さらさら電鉄

仁科

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謎なる駅舎

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 仕事でこんな田舎の僻地に来たわけだが、なんということか。大雪で移動手段が全てとまってしまった。今日中には東京に戻らないといけないのに、これは痛い。

 俺は限界を迎え、稲穂のない田園道をうろうろしていた。行く宛もなく、革靴に染み入る雪水を、鬱陶しく感じるだけ。一歩一歩がとにかく遅い。遅刻の言い訳はどうしようか。そんなことを考えていた最中さなかだった。

 真っ白な風景から、いきなり出てきた小さな建物。看板には、『さらさら電鉄 始駅』とだけある。おそらく駅舎だろう。なんとも頼りなさそうな駅だが、俺は吸い込まれるように向かっていった。

 中もかなり小さく、路線図には、『始駅』と『終駅』の間に、赤い線が一本引かれているだけだった。そこそこ不思議な光景だが、俺はなんの疑いもなく切符売り場に向かった。

 切符は時代遅れに現金しか使えない作りで、財布から180円を探すのには少し苦労させられた。改札は1つしかなく、金属の部分は全身サビまみれ。おかげで切符がしばらく中で詰まってしまった。

 ようやくホームに辿り着くと、まあ予想はしていたが完全なる無人駅。一体いくら待てば電車が来てくれるのか。雪まみれの世界に凍えさせられるばかりだ。

 広く後方を見渡すが、いくら探せど時刻表は見つからない。ここは本当に駅なのだろうかとさえ疑った。

「お一人ですか?」

 突然の声に、ビクッと肩を震わせる。真後ろから話しかける必要はなかったと思うが、親切そうな声に文句は言えない。俺は声のする方に振り向いた。

 向いた先にいたのは、いかにも駅員な格好をした若い駅員さん。帽子をかぶり、あの青い服を着て、なんというか、駅員なのだ。駅員さんがいるということは、ここは無人駅ではない。それだけはわかった。

「あの、お一人ですか」

 そうだった。お一人ですかと聞かれていた。

「はい、一人ですよ」
「あ、やっぱりそうだったんですね」
「なんで話しかけてきたんですか」
「すみません、珍しくって、つい」

 駅員さんは、何がツボだったのかケラケラしている。自然だが、満面の笑み。ここ最近すっかり見なくなってしまった表情だ。

「いやあごめんなさいね、ここ全然人が来なくってもう毎日暇なんですよ。ここにいると肩が濡れちゃうんで、狭いですが待合室に行きましょうか」
「は、はい」

 よく喋る人だ。よっぽど暇だったのだろう。

 駅員さんの足の向くまま、俺は待合室まで連れて行かれた。ガラス張りの堅い扉に入ると、辺りはより真っ白に感じられた。ともに席につくと、俺は一つ、聞かなければいけないことを聞いた。

「電車はいつくらいに……?」
「電車ですか。結構すぐ来ますよ。10分もあれば」
「十分?」
「ええ、時刻表は無いのですが、お客さんが来るたびに電車も来るんですよ。おかげで僕がほんとに暇で暇で。お兄さんは暇の救いですよ」

 駅員さんは、その後も何かしら話していたようだが、俺はそんなことは聞いてなどいない。また疑問が増えたのだ。
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