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第2話 新たなる聖女さま
いきなり婚約者と家を失い、私が失意のどん底にいることは紛れもない事実。けれども同時に、ある種スッキリした気持ちもありました。
婚約者であったブリックス様のことは、正直そこまで好きではありませんでした。また、いつも私をないがしろにしてばかりの家族たちも、あまり好きでありませんでした。
だからむしろ、清々しているくらいなのです。幸い今の季節は春です。夜は少し寒い時もあるけど、冬よりはずっとマシなので。
とりあえず、このドレスを初め、売れそうなものは売ってお金に変えてしまいましょう。それを元手に宿屋に泊まりつつ、どこかで働く場所を探そう。仕事を選ばなければ、どこでだって働ける。
ただし、この界隈からは離れた方が良いでしょう。みんな私の顔を知っていると言うほど有名人ではないけれども。どこかで私の情報が漏れて、また面倒なことになると嫌だから。
「そうだわ、神殿に行きましょう」
これからは私にとって未知の冒険が始まる。きっといばらの道になる。だから、せめて神に祝福をいただければと半ばすがるような思いがありました。まだ日も明るい内なので、私は神殿を目指してテクテクと歩いて行きます。こんなに歩くのは久しぶりだけど、何だか良い気持ちです。いつも家にこもって実務をこなしてばかりいたから。やはり、体を動かすのは心の健康においても良いことなのかもしれません。
「着いたわ」
久しぶりに訪れたけど、やはりいつ見ても厳かな空気が漂っています。そして、とても美しいです。私は内部に足を踏み入れます。
「おや? あなた様は、もしやバラノン伯爵家のご令嬢ではございませんか?」
神官さまがおっしゃいます。
「あの、神官さま。ここだけの話にしていただきたいのですが……」
私は老齢で優しい面立ちのそのお方に、ことのあらましを話しました。それはとても恥ずかしいことですが、誰かに話して楽になってしまいたかったのです。
「それは何と……お気の毒に、と申し上げたら失礼かもしれませんが……」
「いえ、そのお気持ちに感謝いたします。あの、お祈りを捧げてもよろしいですか?」
「もちろんでございます。どうぞ、こちらへ」
神官さまが案内して下さいます。ステンドグラスの光が温かい場所まで、私はやって来ました。
「では、失礼いたします」
私は両手を合わせて、祈りを捧げます。もう、過ぎたことは恨みません。これから先、贅沢は望みません。ただせめて、慎ましくも温かい日々を送れますように……と。
『……そなたは清くふさわしい』
ふと、誰かの囁き声が聞こえました。私はハッとして、辺りを見渡します。
「どうされましたか?」
神官さまが尋ねて来ます。
「いえ、その……誰かの声がした気がしたのですが……」
「声、でございますか?」
「ええ。でも、気のせいかもしれませんね」
私は苦笑しながら言います。
『あなたこそ、新たなる聖女にふさわしい』
またしても、声が響きました。すると、
「あっ、あっ……」
それまで落ち着いていた神官さまが、動揺した声を漏らします。
「ど、どうされましたか?」
「い、今、私にも聞こえました……」
声を震わせながら、神官さまは私を見つめます。
「この国は、長いこと聖女さまが不在でした」
「えっ?」
「ですが、先代の聖女さまのおかげで、彼女が亡くなった後も平和が保たれて来たのです。しかし、その効力も失われつつあった今この時において……とうとう、現れて下さったのですね」
神官さまは涙をこぼして言います。
「あ、あの……」
「皆の者、聞いていたか!? 新たなる聖女さまが、今ここに誕生された!!」
神官さまが声を響かせると、周りの神職、シスターたちもまた、驚愕の表情となり、涙をこぼします。皆さん、私を取り囲む形で涙を流し続けるのです。
「失礼ながら、改めてあなたのお名前をお聞かせ願います」
「え、えっと……ユリナです」
「ユリナ様……どうか、これから我らを導き、お守り下さい。偉大なる聖女さまとして」
私は遅れてようやく、彼らと同じくらいの衝撃をこの身に受けました。
婚約者であったブリックス様のことは、正直そこまで好きではありませんでした。また、いつも私をないがしろにしてばかりの家族たちも、あまり好きでありませんでした。
だからむしろ、清々しているくらいなのです。幸い今の季節は春です。夜は少し寒い時もあるけど、冬よりはずっとマシなので。
とりあえず、このドレスを初め、売れそうなものは売ってお金に変えてしまいましょう。それを元手に宿屋に泊まりつつ、どこかで働く場所を探そう。仕事を選ばなければ、どこでだって働ける。
ただし、この界隈からは離れた方が良いでしょう。みんな私の顔を知っていると言うほど有名人ではないけれども。どこかで私の情報が漏れて、また面倒なことになると嫌だから。
「そうだわ、神殿に行きましょう」
これからは私にとって未知の冒険が始まる。きっといばらの道になる。だから、せめて神に祝福をいただければと半ばすがるような思いがありました。まだ日も明るい内なので、私は神殿を目指してテクテクと歩いて行きます。こんなに歩くのは久しぶりだけど、何だか良い気持ちです。いつも家にこもって実務をこなしてばかりいたから。やはり、体を動かすのは心の健康においても良いことなのかもしれません。
「着いたわ」
久しぶりに訪れたけど、やはりいつ見ても厳かな空気が漂っています。そして、とても美しいです。私は内部に足を踏み入れます。
「おや? あなた様は、もしやバラノン伯爵家のご令嬢ではございませんか?」
神官さまがおっしゃいます。
「あの、神官さま。ここだけの話にしていただきたいのですが……」
私は老齢で優しい面立ちのそのお方に、ことのあらましを話しました。それはとても恥ずかしいことですが、誰かに話して楽になってしまいたかったのです。
「それは何と……お気の毒に、と申し上げたら失礼かもしれませんが……」
「いえ、そのお気持ちに感謝いたします。あの、お祈りを捧げてもよろしいですか?」
「もちろんでございます。どうぞ、こちらへ」
神官さまが案内して下さいます。ステンドグラスの光が温かい場所まで、私はやって来ました。
「では、失礼いたします」
私は両手を合わせて、祈りを捧げます。もう、過ぎたことは恨みません。これから先、贅沢は望みません。ただせめて、慎ましくも温かい日々を送れますように……と。
『……そなたは清くふさわしい』
ふと、誰かの囁き声が聞こえました。私はハッとして、辺りを見渡します。
「どうされましたか?」
神官さまが尋ねて来ます。
「いえ、その……誰かの声がした気がしたのですが……」
「声、でございますか?」
「ええ。でも、気のせいかもしれませんね」
私は苦笑しながら言います。
『あなたこそ、新たなる聖女にふさわしい』
またしても、声が響きました。すると、
「あっ、あっ……」
それまで落ち着いていた神官さまが、動揺した声を漏らします。
「ど、どうされましたか?」
「い、今、私にも聞こえました……」
声を震わせながら、神官さまは私を見つめます。
「この国は、長いこと聖女さまが不在でした」
「えっ?」
「ですが、先代の聖女さまのおかげで、彼女が亡くなった後も平和が保たれて来たのです。しかし、その効力も失われつつあった今この時において……とうとう、現れて下さったのですね」
神官さまは涙をこぼして言います。
「あ、あの……」
「皆の者、聞いていたか!? 新たなる聖女さまが、今ここに誕生された!!」
神官さまが声を響かせると、周りの神職、シスターたちもまた、驚愕の表情となり、涙をこぼします。皆さん、私を取り囲む形で涙を流し続けるのです。
「失礼ながら、改めてあなたのお名前をお聞かせ願います」
「え、えっと……ユリナです」
「ユリナ様……どうか、これから我らを導き、お守り下さい。偉大なる聖女さまとして」
私は遅れてようやく、彼らと同じくらいの衝撃をこの身に受けました。
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