68 / 180
第2章
64 エール公国
しおりを挟むエール公国
帝都からみて北北東にある国で、帝都や周辺国の食糧を生産している農業国。
そのエール公国の山奥にあるハイセンという村で、大規模な洪水と洪水による土砂災害起きた。
ハイセン村の周辺は小麦の栽培が盛んだった。きっとこの時期には夏前に収穫する小麦の畑が一面に見れたはずだ。
けれど俺とシリウスが見たのは、そこに畑があったのかさえ怪しいと思えるくらい、無惨に散らばった小麦の茎や根や葉、水気がありジュグジュグになった土砂、そして村の人の絶望の顔だった。
「………シリウス。これは相当なものだよな?」
俺は農業には詳しくないけど……
この状況が深刻なのは嫌でもわかる。
『まずいねぇ。全部だめになってる。食べるものも売れるものもなくなったね。』
「そうだよな……」
村の外に一人の老人が座っていたので、俺は彼に近寄り話しかけた。
「すいません、あの……この村、今どうなってるんですか?食べるものとか…ありますか?」
老人は疲れ切った顔を俺に向けていった。
「ないよ。コムギも他の野菜も全部流された。川の氾濫で下の方の町へ行けないから食べ物を買ってくることもできない。援助が来るのもまだ先だ。もうみんな……ぎりぎりだよ。」
「………そうですか……」
川の洪水で流れた土砂が道を塞いでしまって帝都やエール公国軍の救助や食料援助が来るのにはたぶん一週間程度かかるだろうとのことだった。
俺とシリウスは身体強化と芸を使って強行突破してきたが、それは他の人にはできないし、食糧を運ぶ馬車ではなおさら不可能だ。
……よしっ!!
「じゃあ俺、なんか少し獲ってきますね!」
「ああ。………え?なんだって??」
「逆に山の上の方に行って何か狩ってきます!」
「おいおいお兄さん。そんなことしたら危ないぞ。まだ水で土がぬかるんでる。滑って落ちたりしたら大変だ。」
「あ、大丈夫っす。ちなみにこの村、何人くらい人いますか?」
「え、ああ、全部で60人くらいだが…」
「わかりました!行ってきます!」
「え、あ、おい!!」
さぁさ!
今すぐに俺ができることをとりあえずしよう。
腹が減ってはなんとやら、っていうしな。
「シリウス!行こうぜ!」
『えっ、行くの?』
「は?行くに決まってるだろ。」
俺がシリウスにそう言うと、シリウスは不思議そうな顔をして聞いてきた。
『ん~なんで君は助けるの?彼らを』
「え?なんでって……別にそんな理由はないけど。まぁ強いて言えば困ってる人が目の前にいて、俺がそれを助けられるのに動かないっていうのはおかしいかなって思ったっていうか……」
俺が頭を掻きながらそう言うとシリウスは首を傾げた。
『君は目の前の困ってる人は全員助けるの?』
「え?まぁ困ってるなら助けるよ。」
『どこまで?』
「え?」
『どこまで助けるの?』
「…どういうこと?」
シリウスは一層わざとらしく首を傾げた。
『君は彼らのためにどこまで犠牲を払えるの?自分のしたい分だけ?彼らがそれに満足していなくても君が満足になれば、そこでもうそれ以上は助けない?』
「…彼らが必要な分だけ、助けるよ。」
『例えば君が死ぬか、村人一人が死ぬかなら?その一人のために君は死ぬ?』
「は?」
『君のエゴをどこまで通すつもりなのかって聞いてるんだよ。そんな難しい?』
シリウスは無垢そうな顔で聞いてくる。わざとそういう質問をしているのに。
「……そんなんわかんねぇよ。別にどこまで、とか決めてるわけじゃない。俺にできることならする。けど別に俺を犠牲にしたいわけじゃない。だから助ける側と助けられる側がともにプラスで終われるところまで、助けるんだ。」
『ふーん。じゃあまぁ君が飽きたらそこでこの遊びは終わりってことね。』
「………遊び?」
『え?遊びじゃないの?人救いゲーム。「いったい何人救えるのか?!」って、ははっ』
シリウスは楽しそうに歩いていった。
「お前、 何言ってるんだ?」
バカにするにもほどがある。
なんだその言い方?
困ってる人を前によくそんなことを…
「お前。いい加減にしろ。人の命はそんな軽くないんだぞ?」
俺の言葉にシリウスは一瞬理解できないような顔をして、その後、笑い出した。
『あっははははは!!!!君が!!僕に?!人を語るの?!はっははははは!!!楽しいねぇ!君は人の命は重いという。なのに君はそんな命を60個も救う気でいる。あはははは!!!!楽しいねぇ!!!あははははは!!!!』
「ふざけるなよ!!!なんなんだよさっきから!!!やれることを片っ端からやっていけばいいじゃないかよ!そんないちいち考えて物事を難しくして!!何ができるんだよ?!お前は考えた上で助けない方がいいって思うのかよ??!!」
俺の言葉に天を向いて笑っていたシリウスがピタリと止まった。
そのまま俺の方を向き、残忍な笑顔を見せた。
『君は 人を知らない。 そしてそれ以上に自分のことを理解していないねぇ。 芸は自然を動かす以上に人の心を動かす。君の行動が周りにどう見えるのか、それをわかっていない。』
シリウスが俺に向きなおり、真正面から笑顔で告げた。
『わかった。このゲームは君の方向性でいこう。僕も僕にできる事を彼らに最大限してあげよう。僕は「困ってる人を見たら無我夢中で助けちゃう人」だからね。』
どうしてこうも曲がってるんだよ?
なんでそんなに助けたくないんだよ?
けどこいつの力があれば…必ず助かる。
「……………頼むぞ。」
『ああ。じゃあとりあえず60人分、狩ろうか』
・・・・・・
村に三度往復し、その度にクマやイノシシの芸獣、その他野鳥やハーブなどを大量に持って村人たちに渡した。そしてそれらを大量に料理してもらい、星空の下、村人60人とともに騒がしく、楽しく夕飯を食べた。
「アグニ、ミシェル!本当に本当にありがとう!!今日の夕飯は最高だよ!!」
「アグニ!ありがとう!まだ子どもが小さいからどうしようかと思ってたの!」
「こんなにたくさん捕まえて……大変だったでしょう?本当にありがとねぇ…」
「宿として泊まれるのはうちしかないから今日はうちに来なさい!お代なんてもちろん要らないから!!ほんとにありがとねぇ~!」
「いくら金があっても今日食べるものがなければ話にならない。本当にありがとうアグニ、ミシェル!」
村人らは俺らをとても感謝してくれた。この村には芸を使える人は3人ほどしかおらず、そのうちの誰も、狩りをするほどの能力は持ってなかった。だからこそこの村は農業に力を入れていたのだ。
ちなみにシリウスは今ミシェルと名乗っている。
「いえいえ!本当によかったです!もしよければ援助が来るまで、俺らに手伝わせてください!」
「え!!!!! いいのかい……?」
「もちろん!」
村人たちから歓声が上がる。
みんなの顔が明るくなり、希望的な表情に変わった。
この村の村長である年老いた男性が杖をつきながらこちらに近づき、頭を下げた。
「アグニ、ミシェル、本当にありがとう。どうか、援助が来るまで、我々と一緒にこの村を助けてくれ。」
「ああ!!!」
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~
めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。
しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。
そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。
その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。
(スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化!
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした
渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞!
2024/02/21(水)1巻発売!
2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!)
2024/12/16(月)3巻発売!
2025/04/14(月)4巻発売!
応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!!
刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました!
旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』
=====
車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。
そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。
女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。
それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。
※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる