婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空

文字の大きさ
2 / 21

第2話 新たなる聖女さま

 いきなり婚約者と家を失い、私が失意のどん底にいることは紛れもない事実。けれども同時に、ある種スッキリした気持ちもありました。

婚約者であったブリックス様のことは、正直そこまで好きではありませんでした。また、いつも私をないがしろにしてばかりの家族たちも、あまり好きでありませんでした。

だからむしろ、清々しているくらいなのです。幸い今の季節は春です。夜は少し寒い時もあるけど、冬よりはずっとマシなので。

とりあえず、このドレスを初め、売れそうなものは売ってお金に変えてしまいましょう。それを元手に宿屋に泊まりつつ、どこかで働く場所を探そう。仕事を選ばなければ、どこでだって働ける。

ただし、この界隈からは離れた方が良いでしょう。みんな私の顔を知っていると言うほど有名人ではないけれども。どこかで私の情報が漏れて、また面倒なことになると嫌だから。

「そうだわ、神殿に行きましょう」

 これからは私にとって未知の冒険が始まる。きっといばらの道になる。だから、せめて神に祝福をいただければと半ばすがるような思いがありました。まだ日も明るい内なので、私は神殿を目指してテクテクと歩いて行きます。こんなに歩くのは久しぶりだけど、何だか良い気持ちです。いつも家にこもって実務をこなしてばかりいたから。やはり、体を動かすのは心の健康においても良いことなのかもしれません。

「着いたわ」

 久しぶりに訪れたけど、やはりいつ見ても厳かな空気が漂っています。そして、とても美しいです。私は内部に足を踏み入れます。

「おや? あなた様は、もしやバラノン伯爵家のご令嬢ではございませんか?」

 神官さまがおっしゃいます。

「あの、神官さま。ここだけの話にしていただきたいのですが……」

 私は老齢で優しい面立ちのそのお方に、ことのあらましを話しました。それはとても恥ずかしいことですが、誰かに話して楽になってしまいたかったのです。

「それは何と……お気の毒に、と申し上げたら失礼かもしれませんが……」

「いえ、そのお気持ちに感謝いたします。あの、お祈りを捧げてもよろしいですか?」

「もちろんでございます。どうぞ、こちらへ」

 神官さまが案内して下さいます。ステンドグラスの光が温かい場所まで、私はやって来ました。

「では、失礼いたします」

 私は両手を合わせて、祈りを捧げます。もう、過ぎたことは恨みません。これから先、贅沢は望みません。ただせめて、慎ましくも温かい日々を送れますように……と。

『……そなたは清くふさわしい』

 ふと、誰かの囁き声が聞こえました。私はハッとして、辺りを見渡します。

「どうされましたか?」

 神官さまが尋ねて来ます。

「いえ、その……誰かの声がした気がしたのですが……」

「声、でございますか?」

「ええ。でも、気のせいかもしれませんね」

 私は苦笑しながら言います。

『あなたこそ、新たなる聖女にふさわしい』

 またしても、声が響きました。すると、

「あっ、あっ……」

 それまで落ち着いていた神官さまが、動揺した声を漏らします。

「ど、どうされましたか?」

「い、今、私にも聞こえました……」

 声を震わせながら、神官さまは私を見つめます。

「この国は、長いこと聖女さまが不在でした」

「えっ?」

「ですが、先代の聖女さまのおかげで、彼女が亡くなった後も平和が保たれて来たのです。しかし、その効力も失われつつあった今この時において……とうとう、現れて下さったのですね」

 神官さまは涙をこぼして言います。

「あ、あの……」

「皆の者、聞いていたか!? 新たなる聖女さまが、今ここに誕生された!!」

 神官さまが声を響かせると、周りの神職、シスターたちもまた、驚愕の表情となり、涙をこぼします。皆さん、私を取り囲む形で涙を流し続けるのです。

「失礼ながら、改めてあなたのお名前をお聞かせ願います」

「え、えっと……ユリナです」

「ユリナ様……どうか、これから我らを導き、お守り下さい。偉大なる聖女さまとして」

 私は遅れてようやく、彼らと同じくらいの衝撃をこの身に受けました。
感想 10

あなたにおすすめの小説

傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~

たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。 彼女には人に言えない過去があった。 淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。 実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。 彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。 やがて絶望し命を自ら断つ彼女。 しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。 そして出会う盲目の皇子アレリッド。 心を通わせ二人は恋に落ちていく。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

捨てられた私が聖女だったようですね 今さら婚約を申し込まれても、お断りです

木嶋隆太
恋愛
聖女の力を持つ人間は、その凄まじい魔法の力で国の繁栄の手助けを行う。その聖女には、聖女候補の中から一人だけが選ばれる。私もそんな聖女候補だったが、唯一のスラム出身だったため、婚約関係にあった王子にもたいそう嫌われていた。他の聖女候補にいじめられながらも、必死に生き抜いた。そして、聖女の儀式の日。王子がもっとも愛していた女、王子目線で最有力候補だったジャネットは聖女じゃなかった。そして、聖女になったのは私だった。聖女の力を手に入れた私はこれまでの聖女同様国のために……働くわけがないでしょう! 今さら、優しくしたって無駄。私はこの聖女の力で、自由に生きるんだから!

妹の方がかわいいからと婚約破棄されましたが、あとで後悔しても知りませんよ?

志鷹 志紀
恋愛
「すまない、キミのことを愛することができなくなった」  第二王子は私を謁見の間に連れてきて、そう告げた。 「つまり、婚約破棄ということですね。一応、理由を聞いてもよろしいですか?」 「キミの妹こそが、僕の運命の相手だったんだよ」 「そうですわ、お姉様」  王子は私の妹を抱き、嫌な笑みを浮かべている。 「ええ、私は構いませんけれど……あとで後悔しても知りませんよ?」  私だけが知っている妹の秘密。  それを知らずに、妹に恋をするなんて……愚かな人ですね。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!

南田 此仁@書籍発売中
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」  パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。  王太子は続けて言う。  システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。  突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。  馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。  目指すは西の隣国。  八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。  魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。 「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」  多勢に無勢。  窮地のシスティーナは叫ぶ。 「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」 ■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。

虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~

日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。  彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。  一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。