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第16話 醜い者たち
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~ブリックス視点~
何だろう、どんどん歯車が狂って行く感覚だ。そんな俺をよそに、馬車は軽快に走って我が家にたどり着いた。とりあえず、落ち込んでいる時間も惜しい。仕事は山積みだ。
「お帰りなさいませ、ブリックス様」
迎えてくれたのは、初老の男。ラコスと言う。父上の優秀な部下だった男であり、今は継続して俺の下に付いてくれている。今何とか事業が回っているのも、この男のおかげだ。
「ラコス、すぐに仕事に取り掛かる。打ち合わせをしたいのだが……」
「ブリックス様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「えっ? 何だ? 手短に言ってくれて」
「今日限りで、やめさせていただきます」
俺は言葉を失った。
「……じょ、冗談だろ?」
「いえ、本気です。旦那さま……あなたの父上に頼まれたので、引き続きこのオメルダ公爵家に務めようと思いましたが……どうしても、あなたに付いて行く気が起きなかったので、やめさせていただきます」
「お、俺が実力不足だって言うのか!?」
「はい」
遠慮なしに頷くラコスを見て、俺はひどく歯噛みをする。
「た、確かに、現状では未熟かもしれない。けど、ここから成長するかもしれないだろ? いや、俺はきっと父上を超える経営者となる。だから……」
「私はもう、人生の折り返し地点です。だから、無駄な時間は1分1秒たりとも過ごしたくありません。ですから、自ら進んで沈みかけの……いえ、もう既に沈没している船に乗り続ける道理はありません」
俺は愕然とした。まさか、そこまで言われるなんて。
「そ、そんなことは……」
無いと強く否定したい。けど、出来ない。この男が優秀だということは俺も肌で感じているから、その言葉には確かな重みと説得力がある。
「……見捨てるのか? お前が長年、世話になったこの家を」
「申し訳ありません。ですが、私がお世話になったのはあなたの父上です。そして、私の判断で新たなる当主であるあなたの手腕を見て、必要であれば見切りをつけても良いと言ってもらいました」
あのクソオヤジめ……
「……分かったよ、もう良いよ。さっさと出て行けよ、目障りだ」
「お世話になりました」
1ミリの悲哀も見せることなく、奴は去って行った。どうやら、荷物は既に発送済みだったようだ。つくづく、デキる男だ。余計に腹が立つ。
「……クソ」
俺は強く壁を叩いた。その時、玄関の扉が開く。
「ただいま~。はぁ、今日もいっぱい買い物しちゃった。ねえ、ブリックス様。そこでボーっとしている暇があったら、運んでちょうだい」
俺は虚ろな目でアメリアを見た。少し前までは、可愛らしくて仕方がない女だった。一緒にいて、いつも楽しいし……いや、でも内心では少し疲れていたのかもしれない。その点、姉であるユリナは一緒に居て、疲れることは無かった。それは、俺が安心をして……
「ねえ、ちょっと聞いているの?」
「……黙れよ」
「はぁ?」
アメリアはしかめ面になる。
「何よ? 仕事で上手く行かないことがあったの? もしかして、それであたしに八つ当たりをするつもり?」
「ああ、そうだよ、八つ当たりだ。けど、お前にも原因がある。お前はちっとも、仕事を手伝いやしない」
「はああぁ? それはあんたが仕事しなくても養ってやるって言ったからでしょうが!」
「言ったよ? 確かに言ったよ? けど、だからって、お前は好き勝手にやり過ぎなんだよ!」
「だって、仕方ないじゃない! 楽しく生きたいんだもん!」
「1人だけ楽しくなるな! このビッチが!」
「はあああああぁ!? この粗◯ンゴミ野郎がああああああああああああああぁ!」
この後しばらく、醜い罵り合いが続いた。
何だろう、どんどん歯車が狂って行く感覚だ。そんな俺をよそに、馬車は軽快に走って我が家にたどり着いた。とりあえず、落ち込んでいる時間も惜しい。仕事は山積みだ。
「お帰りなさいませ、ブリックス様」
迎えてくれたのは、初老の男。ラコスと言う。父上の優秀な部下だった男であり、今は継続して俺の下に付いてくれている。今何とか事業が回っているのも、この男のおかげだ。
「ラコス、すぐに仕事に取り掛かる。打ち合わせをしたいのだが……」
「ブリックス様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「えっ? 何だ? 手短に言ってくれて」
「今日限りで、やめさせていただきます」
俺は言葉を失った。
「……じょ、冗談だろ?」
「いえ、本気です。旦那さま……あなたの父上に頼まれたので、引き続きこのオメルダ公爵家に務めようと思いましたが……どうしても、あなたに付いて行く気が起きなかったので、やめさせていただきます」
「お、俺が実力不足だって言うのか!?」
「はい」
遠慮なしに頷くラコスを見て、俺はひどく歯噛みをする。
「た、確かに、現状では未熟かもしれない。けど、ここから成長するかもしれないだろ? いや、俺はきっと父上を超える経営者となる。だから……」
「私はもう、人生の折り返し地点です。だから、無駄な時間は1分1秒たりとも過ごしたくありません。ですから、自ら進んで沈みかけの……いえ、もう既に沈没している船に乗り続ける道理はありません」
俺は愕然とした。まさか、そこまで言われるなんて。
「そ、そんなことは……」
無いと強く否定したい。けど、出来ない。この男が優秀だということは俺も肌で感じているから、その言葉には確かな重みと説得力がある。
「……見捨てるのか? お前が長年、世話になったこの家を」
「申し訳ありません。ですが、私がお世話になったのはあなたの父上です。そして、私の判断で新たなる当主であるあなたの手腕を見て、必要であれば見切りをつけても良いと言ってもらいました」
あのクソオヤジめ……
「……分かったよ、もう良いよ。さっさと出て行けよ、目障りだ」
「お世話になりました」
1ミリの悲哀も見せることなく、奴は去って行った。どうやら、荷物は既に発送済みだったようだ。つくづく、デキる男だ。余計に腹が立つ。
「……クソ」
俺は強く壁を叩いた。その時、玄関の扉が開く。
「ただいま~。はぁ、今日もいっぱい買い物しちゃった。ねえ、ブリックス様。そこでボーっとしている暇があったら、運んでちょうだい」
俺は虚ろな目でアメリアを見た。少し前までは、可愛らしくて仕方がない女だった。一緒にいて、いつも楽しいし……いや、でも内心では少し疲れていたのかもしれない。その点、姉であるユリナは一緒に居て、疲れることは無かった。それは、俺が安心をして……
「ねえ、ちょっと聞いているの?」
「……黙れよ」
「はぁ?」
アメリアはしかめ面になる。
「何よ? 仕事で上手く行かないことがあったの? もしかして、それであたしに八つ当たりをするつもり?」
「ああ、そうだよ、八つ当たりだ。けど、お前にも原因がある。お前はちっとも、仕事を手伝いやしない」
「はああぁ? それはあんたが仕事しなくても養ってやるって言ったからでしょうが!」
「言ったよ? 確かに言ったよ? けど、だからって、お前は好き勝手にやり過ぎなんだよ!」
「だって、仕方ないじゃない! 楽しく生きたいんだもん!」
「1人だけ楽しくなるな! このビッチが!」
「はあああああぁ!? この粗◯ンゴミ野郎がああああああああああああああぁ!」
この後しばらく、醜い罵り合いが続いた。
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