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#00【プロローグ】
しおりを挟む俺の目の前には病院がある。
この田舎街には数少ない貴重な総合病院。
その入り口の前に俺はたたずんでいる…。
1時間…。いや、もっと居るのか?
さっきから病院を行き来する人が俺のことを
見て通り過ぎる。
まるで不審者を見るように。
だがそんな事はどうでもいい。
そんな事を気にする余裕が無いほど俺の心拍数は上がっている。
そうだ。今日は彼女に会える…。
いつもの時間まであと2分。
もう行くか…。いや早いか?
そうこう考えているうちに俺の足は自然に動いて入り口の自動ドアを潜っていた。
部屋は2階だ…。
トントンと階段を踏む音が俺の胸の高鳴りを
上げ続ける。
コンコン。
俺は病室の前に着きドアをノックした。
「はーい!」
するとドアの向こうから可愛らしい返事が返ってきた。
「モモカさん、俺です。」
「グーちゃん!?」
ガラッ。
病室のドアを開けた。
病室にはベッドに腰かけた少女がいる。
太ももまで布団をかけていて、手には本を持っている…。
読書中だったようだ。
「グーちゃん また来てくれたの!?」
「えぇ…仕事が早く終わったんでww
あははww…。読書の邪魔しちゃいました…?」
「ううん!ぜんぜん!!
お仕事おつかれさま。」
なんだか癒される。
「よいしょっと」
すると彼女は気を利かせてベッドから降りてこようとする。
「あっ オレがそっち行くんで大丈夫ですよ!」
「ごめんねwありがとう。」
彼女をあまり動かせてはならない。
俺は机の横に折りたたみ椅子を運んで座る。
彼女もベッドに座りながら、2人で机を囲い
向かい合う。
いつも通りだ。
でも…いつまで経っても照れくさい。
この光景は。
「グーちゃん お仕事もあるし
あんまり私のこと気にしなくていいんだよ?」
「いやw モモカさんに会いたくて来てるんで…寧ろ来たいっていうか…。あぁやっぱ
迷惑だったかなぁなんてw…。あはは…。」
「もぉ~!ぜんぜん迷惑じゃないよぉ。
私グーちゃんが来るの本当に嬉しいんだから!!」
彼女はそう言った。そこまで分かりやすく否定してくれるとなんだか照れるなぁ。
「あっそうだ みてみてグーちゃん!
昨日ね、東山先生からプレゼントもらっちゃたの!!ほら!」
彼女はニコニコしながらさっき持っていた本を俺に見せてくれる。花の図鑑だ。
「おっ花の図鑑じゃないですか!
これ さっき読んでたやつですよね!」
「うん!ねぇ いっしょに見よ!」
彼女と一緒に過ごせる事、
それが俺の至福の時間。
だが人間と仲良くする事は本来であればご法度。
なぜなら俺たちにとって人間は敵でありエサであり奴隷の対象だから。
俺は…人間では無い。
魔界から来た。
が…なぜか魔界へ帰れなくなった。
そして“人間の世界”の捕虜となりこの世界で暮らしている…。
俺は…「悪魔」だ。
そしてこの少女。
名前は夏目桃花。
彼女は持病を抱えていて病院で生活をしている。体があまり強く無いので途中退院の時以外はあまり外に出た経験がないという。
一見すると普通の人間の少女だ。
少し茶色がかった髪色をしていて
長さは肩くらいまである。
年齢はこの前聞いたら14だと言っていた。
彼女くらいの歳であれば一般教養を身につけるための教育学校に通うのが普通らしい
…が彼女はあまり学校に顔を出していない。
そう。彼女は普通の人間とは違う時間を過ごしている…。
「あっ!このお花かわいいね!グーちゃん」
嬉しそうに図鑑を眺めながら話してくれる。
彼女はいつもこんな感じで基本テンション高め。
見ていたのはリンドウという花のページだった。
可愛らしいシルエットだが落ち着いた青色をしている。可愛いといっても派手な方ではなくてどちらかというと静かなイメージ。
こういう花がすきなのか?
「あっ 可愛いですね!青い花ってなんか特別感ありませんかw」
「うんうん!特別感ある!w
グーちゃんわかってますねぇww
こうやって気づけばお互いテンションが上がって会話も弾んでいる。
今日も彼女とたくさんの事を話す予定だ。
俺の生活話、最近あった面白いこと 、都市伝説やオカルトの話 、漫画や小説の話 、次読みたい本の話 。そしてたまに出るのが…。
「退院したらグーちゃんと色んなお花、
観に行きたいな!」
「…。そうですね。オレも色々見て回りたいです。」
退院したらやりたい事ことの話…。
彼女との会話はいつも途絶えない。
ただこの退院したらやりたいことの話に限ってはオレはなるべくしないようにしている。
だから今日も話をそらす。
「あっモモカさん他に好きな花ってなんですか?」
「え?他に好きなお花!?
うーん。なにかなー…。」
頰に手をあててじっくり考えている。
彼女のこういう仕草は本当に愛らしい。
なんならずっと見ていたいくらいに。
女の子らしい仕草をするのがすごく惹かれるんだ…。
他の人間の女とはちょっと違う。
きっと彼女の純粋さが自然と仕草になるんだ。
「あっ サクラかな!」
「サクラ!?」
知らない花の名前だ。
「うん。そっかグーちゃんはみたことないんだっけ。これだよ!サクラは木に咲くんだよ。」
彼女はペラペラと図鑑をめくり見せてくれる。ピンク色の花だ。
「あー綺麗ですね!オレも好きです!」
「でしょ!」
共感してもらえたのが嬉しかったのか
ニコニコ笑みを浮かべながら頷いてくれる。
「モモカさんはなんでサクラが好きなんですか?」
「うーん。毎年この窓から見えるからかな。」
病室の窓から庭に生えている木が見える。
この木にサクラが咲くのか…。
「毎年の楽しみなの!
春になるとサクラが咲くんだよ!
グーちゃんにも見せてあげたいな!
ここから見るサクラすごく綺麗なの!」
「そうなんですね! それじゃ来年の春は一緒にここのサクラをみたいですね!」
「うん!」
今は秋と呼ばれ気温が下がりつつある季節。
俺が彼女と出会ったのは初夏。
なので丁度このサクラの木が咲いている所は観ることができなかった。
「グーちゃんと初めてあったのは5月だったよね。」
そうだ…。
もう結構経つのか。
彼女に出会ってから…。
「グーちゃん 初めてあったときのこと
覚えてる!?」
覚えている。
「もちろんです。モモカさん。」
あの頃から、だいぶ俺は変わった…。
「えへへ。」
記憶が…蘇る。
彼女と俺の出会いは
突然に始まったのだ。
「 Satan -サタン-
~モモカと悪魔~ 」
【プロローグ・終】
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