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第1話

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 夏休み前になると、僕が通っている学校では学校祭が行われる。
 わざわざ暑くなりそうな頃にやらなくてもいいのに――と思うけど、こればかりは何とも言えない。
 学校祭の二日目は一般公開で、生徒の親御さんや進学の参考にしたい中学三年生、それに他校の生徒で賑わいを見せる。
 午前の部のトリを飾った僕たち吹奏楽部の出番が終わり、後片付けを終えてから僕は音楽室でお昼休みを取っていた。
 これが終われば夏休みだ! と思って、頑張って練習した甲斐があった。三年生の引退に花を添えることができたよ。
 僕は先輩が買ってきてくれたチアリーディングチームの焼きそばを手にしながら、スマホに映し出された写真を眺めていた。

柚希ゆずきのやつ、先輩たちと一緒に楽しんでいるな」

 ちなみに、柚希というのは僕の幼なじみで、フルネームは阿部柚希と言う。小さい頃からずっと一緒で、中学校時代に僕がブラスバンド部に入ると言い出したら一緒に入ったのも彼女だ。

「柚希のことはともかくとして、午後はどうしようかな」

 まずはクラスメイトから見に来るようにと声をかけられている軽音楽部のステージとチアの演技披露かな。
 それ以外で見てみたいものは……、行きたくないけど写真部かな――、と考えていた時だった。

「優汰、お前にお客さんだぞ」

 先輩が僕を呼び出している。せっかく考え事をしていたのに、一体誰なんだよ。
 僕は「今、行きます」と声をかけ、席を立った。
 僕に声をかける奴の顔が見てみたい。おかげで午後のプランを考える余裕がなくなったじゃないか。もしアイツだったら、承知しないぞ。

「どちら様ですか」

 やれやれとあきれ返るような声を出しながら引き戸を開けると、僕は誰なのかを確認した。どこかのチビッコプロデューサーのような顔にボサボサした長い髪とくれば、間違いない。

「ユータ、お疲れさん」

 小泉さんこと小泉奏音かのんだ。
 女好きで知られる菅野が来たかと思ったよ。あいつが来たら「帰れ!」と怒鳴り散らす自信はあった。

「なんだ、小泉さんか」
「なんだとは何よ、チアリーダーをやりながらバンドしている可愛いアタシがねぎらいに来たって言うのに」

 小泉さんはチアリーディングチームと軽音楽部を掛け持ちしていて、まさに「名は体を表す」といっても過言ではない。夏の甲子園の予選でも物怖じせずにダンスしていたのが印象に残る。
 果たして、小泉さんの後ろに控えているのは一体誰だろう。……いや、気にするのは後だ。まずは小泉さんの話を聞こう。

「どうしてここに来たんだよ」
「ユータに頼みたいことがあるのよ。軽音楽部のライブの後に、チアの演技があるのは分かるよね」

 もちろんだよ、と相槌を打つと、小泉さんは頷いてから話を進める。

「そこで、ナツ……、いえ、アタシのチームメイトが演技披露で急遽センターを任されることになったのよ。彼女ね、すごく緊張しているのよ。それで、アンタに何とかしてほしいんだけど」
「ちょっと待ってよ小泉さん、何とかしてくれってどういうこと? それに、センターって一体……?」
「センターってのはね、ダンスで重要なポジションを握る役のことよ。それに、何とかしてくれという事情に関しては彼女が説明してくれるわ」
「それで、その『センター』を任されているのは一体どんな子なんだ?」
「一言で言い表すなら、ユータには一生縁がなさそうな美少女、じゃなくて美女、かな。それと……」

 それくらいの美人ということか。ただ、僕には柚希が居るから別に気にはならない。だけど、ここ最近どうも柚希の様子がおかしいんだよな……。
 すると小泉さんは僕の事情を知ってか知らずか、八重歯が目立つ白い歯をちらりと見せながら僕に語った。

「ユータ、アンタはいつも幼なじみのことをいつも話しているじゃない。彼女と知り合っておけば、いざというときに手助けしてくれるかもよ?」
「本当か?」
「ホントよ。アタシを信じなさいって!」

 小泉さんがそこまで言うならば――、そう思った僕は小泉さんの後ろで恥ずかしそうに待機している彼女をじっと見つめた。
 バングスカットにしてある前髪と、尾てい骨の辺りまでありそうな艶々としたライトブラウン寄りの長い髪はポニーテールにして束ねてあった。
 日焼けを知らない透き通った肌。
 そして、僕と同い年とは思えない高身長とモデルのような美しい体形。
 そして、どことなくアイドル歌手を彷彿とさせる垂れ目。
 校内靴のラインの色から僕と同学年だけど、本当にそうなのか? と驚きを隠せなかった。

「こんなにきれいな娘がうちの学校に居たなんて……」

 言葉にならないとは、まさにこのことか。
 何だろう、幼なじみにはときめかなかったのに彼女には一発でときめいてしまった。
 その一方で、小泉さんは連れてきた女子に比べると身長は小さいながらも平均的で、チアをやっているせいもあってかメリハリのある体形をしている。
 そこを除けば、どこかの生意気な飛び級ちびっ子プロデューサーに似ている感じがするな。
 小泉さんが胸張って「美人だ」と明言しているならば、彼女の手助けをしても問題はない、よな。

「……いいけど」

 すると、小泉さんは急に明るくなって、ちびっ子プロデューサーが見せない表情を見せてくれた。

「ありがとう、ユータ! あとは任せたわよ! ほらナツ、オーケーが出たから入った、入った!」

 それから小泉さんはナツと呼ばれる謎の美女を押し付けて一目散に音楽室を後にした。
 任せたって、一体どういうことだよ?

「それじゃあ、俺たちもちょっと離れるから。二人でゆっくり話でもしてくれよ」

 って、先輩方まで出ていくのかよ!?
 そうなると、音楽室ここに残されたのは僕とナツと呼ばれる美女だけか。一体、何を話せばいいんだよ。
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