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第2話
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「いらっしゃいませ! チアリーディングチームの焼きそばとチョコバナナはいかがですか!」
「こっちは野球部の広島風お好み焼きだよ!」
外からは模擬店の店員の声がこちらまで響いてくる。
あの中を柚希は歩き回っているのか。全く、柚希と来たら……。後で様子を聞いておこうかな。
そして、僕とナツと呼ばれている美女は学校祭の喧騒からかけ離れた状況の中に居た。
ご丁寧に席を片付けてある音楽室の中で、僕はお互い床の上に座り込んでいた。暑い中歩き回っている身としては、涼しげな床の感触が心地よい。
「ごめんなさい、いきなり訪ねてしまって。ご迷惑でしたか?」
気まずい雰囲気の中、真っ先に口を開いたのはナツだった。
改めて彼女の顔をじろじろ見ると、欧米人のような長身と均整の取れたプロポーションとは正反対の可愛らしい顔をしている。
愛らしい垂れ目に長く整ったまつ毛、そして柔らかくて男を惹きつける瑞々しい唇。
そこから漏れ出る甘い吐息と、高音と低音のバランスが絶妙な甘い声。間違いない、彼女は十代の美少女だ。
「いえ、そんなことはありません」
僕は彼女の問いかけに対して首を振ったり手を上げたりして答えた。
「そう言ってもらえると助かります。ところで、あなたのお名前は何とおっしゃいますか?」
「優汰です。清水優汰。一年三組です」
「私は高橋奈津美。一年二組です」
えっ、こう見えて一年生なのか、高橋さんって。てっきり先輩かと思ったよ。
「まさか、高橋さんって僕と同い年……?」
高橋さんは笑顔を見せると、軽く頷いた。
信じられない。こんなに背が大きくてセクシーな娘が僕の近くに居たなんて。
高橋さんは僕の顔をしきりに眺めると、「やはり私と同い年だね」と独り言のようにつぶやいた。
僕は中学校時代からずっと刈り上げなしのベリーショートにしていて、高校でもこの髪形を通している。顔はどうかというと、美形寄りでありながら――漫画やライトノベルのキャラクターに例えると――モブキャラっぽくも見える。
高橋さんと僕って釣り合うのだろうか、不安しかないよ。
しかも、二組とくれば女子専用クラスだ。高嶺の花を相手にしているようなものじゃないか!
「どうしたの、優汰君」
「いや、その……、僕と高橋さんって釣り合うのかなって思って」
「そんなことないよ。私たちは同い年同士じゃない、心配する必要ないよ。かしこまって敬語で話す必要ないから」
高橋さんはそう言って、僕の緊張をほぐしてくれる。
女の子は柚希しか知らなかった僕だけど、高嶺の花に見せかけてフレンドリーな高橋さんも実に素敵だ。
「それで本題に入るけど、私はカノンと一緒にチアをやっているの。チアチームは野球やサッカー、バスケの応援だけやっているわけではないってのはわかるかな」
確か、夏休みが終わる頃になると自動車用品の店やコンビニエンスストアに募金箱が設置されるイベントにもうちの学校のチアリーディングチームが出ていることは聞いたことがあるな。
「もちろん。その中には学校祭の演技も含まれている、と」
「そう。もともとは四組の子がセンターをやる予定だったの。だけど、この前足を捻挫してセンターが出来なくなったの。そこで急遽私がやることになったのよ。私って身長が大きいし、それに……、胸も大きいのにセンターなんて無理だよ。それなのに……」
高橋さんはそう僕に不安そうな顔をして話した。
確かに、高橋さんの胸は小泉さんや幼なじみの娘に比べてかなり大きく、そして柔らかそうに見えた。あの胸に飛び込んでみたい。
……イカン、イカン! 彼女の体見ているばかりでは、小泉さんの期待に応えられない――。
『お前はお前らしく自分を信じて歩けばいい! そうすりゃあ必ず道は開けるさ!』
刹那、僕の心に床屋で読んだ漫画のワンシーンが思い浮かんだ。
確かあのセリフって、不器用な生き方をしている主人公の後輩に対する励ましだったはずだ。
今の高橋さんに必要なのは、ぼくがはげますことなんだ。ならば、僕がやることはただ一つ!
「初対面でこんなことを言うのもなんですが……、うまくやろう、なんて思っていませんか?」
僕は高橋さんに問いかけた。
「うん。うまくやらなきゃと考えると、余計緊張してね……。汗がダラダラ噴き出そうだよ」
「でも……」
僕はゆっくりと、少しずつあのセリフを状況に応じて少しずつ口にした。
「あまり深く考えないほうがいいよ。あの子と高橋さんは、まったく同じじゃないから。あの子はあの子、高橋さんは高橋さん。高橋さんらしく、自分を信じて舞台の上で踊ってください。それに……」
「それに……?」
そのあとで僕は、ダメ押しの一言を口にした。
「僕は踊っている高橋さんはすごく綺麗だと思うよ。自分を信じて頑張って」
うわ、何を言っているんだろう僕。こんな恥ずかしいセリフ、よく言えたなぁ。
こないだの夏の甲子園の地区予選会で高橋さんのダンスは見たけどさ! X Japanの「紅」を見事に踊りきっていて、三年生の先輩たちから絶賛されていたのを知っているし! スパッツが見えていたし、スポーツブラだって……!
僕の気持ちを知ってか知らずか、高橋さんの顔が晴れ渡るように明るくなり――。
「ありがとう、優汰君! 私、頑張ってみるよ」
そう言って、高橋さんは飛び切りの笑顔を見せてから僕の手を握った。
高橋さんの手は柔らかくて、温かかった。
「こっちは野球部の広島風お好み焼きだよ!」
外からは模擬店の店員の声がこちらまで響いてくる。
あの中を柚希は歩き回っているのか。全く、柚希と来たら……。後で様子を聞いておこうかな。
そして、僕とナツと呼ばれている美女は学校祭の喧騒からかけ離れた状況の中に居た。
ご丁寧に席を片付けてある音楽室の中で、僕はお互い床の上に座り込んでいた。暑い中歩き回っている身としては、涼しげな床の感触が心地よい。
「ごめんなさい、いきなり訪ねてしまって。ご迷惑でしたか?」
気まずい雰囲気の中、真っ先に口を開いたのはナツだった。
改めて彼女の顔をじろじろ見ると、欧米人のような長身と均整の取れたプロポーションとは正反対の可愛らしい顔をしている。
愛らしい垂れ目に長く整ったまつ毛、そして柔らかくて男を惹きつける瑞々しい唇。
そこから漏れ出る甘い吐息と、高音と低音のバランスが絶妙な甘い声。間違いない、彼女は十代の美少女だ。
「いえ、そんなことはありません」
僕は彼女の問いかけに対して首を振ったり手を上げたりして答えた。
「そう言ってもらえると助かります。ところで、あなたのお名前は何とおっしゃいますか?」
「優汰です。清水優汰。一年三組です」
「私は高橋奈津美。一年二組です」
えっ、こう見えて一年生なのか、高橋さんって。てっきり先輩かと思ったよ。
「まさか、高橋さんって僕と同い年……?」
高橋さんは笑顔を見せると、軽く頷いた。
信じられない。こんなに背が大きくてセクシーな娘が僕の近くに居たなんて。
高橋さんは僕の顔をしきりに眺めると、「やはり私と同い年だね」と独り言のようにつぶやいた。
僕は中学校時代からずっと刈り上げなしのベリーショートにしていて、高校でもこの髪形を通している。顔はどうかというと、美形寄りでありながら――漫画やライトノベルのキャラクターに例えると――モブキャラっぽくも見える。
高橋さんと僕って釣り合うのだろうか、不安しかないよ。
しかも、二組とくれば女子専用クラスだ。高嶺の花を相手にしているようなものじゃないか!
「どうしたの、優汰君」
「いや、その……、僕と高橋さんって釣り合うのかなって思って」
「そんなことないよ。私たちは同い年同士じゃない、心配する必要ないよ。かしこまって敬語で話す必要ないから」
高橋さんはそう言って、僕の緊張をほぐしてくれる。
女の子は柚希しか知らなかった僕だけど、高嶺の花に見せかけてフレンドリーな高橋さんも実に素敵だ。
「それで本題に入るけど、私はカノンと一緒にチアをやっているの。チアチームは野球やサッカー、バスケの応援だけやっているわけではないってのはわかるかな」
確か、夏休みが終わる頃になると自動車用品の店やコンビニエンスストアに募金箱が設置されるイベントにもうちの学校のチアリーディングチームが出ていることは聞いたことがあるな。
「もちろん。その中には学校祭の演技も含まれている、と」
「そう。もともとは四組の子がセンターをやる予定だったの。だけど、この前足を捻挫してセンターが出来なくなったの。そこで急遽私がやることになったのよ。私って身長が大きいし、それに……、胸も大きいのにセンターなんて無理だよ。それなのに……」
高橋さんはそう僕に不安そうな顔をして話した。
確かに、高橋さんの胸は小泉さんや幼なじみの娘に比べてかなり大きく、そして柔らかそうに見えた。あの胸に飛び込んでみたい。
……イカン、イカン! 彼女の体見ているばかりでは、小泉さんの期待に応えられない――。
『お前はお前らしく自分を信じて歩けばいい! そうすりゃあ必ず道は開けるさ!』
刹那、僕の心に床屋で読んだ漫画のワンシーンが思い浮かんだ。
確かあのセリフって、不器用な生き方をしている主人公の後輩に対する励ましだったはずだ。
今の高橋さんに必要なのは、ぼくがはげますことなんだ。ならば、僕がやることはただ一つ!
「初対面でこんなことを言うのもなんですが……、うまくやろう、なんて思っていませんか?」
僕は高橋さんに問いかけた。
「うん。うまくやらなきゃと考えると、余計緊張してね……。汗がダラダラ噴き出そうだよ」
「でも……」
僕はゆっくりと、少しずつあのセリフを状況に応じて少しずつ口にした。
「あまり深く考えないほうがいいよ。あの子と高橋さんは、まったく同じじゃないから。あの子はあの子、高橋さんは高橋さん。高橋さんらしく、自分を信じて舞台の上で踊ってください。それに……」
「それに……?」
そのあとで僕は、ダメ押しの一言を口にした。
「僕は踊っている高橋さんはすごく綺麗だと思うよ。自分を信じて頑張って」
うわ、何を言っているんだろう僕。こんな恥ずかしいセリフ、よく言えたなぁ。
こないだの夏の甲子園の地区予選会で高橋さんのダンスは見たけどさ! X Japanの「紅」を見事に踊りきっていて、三年生の先輩たちから絶賛されていたのを知っているし! スパッツが見えていたし、スポーツブラだって……!
僕の気持ちを知ってか知らずか、高橋さんの顔が晴れ渡るように明るくなり――。
「ありがとう、優汰君! 私、頑張ってみるよ」
そう言って、高橋さんは飛び切りの笑顔を見せてから僕の手を握った。
高橋さんの手は柔らかくて、温かかった。
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