい久しぶりな気がするな!」

『元気そうでよかった!初めての社交界はどうだ?』

「久しぶりだなアグニ!」

2人の変わらぬ態度に安心する。

「あぁ!なんだかんだ楽しんでるよ。あと……シルヴィアは?」

今日のパーティーは副主催者としてシルヴィア公国もいる。なのでシルヴィアの父ちゃんとシルヴィア自身も早くに会場入りしているはずだ。

『シルヴィア殿はまだ準備中だろう。大公殿は父上たちと一緒にいるのでは?』

「俺たちは参加者に対して歓迎してます感を出して立っておけばいいんだよな?」

主催者身内枠の俺らは来てくれた人に対し、お礼を述べる役だ。けどまぁ基本的にそれらの役目は2人の王子に任せるつもりだ。貴族でも、公爵の本当の身内でもない俺に対し頭を下げる人はいないだろうから。

『ああ。あそこの壇上で待機する。今回はシルヴィア殿が主催者で、シルヴィア大公殿が俺らと同じように来客を歓迎する役だ。気を引き締めろよ。』

そういえば今年からシルヴィアが主催者だった。

「なんだか大変そうだよね……。俺らもそのうちパーティーを主催しなくちゃいけないのか~嫌だな~」

アルベルトの言葉に素直に同意する。公爵を見ていて絶対にやりたくないと心から思った。めんどくさそうすぎる。

『年下の女の子が頑張ってるってのにお前は……』

「やなもんは嫌だよ。な、アグニ?」

「ざんね~ん。俺は貴族じゃないから今後パーティーを主催することはないで~す!」

「なにそれ…!!卑怯すぎる…!!!!!」




・・・・





パーティーが始まった。凄い数の貴族だ。

今日は通常の夜会とは異なり、主催者が一番最後に会場入りする。なぜなら主催者陣の身分が全員高すぎるからだ。

だがすでにこの場にはシルヴィアの父、シルヴィア国王がいる。つまり現時点でも王宮のパーティーと同格の夜会なのだ。そのためか、来場者はみんな緊張しているようだった。


『お、おお……』

「ん?どした?」

壇上の前列にいるシャルルが半笑いで呟いた。目線の先を追うと、そこにはエベル王子がいた。なんか……すごい恰好だ。オレンジと黄色の縦ストライプのタキシードを着ている。道化師のようだが、意外と似合って見える。

「すげぇな……」

しかしエベルも一国の王子。つまり貴族の中でもずば抜けて身分が高い。エベルの入場とともに貴族らが一斉に頭を下げたのを見て、改めてエベルの立場を認識した。



交響楽団の演奏が止まった。主催者の入場が行われるという合図だ。周りもそのことを理解し、ピタリと会話が収まる。

シルヴィア大公が代表として軽く挨拶を行い、再び交響楽団が華やかな曲を演奏し始めた。そしてシルヴィア、フォード大公、シャルル大公、シャルト公爵の順で入場した。それぞれがペアで入場しており、シルヴィアの相手は前に俺に絡んできた取り巻きの男だった。大公らは王妃を連れており、公爵の相手はもちろんシーラだ。

そして……やはりというべきなのか、皆の視線はシーラに向かった。
シーラは美しかった。

アップルグリーンの華やかなドレスに小さな芸石が付いていて、遠目からでもとてもキラキラして見える。他を圧倒する豪華な金の髪も豊かに輝いている。

しかし何よりも目を引くのは、シーラの耳・首・ブレスレットの飾りだ。薄ピンクの巨大な芸石で、周囲にも透明の芸石が付いている。

『シャルトが持っていたのか。』

『……?大公、どういうことでしょう?』

急なシルヴィア大公の一言に反応したのはシャルルだった。シルヴィア大公は真っすぐシーラを見ながら言った。

『あれは「レディ・ピンク」の名称で知られる世界最大のピンクダイヤモンドの芸石だ。』

「『 っ!!? あれがっ!!! 』」


   おっと、なんだそれ。知らねぇな。


たまに起きるこの「俺だけ知らない現象」が発動した。素直に聞き返そうじゃないか。

「あの、それはなんですか?」

俺の質問にシャルルがこっちを向いて説明してくれた。

『レディ・ピンク。大陸の極西に存在したシン公国が所有していた宝石だ。値段が付けられないことで有名なんだ。』

シン公国・・・以前聞いたことがある。確か300年以上前に滅んだ国だ。というか、値段が付けられないことで有名って……激やばじゃねぇか。

『どこにあるのかと度々話題になっていたが……そうか、シャルトが持っていたのか。』


   そ、そんなやっべぇもんなのか。
   公爵の財力えげつねぇ~!!!


しかしシーラも宝石に負けてない。あんなもんを首と耳と手に着けているのに振る舞いはとても「自然」だ。気負う様子がない。もちろん隣にいる公爵もいつも通り平然としている。

なるほどクィトの学費程度で騒がない理由がよくわかった。





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